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パルクール・アスリート ZEN 「恐怖心は自分を守るための大切な反応」【ウィークエンド・インタビューズ 第55週】

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編集部が気になる人に会いに行く連載「WEEKEND INTERVIEWS」。第55週は、日本パルクール界のパイオニアとして世界を舞台に活躍するパルクール・アスリート、ZENさんが登場。彼が所属する多国籍クリエイティブチーム「FARANG(ファラン)」は、パルクールを軸に、映像制作やアパレルなど、ジャンルを横断した表現を続けてきた。

“好きな仲間と、好きな場所へ行き、好きなものを作る”。そんなDIY精神から始まったチームは、コロナ禍による活動休止を経て、2026年、新たな形で再始動。

パルクール、仲間、恐怖心、自己成長——。ZENさんの言葉から、そのカルチャーの本質に迫ります。

映画『YAMAKASI』と
YouTubeが育てた第2世代

パルクール・アスリート ZEN

フランスが発祥なんですが、軍隊でのトレーニング・メソッドがストリートへと浸透し、オリジネイターとされる方々が最初のムーブメントを起こしました。それがリュック・ベッソン原案・脚本の映画『YAMAKASI(ヤマカシ)』です。

実際にパリで活躍していたパルクール・チームをモデルとした作品で、自分の身体ひとつでビルをよじ登り、屋上から屋上へと数メートル離れた場所へ舞う姿に世界中が心奪われました。それが起爆剤となり、アメリカやロシアなど世界各地でチームが生まれ、テレビCMや広告ビジュアルにパルクール・アスリートが数多く登場しました。映画のモデルとなったチーム・ヤマカシといったオリジネイターたちが第1世代。その影響を受けて育ったのが、僕ら第2世代ですね。

映画『YAMAKASI(ヤマカシ)』と世界各国のパルクール・アスリートが発信するYouTubeが僕ら第2世代を育ててくれました。僕が属しているパルクールチーム「FARANG(ファラン)」のメンバーは、その第2世代がメインストリームとなっています。僕らなりの思想や考え方、アイデンティティを持ってパルクールという文化を広げていこうと始まったムーブメントだったので、新たにアパレルを始めたり、動画も今までにないアプローチで制作したりしています。

FARANGはメンバー全員がカメラを回して撮り合うんですよ。パルクール・アスリート同士だから画期的な画にも挑戦できるし、納得ができる映像を撮影することができます。一人ではできないことを具現化していくのがチームでパルクールと向き合う醍醐味ですね。

パルクール・アスリート ZEN 2

FARANGというのは、もともとはタイ語で『外国人』って意味。最初からちゃんとしたチームとして始まったわけではなくて。2012年頃、ドイツ人のパルクール・アスリート、ジェイソン・ポールがタイに2ヶ月ぐらい滞在していて、『来れる人はみんな来なよ!』って世界中のパルクールアスリートに声をかけて、そこに集まったんです。

その頃ってまだInstagramもない時代で。YouTubeを通してなんとなく繋がっていた人たちが、実際に会うようになっていった時期でもありました。タイで映像を撮ったり、一緒に練習したりしていたら、現地の人たちが“FARANGが来たぞ”みたいに呼ぶようになって(笑)。じゃあもう、そのままチーム名にしようかって。最初は本当に“架空のチーム”みたいな感じでした。


地球の反対側にも、
気が合う仲間がいた。

パルクール・アスリート ZEN 3

2014年かな。5人めのメンバーとしてFARANG入りしました。ファミリーは世界中にたくさんいるのですが、コアメンバーが4人だった頃、2人めのアジア人メンバーとして加入しました。一人めのアジア人はタイ人。彼はオーストラリアでパルクールをやっていて、タイにベースを戻した感じだったんで、ノリとしては完全にオーストラリア人ですね。

