▼ 広告枠 : front-page archive singular : header ▼

染谷将太×岩崎裕介監督「未知のものに挑んでいった方が、生の実感が得られる」。映画『チルド』が描く“終わりのない、ぬるま湯のような地獄”【ウィークエンド・インタビューズ 第59週】

▼ 広告枠 : singular : article-top ▼

▼ WPの本文 ▼

編集部が気になる人に会いに行く連載「WEEKEND INTERVIEWS」。第59週は、7月17日(金)から公開中の映画『チルド』から、主演の染谷将太さんと、本作が長編デビュー作となる監督・脚本の岩崎裕介さんが登場! ジャンプスケアに頼らない緊張感の設計、そして“空っぽな人間”堺をどう生きたのか。同世代のふたりが、恐怖の作り方から現実で出会った忘れられない言葉、若い世代へのメッセージまでを語り合った。

決定的な出来事が起こる瞬間よりも、
それを待つ時間の方が怖い(岩崎)

染谷将太×岩崎裕介監督「未知のものに挑んでいった方が、生の実感が得られる」。映画『チルド』が描く“終わりのない、ぬるま湯のような地獄”【ウィークエンド・インタビューズ 第59週】

舞台は、24時間灯り続ける都内のコンビニ「エニーマート倉冨町7丁目店」。無感動な日々を過ごす店員・堺(染谷将太)、前向きな新人バイト・小河(唐田えりか)、「秩序」に異常なまでに執着するオーナー(西村まさ彦)。同じ商品、同じ挨拶、同じ作業——繰り返される日常が、静かに狂い始める。

岩崎 決定的な出来事が起こるその瞬間よりも、それを待つ時間の方が怖い、という感覚が僕にはあって。歯医者さんで目隠しをされて、「痛かったら言ってください」と言われて「ウィーン」と音が鳴っている状態が一番怖いじゃないですか。来るぞ、来るぞ、来るぞ、と思っている時が最も怖い。実際に来てしまえば、あとはその感覚に身を委ねるだけで、脳みそを使わなくなる。その“脳みそで怖がる”というところにすごく興味があるので、焦らしていく手法が好きなんだと思います。あとは長回しが自分のディレクション的に多くて、好みでもあるので、そこでじわじわとした恐怖を醸成できたのかもしれません。


染谷将太×岩崎裕介監督「未知のものに挑んでいった方が、生の実感が得られる」。映画『チルド』が描く“終わりのない、ぬるま湯のような地獄”【ウィークエンド・インタビューズ 第59週】

岩崎 あまり好きじゃないんです。わっとびっくりさせるのは生理現象なので、集中力を削がれてしまう。お化け屋敷的な感じがあるというか。そこで下駄を履きたくなかったので、何かが起こるシーンでも、明らかに何かが起こりそうな“間”を意図的に作って観客にシートベルトをしてもらう時間を作るようにしていました。

染谷 僕は、“自分が何もない”人としてそこにいたい、と思っていました。撮影に入る前に監督と感覚の話をしていて、空っぽな人間としてそこにいることを体現しよう、と。ただ、それってすごく難しいことなんです。コンビニの店員としての役割がある上で空っぽでいるのも根本的に難しいし、そもそも役者としてカメラの前に立つこと自体すごく意味が生まれる行為なので、そこに意味を持たせずに存在するにはどうすればいいんだろう、と考えながらやっていましたね。

染谷 シンプルに、心拍数を上げないこと。あとは、そこを楽しむことを意識していました。画面上ではおどろおどろしい感じがずっと続いているんですけど、現場自体は岩崎監督がCM制作をする際にいつも組んでいる顔馴染みのメンバーが揃っていて、和やかでお祭りみたいな雰囲気だったこともあり、現場で心拍数は上がらなかったです(笑)。

現実の方が、作られたセリフよりも
真に迫るものがある(岩崎)

染谷将太×岩崎裕介監督「未知のものに挑んでいった方が、生の実感が得られる」。映画『チルド』が描く“終わりのない、ぬるま湯のような地獄”【ウィークエンド・インタビューズ 第59週】