FARANGのメンバーとは、思想で繋がれてい、クリエイティブをする上でのアイデアが近いから、共に信頼できるというか、すぐに意気投合できる。世界ってとても広いじゃないですか。だからこそ本当に気が合う仲間がすぐ近くにいるとは限らない。インターネットを介して距離の壁が無くなったことで、地球の反対側に住んでいる友達ともパルクールで繋がり、密なクリエーションが出来るというのは幸せだと思います。

そうなんです。もともとFARANGって、“好きな仲間と、好きな場所に行って、好きなものを作る”みたいな感覚で活動していました。もちろん、ただ遊んでいるわけじゃなくて、映像もアパレルも、みんな本気でクオリティにコミットして作っていたんですけど、それが先のコロナ禍で一回止まってしまって。

当時はアパレルも少しずつ軌道に乗り始めていて、カルチャーブランドとしてちゃんと数字も出始めていたんです。でも、大きく展開しようとしていたタイミングで世界がロックダウンしてしまい、プロモーションもできないし、世の中的にも“外遊び”を楽しむ空気が薄れてしまった。そこから数年経つとトレンドも変わるし、活動資金も難しくなってくる。メンバーも子どもが生まれたり、テレビの仕事が忙しくなったり、それぞれライフステージが変わっていって、“このまま自然消滅してしまうのかな”って空気も正直ありました。


一度立ち止まったFARANG。
新ステージへ

パルクール・アスリート ZEN 4

やっぱり“もう一度ちゃんと集まりたい”って気持ちはみんなの中にあったんですよね。FARANGリーダーのジェイソンとも別のプロジェクトで会う機会があって、お互いに今やりたいこととか、FARANGを続けたいって話をしていて。その流れの中で、今回、アパレル製作のパートナーとして125年続く日本のワークウェアメーカーのコーコス信岡さんと出会ったんです。

FARANGは、クリエイティブや表現を作ることは得意なんですけど、製造や生産背景の部分はどうしても弱かった。一方で、コーコス信岡さんは長年ユニフォームを作り続けてきた技術やノウハウがある。日本のものづくりらしい丁寧さも含めて、すごく相性が良かったんですよね。今までみたいに全部を自分たちだけで抱えるんじゃなくて、僕たちはパルクールやクリエイションに集中できる。コーコス信岡さん側は、ものづくりの強みを生かして支えてくれる。そういう二人三脚の形で、今回改めてFARANGを再始動できることになったんです。

......親友、ですかね。規模感としては世界中にメンバーがいるんですけど、感覚としては地元の友達に近いんですよ。パルクールの話だけじゃなくて、普通にプライベートの話もずっとできる関係性というか。一緒に同じ趣味をやってる時だけ仲がいい、っていう感じじゃないんです。仕事を一緒にしても、別のプロジェクトをやっても、何か新しい表現をやろうって時でも、同じ価値観で向き合える。そういう意味では、本当に特別な存在ですね。

僕自身、FARANGに入ったことで、かなり価値観が変わりました。5人目のメンバーとして加わった頃って、“どんな大人になりたいか”みたいなものが固まっていく時期だったんですけど、その時期に彼らと出会ったことで、考え方そのものがインストールされた感覚があるというか。最初はFARANGは“天才集団”みたいなイメージだったんですよ。世界チャンピオンもいるし、映像もめちゃくちゃかっこいいし、“なんでも自然にできちゃう人たち”なんだろうなって。

でも実際は、みんなものすごく努力するんです。しかも、“努力してます”って感じじゃなくて、純粋に好きだから探求してる。映像も、写真も、表現も、“もっと良くできないかな”ってずっと研究してるんですよね。自分もそこに追いつきたくて、写真を勉強したり、英語を勉強したり、表現のことを考えたり。彼らと一緒にいることで、自分ももっと高めていかなきゃって自然と思えたんですよね。

パルクールって、結局“自己成長”のカルチャーだと思うので。誰かと戦うというより、自分自身に挑戦し続ける感覚に近い。だから僕は、彼らのことを本当に尊敬しているし、自分も同時に成長していきたいって思える。そういう存在なんです。