岩崎 結構、取材はしましたね。ネット空間というよりは、いろんな人に取材して、実際に目で見たもの、見聞きしたものがフィードバックされています。マッチングアプリを介して、堺が出会う女性との会話は、自分的にすごく衝撃を受けたことから引用しています。詳しくは本編を観ていただきたいのですが、その中の猫にまつわる話は、ある友人から聞いた内容がほぼそのまま投影されているんです。何気ない雑談の中で、あまりにさらっと語られた話で。「え?」となりました。猫の名前も実際のものを借りているくらいで。「使っていい?」「いいよ」という二つ返事の感じも含めて怖かったんですけど(笑)。

岩崎 でもちゃんと聞いてみると興味深くて。その子は両親がお医者さんなんですよ。「死」が日常的なものだったからか、死生観が幼い頃から内面化されていた子で。そういうこともあるからこういう発言になったのか、と思ったりしました。あとは店長の人物造形なんかも、いろいろ取材して組み合わせています。基本的には、実感ベースで思ったことがセリフになっている感じですね。

岩崎 さっきお弁当を食べたのですが、おかずにホタルイカが入っていると聞いて、「やったー」と思って蓋を開けたら、そのホタルイカと目が合って。それはちょっとざらつきました(笑)。「ここにたどり着いたんだな」というか、俺もやがてこうなるんだな、と。

染谷 自分の場合は、街の中を見ていても、意外に現実の方がドラマチックだなと感じることが多いんです。どちらかというと、現実の方がわざとらしい。だから、現実で起きていることをそのままの温度感でカメラの前でやると、かえってわざとらしくなることの方が多いと思っていて。だから逆に、現実で起きていることはもっともっと冷たくした方が、映画としてはすごく濃厚になる、密度が増す気がしていました。今回は特に堺という役なので、起きることに対してなるべく、冷たく冷たく接していこうと心がけていましたね。


染谷将太×岩崎裕介監督「未知のものに挑んでいった方が、生の実感が得られる」。映画『チルド』が描く“終わりのない、ぬるま湯のような地獄”【ウィークエンド・インタビューズ 第59週】

岩崎 半年くらい前、横浜外国人墓地の前のレストランで撮影していたら、道を挟んで、冬なのに短パンでチャリに乗った、真っ黒に日焼けしたおっちゃんがこっちを見ていて。「撮影? 俺が出た方が早いよ!」って(一同爆笑)。

 それで「いくつに見える?」と聞かれたので「60......」と考えていたら、自分から「75!」と(笑)。そこから絶妙な無言の間が生まれて。「ああ、本当にこの人を出さないといけないのかな、そうしないとこの人帰らないんじゃないかな......」と思っていたら、そのおっちゃんが急に「じゃあ、最初から最後まで頑張れよ!」って言って去っていったんです。

染谷 めちゃめちゃいい言葉。

岩崎 そう、これがめちゃくちゃいい言葉で、ずっと頭に残っていて。最初から最後まで、俺は頑張れてないかもな、と思ったり。ただ、それをそのまま作品にするのも、ちょっと陳腐な気もしてしまうんですよね。

岩崎 やっぱり作られたセリフよりも、真に迫るものがあるんです。その人の言葉って、その人の現時点での集大成じゃないですか。だから作られたセリフよりも、ずっと残っています。そんなふうに落とし込めるものじゃない気もしていて。その人の集大成という感じがしたので、神聖化しちゃいけない気がするというか。

無常の、その先にいる
人間なんだなと思いました(染谷)

染谷 堺は基本的に、たぶん何もかもどうでもいいと思っているんです。自分のことすらも、どうでもいい。ただ、自分のことをどうでもいいと本気で思うと、意外に自分は自分のことを守るんだな、ということを、演じていて本能的に感じました。逆に、周りに対してどうでもよくなくて、自分にも真面目に向き合う人の方が、精神的に自分を守れない恐れがあるんじゃないかと。だから堺は、本当に無の境地にいる、無常のその先にいる人間なんだなと思いましたね。一見まともに見えるし、逃げ方もうまい。けど、そのまともさは、自分からするとあまり人間らしいまともさとは思えなかった。それは演じていて、すごく面白い感覚でした。