パルクール・アスリート ZEN 5

ありますね。そもそもパルクールって、“決められたコース”がない文化。競技として採点される競技パルクールもありますが、本来は“自分が突き詰めたいものを突き詰めていい”カルチャーというか。例えば、筋力を高めたい人もいれば、移動を極めたい人もいるし、体力作りやリハビリ感覚でやっている人もいる。どういう自分になりたいかによって、アプローチが全然違うんです。自分がなりたい姿に向かって、周囲の環境を使いながら一歩ずつ近づいていく感覚に近いんですよね。例えば、イギリス・ブリストル出身のジョーっていうメンバーは、“縦移動”にすごく魅了されているんです。

横移動って、遠くへ飛ぶとか、障害物をスムーズに越えていくとか、どちらかというと脚力を使うイメージじゃないですか。でも縦移動って、ビルの屋上から段々に降りていったり、電柱を掴んで滑り降りたり、立体的に上下へ移動していく感覚なんです。彼はそこをずっと突き詰めていて。

そういうスタイルって、実は国や都市の構造にかなり影響されるんですよ。ポールの形状や強度も国によって違うので、同じシチュエーションを見つけても、“この国のポールは危ないからやらない”みたいなこともある(笑)。建築の形によって伸びるスキルが変わるというか、どんな動きに慣れるかが、そのままスタイルに繋がっていくんです。昔は特に、“国の色”がすごく強かったですね。ロシアだと、森とか自然の中で動く野生的なスタイルが多かったり、イギリスは低い屋上が連なっている建物が多いので、高所移動や横移動が発達していたり。一方でアメリカは、かなりアクションスポーツ寄りなんですよ。サンタモニカのビーチとかで派手な技を練習していたりして。

今はSNSで世界中のスタイルを見られるので、昔ほど国ごとの差はなくなってきたんですけど、当時の映像を見ると、服装も含めて“この国っぽいな”って空気がかなり出ていて面白いんですよね。僕自身、世界中を回りながらローカルの人たちと一緒に生活してきたので、パルクールを学びに行ったというより、その国のリアルなライフスタイルに触れに行っていた感覚に近いかもしれないです。技術を磨くことが旅の目的ではあるんですけど、その前後にある街の空気とか、人とのコミュニケーションとか、そういうものも含めて、すごく大きな経験になっていました。

15歳でパルクールを始めたんですけど、日本にまだパルクールという文化が上陸して間もない時期だったので、施設も無ければスクールも無いっていう本当にゼロの状態でした。それこそ“パルクール”なのか“パークール”なのか、カタカナ表記だとどっち?って問題で揺れてるぐらい創世の時期で。

情報が無いからこそ、学びに行かないと身につかないと思ったので、夏休みを利用して16歳でロサンゼルスに武者修行に行きました。現地のコミュニティに直接コンタクトを取って、パルクールの最前線に飛び込んだんです。その当時は、全然英語を話せなかったですが、世界大会を転々とし、1年の半分ぐらいをロサンゼルスで過ごすようになって、徐々に英語も身についてきました。


「怖いけどやる」は
パルクールじゃない。

パルクール・アスリート ZEN 6

“怖いけど無理やりやる”は無いですね。まず、“なんで怖いんだろう?”って考える。高さに慣れてないのか、フィジカルに不安があるのか、経験不足なのか。例えば、自分の脚力に自信がないなら、その不安を解消するためのトレーニングをする。高い場所が怖いなら、その高さに慣れる練習を積む。結局、“できない理由”を一個ずつ潰していく感覚なんです。だから、解消できていない状態ではやるべきじゃないと思ってます。危険なので。

パルクールって、危ないイメージを持たれることが多いんですけど、実際はかなり安全第一なんですよね。恐怖心を無視すると、逆にパフォーマンスも落ちるし、自分を危険にさらしてしまうことにもなる。そういう意味では、パルクールって“周りの環境を通して、自分の心と体を鍛えていくもの”なんだと思っています。

常に新しいことを学ぶ、それを意識して日々を過ごしています。その一つの取り組みとして、北九州でパルクールのジムを作ったんです。名前は「SEE THE WALL」(シーザウォール)という名前で、その文字通り壁を見ながら、自分自身と対峙するという僕のパルクール哲学に基づいた施設になっています。プライベートなアトリエのようなイメージです。パルクールは競技というよりも生き方みたいなもの。だから現役とか引退とかって考えはなく、常に前に向かって走り続ける。それを体現していく場所になっています。地元の子どもたちにも親しまれるような空間に出来たらいいなと考えているところです。


“好き”は、いつか人生に
繋がっていく。

パルクール・アスリート ZEN 7

実はパルクールしてる時が最高な気分で、リラックスもしてるんです。子どもが三人いるんですが一緒にパルクールするのもいい。極限まで挑戦するパルクールと楽しむパルクール。パルクールにもいろいろな顔があるんです。それを広く知ってもらいたいですね。

自分の好きなことに熱中する時間って、人生の中ですごく貴重だと思うんですよね。それが将来に繋がるかとか、“意味があるか”みたいなことを最初から考えすぎなくてもいいと思っていて。まずは、自分が“これやりたい”って思うことにちゃんと時間を使ってあげることが大事なんじゃないかなって。僕自身も、パルクールを続けてきたことで、“まさかこれがこういう形で人生に繋がるんだ”って思う瞬間がたくさんあったので。だから、自分の中の“やりたい”って気持ちをちゃんと掬い上げてあげてほしいんです。

僕自身、少なくともそういう生き方のシンボルではありたいですね。ありがたいことに僕は今、“好きなことを形にする”っていう生き方をさせてもらっているんですけど、でも本来、人ってやっぱり自分の興味があることじゃないと、本気では頑張れない。絵を描くのが好きなら、描いてる時間って幸せじゃないですか。それと同じ感覚で、そういう“好き”って、ちゃんと人生に繋がっていくものなんじゃないかなって思っています。


パルクール・アスリート
ZEN

1993年、東京都目黒区生まれ。15歳でパルクールと出会い、その魅力に惹かれる。単身ロサンゼルスで哲学や技術を学びつつ、日本国内で普及活動を開始。テレビや映画など多様なメディアを通じてパルクール文化を広め、日本初のプロ選手として全米・世界チャンピオンのタイトルを獲得。現在もプレイヤーとして第一線で活躍し、世界各地での活動を通じて挑戦の魅力と新たな視点を発信している。
公式HP:https://www.zenshimada.com
公式Instagram:zen_pk_official

FARANG OFFICIAL STORE

【FARANG(ファラン)】は、2011年にパルクールを通じて出会った国籍の異なる
7名のメンバーによって発足した、インターナショナル・パルクールコレクティ
ブ「Team Farang」が手がけるアパレルブランド。【FARANG】のウエアは、パルクールという身体実践が求める可動性と耐久性を起点に、Team Farang 自身のライフスタイルを反映して設計されたプロダクトラインを展開する。
https://teamfarang.com

[デニムスタイル]ベスト(EVERYDAY CARRY VEST) $130 Tシャツ $35 デニム(LOOSE JEANS) $80 [セットアップ]ジャケット(LIGHT UTILITY JACKET) $160 シャツ(AIRY SHORTSLEEVE SHIRT) $70 ショーツ(LIGHT UTILITY SHORTS) $100

Photos:Genta Matsuzaki Hair & Make-up:ITSUKI(signo) Stylist:AZUMA Interview & Text:Kohji Ogata

尾方孝司

尾方孝司

エディター

インタビューテーマを主に担当。

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ウィークエンド・インタビューズ

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