染谷 人生を送るという面では共感していないんですけど、“自分をキープするため”という面では共感できる部分がありました。自分の仕事もカメラの前で何かをする仕事で、どうしても不安や緊張を伴うんです。そこで自分をそっちに持っていかない、心拍数を落として冷静にリラックスした状態を自分で作るという上では、堺の感覚は使えるなと。あれを素でいくと本当に恐ろしい人間だと思いますけど(笑)、部分部分でテクニックとして使えたらいいな、という共感の仕方をしています。


染谷将太は、
100点を出し続ける俳優(岩崎)

染谷将太×岩崎裕介監督「未知のものに挑んでいった方が、生の実感が得られる」。映画『チルド』が描く“終わりのない、ぬるま湯のような地獄”【ウィークエンド・インタビューズ 第59週】

岩崎 僕はもう「染谷将太」のファンなので、基本は芝居を見ているだけでした。思う通りにやってくれるんです。最初に役についての話し合いはしたんですけど、堺に対しては「堺はこういうやつです。はい、どうぞ」という感じで。体を明け渡しすぎてピーキーな芝居になっていくけれど、たまに120点が出る、という俳優さんもいるじゃないですか。染谷さんはそうではなく、100点を出し続ける人。その印象がすごくありました。

 具体的に演出したのは、実質1か所だけです。マッチングアプリで相手と会っている時の堺は、1枚“着てる”んですよね。受けのいい男性というペルソナを着ている。でもアダルトチルドレンだから、ちょっと欲望みたいなものは宿っている。という説明をしたら、そこも100点で出してくれた。あと、3人目の女性と会う時には、「ある種、堺ではなく語り部的な存在としてこの場にいてほしい。映画的な演出なんだよね」と、かなり抽象的な言い方をしてしまったんですが、それも100点で理解してくれて。要請されたことに対して最適解を出す。それは作り手や映画そのものへのリスペクトに裏打ちされた精度だなと。ある意味、職人という感じがしました。化け物だなと思いましたね。本当に一緒にできて嬉しかったです。

染谷 マッチングアプリのシーンの時は、監督が一回やって見せてくれたんですよ。それがめちゃくちゃ面白くて(笑)。すごく共感できました。抽象的な演出の時も、たぶんお互い観てきた映画が同じだったり、同い年で世代が近いからこそ似ている価値観があったりで、我々の中では別に抽象的になっていなかったんだと思います。「ああ、きっとここでやりたいんだな」と分かったし、それを自分も面白いなと思いながらやれました。同世代が監督という経験がこれまであまりなかったので、それはすごく嬉しかったですね。

染谷 皆さん、本当に個性の塊でして。自分はわりかし役者としては受け身なので、皆さんのエネルギーをそのまま楽しめばよかったという、すごく贅沢な時間でしたね。本当に皆さん面白くて、怖くてもちょっと愛おしいというか。もはやオーナー(西村まさ彦さん演じる役柄)も、ちょっと愛おしい(笑)。西村さんは、そこまでたくさん喋られるタイプの方ではなくて、わりかし静かに待たれている方なんです。静かに待っていて、急に“あれ”が始まる。やっぱり怖いですよね(笑)。でも現場自体はすごく和気あいあいとしていて、お祭りのような雰囲気でした。


背後を取られている感じがしたら
恐れずに飛び出した方がいい。(岩崎)

染谷将太×岩崎裕介監督「未知のものに挑んでいった方が、生の実感が得られる」。映画『チルド』が描く“終わりのない、ぬるま湯のような地獄”【ウィークエンド・インタビューズ 第59週】

岩崎 今は、自分の世界を作りやすいですよね。エコーチェンバー的に、自分の居心地のいい環境を作って、そこに安住することもできる。だけど、もしうっすらと圧倒的な外部の存在を予感して、それに背後を取られている感じがしたら、もう恐れずに飛び出した方がいい。未知のものとちゃんと挑んでいった方が、生の実感が得られるんじゃないかなと僕は思います。僕にとっては『チルド』を作ったこと自体がそれでした。やばいことになりそうなら、「先に動いちゃおうぜ」と思いましたね。

染谷 『チルド』という映画は、きっと映画を好きな人はもちろん、別にそんなに映画が好きじゃないという方も、劇場で観たら体験としてものすごく楽しめると思うんです。いい意味で、動物感覚で楽しめる映画でもあると思うので、ぜひ劇場に来てほしいなと。それも、「映画だ、映画だ、映画館はいいんだぞ」と押しつけるようなことではなくて。まずは楽しめる作品の入り口としてありながら、観たあとに「やっぱり映画館で映画を観られるっていいな」と思える作品だなと、自分は思ったので。すごく間口の広い一作だと思います。ぜひ劇場に来ていただきたいです。

染谷 将太|SHOTA SOMETANI

1992年9月3日、東京都出身。7歳で子役として活動を開始し、9歳で『STACY』(2001年/友松直之監督)に出演し映画デビュー。『パンドラの匣』(2009年/冨永昌敬監督)で長編映画初主演。『ヒミズ』(2011年/園子温監督)で第68回ヴェネチア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞。主な出演作に『寄生獣』(2014年/山崎貴監督)、『バクマン。』(2015年/大根仁監督)、『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』(2018年/チェン・カイコー監督)、『爆弾』(2025年/永井聡監督)など。2025年NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』、2026年4月期ドラマ『田鎖ブラザーズ』に出演。映画『国境』(井筒和幸監督、原作:黒川博行)では伊藤英明とダブル主演が控えている。

岩崎 裕介|YUSUKE IWASAKI

1993年生まれ。慶應義塾大学文学部卒。2017年東北新社入社、2019年ディレクターデビュー。国内最大級のCMの祭典・63rd ACC CREATIVITY AWARDSフィルム部門にて自身が監督を務めたCMがグランプリを受賞。会話劇を中心とした、静的で異物感のある演出が持ち味で、2024年に自身初の脚本・監督ホラー作品『VOID』を発表し、ロッテルダム国際映画祭など数々の映画祭で入選。長編デビュー作となる『チルド』は第76回ベルリン国際映画祭で国際映画批評家連盟(FIPRESCI)賞を受賞した。

公式Instagram:https://www.instagram.com/iwsk_/

映画『チルド』

24時間、灯り続けるコンビニ。同じ商品、同じ挨拶、同じ作業。繰り返される日常が、静かに狂い始める——。都内のコンビニ「エニーマート倉冨町7丁目店」を舞台に、生の実感を失った店員・堺と、店を支配する異様な「秩序」を描く社会批評的ホラー。第76回ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式招待作品・国際映画批評家連盟(FIPRESCI)賞受賞。

◆出演:染谷将太 唐田えりか 西村まさ彦 くるま 長島竜也
◆テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷、ほか全国で公開中。
◆配給:NOTHING NEW
©︎『チルド』製作委員会 (NOTHING NEW・東北新社)



ブルゾン ¥599,500 シャツ ¥190,300 パンツ ¥418,000(ボッテガ・ヴェネタ|ボッテガ・ヴェネタ ジャパン 0120-60-1966)/For Shota Sometani

Photos:Hiyori Korenaga Hair & Make-up:Hitomi Mitsuno Stylist:Naomi Shimizu Interview & Text:Risa Kawamoto

川本

川本

メンズノンノウェブ編集

メンズノンノウェブエディター。動画制作なども担当。積読が得意。

▲ WPの本文 ▲

ウィークエンド・インタビューズ

さらに記事を表示

▼ 広告枠 : singular : article ▼

▼ 広告枠 : singular : article-center ▼

  • HOME
  • LIFESTYLE
  • インタビュー
  • 染谷将太×岩崎裕介監督「未知のものに挑んでいった方が、生の実感が得られる」。映画『チルド』が描く“終わりのない、ぬるま湯のような地獄”【ウィークエンド・インタビューズ 第59週】

▼ 広告枠 : singular : article-bottom ▼

RECOMMEND

▼ 広告枠 : front-page archive singular : common-footer-under-cxense-recommend ( trigs ) ▼

FEATURE

▼ 広告枠 : front-page archive singular : common-footer-under-feature ▼

▼ 広告枠 : front-page archive singular : common-footer-under-popin-recommend ▼

MOVIE

MEN’S NON-NO CHANNEL

YouTubeでもっと見る

▼ 広告枠 : front-page archive singular : common-footer-under-movie ▼

REGULAR

連載一覧を見る

▼ 広告枠 : front-page archive singular : common-footer-under-special ▼

▼ 広告枠 : front-page archive singular : fixed-bottom ▼