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「このマンガがすごい!」選出でも話題。『ふつうの軽音部』漫画家・クワハリの原点を振り返る[僕らをつくった0ページ]

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作品を目にして、「どうしたらこんなものが生み出せるのだろう」と思ったことはないだろうか。当然だが、どんな異才も、脈絡なく〝今〟があるわけではない。その根っこをたどることで見えてくる、初期衝動=原点とは。

あなたの原点は?

漫画家 クワハリ

漫画家

クワハリ

1986年、滋賀県生まれ。学生時代やコロナ禍の経験をもとにしたエッセイ漫画を制作。2023年には『ふつうの軽音部』(インディーズ版)を投稿する。翌年には原作担当として『少年ジャンプ+』で連載をスタート。


クワハリの原点 ずっと聴いている邦ロック

あの頃の青春が、
まだ生きている

漫画『ふつうの軽音部』の1シーン

JASRAC 出 2606126ー601

「このマンガがすごい!2025」に選出され話題を呼んだ『ふつうの軽音部』は、タイトルと裏腹に〝ふつう〟ではない。舞台は高校の軽音楽部。自意識過剰でシャイだが、天性の声質を持つ主人公・鳩野ちひろや、彼女を〝神〟と崇める幸山厘など、ひと筋縄ではいかない人物が登場する。そんな部員たちがバンド活動を通じて交流を深め、ステージに全力を注ぐ様に心を打たれるのだ。音楽と青春が密接に結びついた傑作だが、原作担当のクワハリもまた「人生には邦ロックが不可欠」と話す。

「小学生の頃は盛り上げ役だったけど、中学生から内向的な性格に。根っこが人見知りなんだと思います(笑)。そんな時期に衝撃を受けたのが、椎名林檎のアルバムでした」

 思春期真っただ中で、他人の目が気になる。そんな中で拠り所になったのは、椎名林檎のハスキーで唯一無二な歌声だった。そのまま邦ロックの虜になったクワハリはレンタルCDショップに通い、当時人気だったアーティストを片っ端から聴き始めた。

「高校時代、友達が少なかった頃に聴いたのが、バンド・GOING STEADY。パンクロックは不良が聴く印象だったけど、彼らの曲は僕のためのものだと思えて。〝冴えなさ〟を肯定してくれたんです」


漫画『ふつうの軽音部』の1シーン 2

 大学時代はクラスメートとバンドを結成。ライブハウスで、メンバーが作った曲を演奏した。ステージの中央に立つのが恥ずかしくて、楽器はベースを担当。技術はなかなか上達しなかったが、音楽を通じて交流する時間は紛れもなく青春だった。

「当時よく聴いていたのがフジファブリックの『TEENAGER』。このアルバムは青春を歌った『若者のすべて』など、キャッチーな曲が多くて。でもそのまっすぐさが心地よかったんですよ」

 学生時代を振り返りながら、クワハリは「思えば、青春という言葉がキーワードなのかもしれない」とつぶやく。1年間の会社勤めを挟んで、高校の教員免許を取得。以前から興味があった教職に舵を切った。人生の転機は、それから立て続けに訪れる。

「バンド経験があるからと、人手が足りない軽音楽部の顧問を任されたんですよ。『ふつうの軽音部』の設定や描写には、当時の経験が反映されています。漫画を描き始めたのはその数年後。コロナ禍で毎年行っていたフェスが開催されなくなって『新しい趣味を始めてみようかな』と。土日のどちらかは部活も休みだったので続けやすかったんです」 

漫画『ふつうの軽音部』の1シーン 3

 自身の高校生活をもとにしたエッセイ漫画を描いた後、題材に選んだのは高校の大所帯な軽音楽部の日常だった。インディーズ版『ふつうの軽音部』の連載を、誰でも投稿できる漫画サイト「ジャンプルーキー!」とSNSを中心にスタート。第1話は、自意識過剰な主人公が楽器屋でギターを買うという内容だ。「うまい人の試奏を見て気後れする」などの〝あるある〟がSNSで共感を呼び、『少年ジャンプ+』編集者の目にも留まる。「読切を経ずに連載を決める審査に挑戦しないか?」との異例の打診を受けた。

「僕の画力で商業誌に載せるのは難しいと思う一方で、『こんなチャンスはない』とワクワクしている自分もいて。作画を引き受けてくださる方がいれば、ぜひチャレンジしてみたいと返事をしました。そのタイミングで、教員も辞めることにしましたね」

 設定やストーリーなどをクワハリ、作画を漫画家の出内テツオが担う分業体制で連載スタート。共感性の高いストーリーが魅力だった『ふつうの軽音部』は、かわいらしく表情豊かな絵が加わったことで、単なる〝ふつう〟ではない作品に進化する。

「個性的な登場人物を考えやすくなりましたね。例えば、鶴(亜沙加)という2年生の女の子。かなりぶっ飛んだ性格なので、彼女がいることで物語が想定外の方向に進むようになった。『この人ならどうするか』を考えるのが今は楽しいです」

 ひと癖ある登場人物ばかりだが、誰もが音楽に救われているところは共通している。そして、作中に登場する楽曲の多くが邦ロックなところに、やはりクワハリのルーツを感じてしまう。青春が今も、この作品の中に生きているのだ。

「社会の中で〝ふつう〟じゃない人たちを肯定してくれる気がする。そんな邦ロックの魅力が、『ふつうの軽音部』を通して伝わったらうれしいですね」

 


漫画『ふつうの軽音部』表紙

©クワハリ・出内テツオ/集英社

『ふつうの軽音部』1~11巻

コアな邦ロックを愛する高校1年生・鳩野ちひろと、彼女が所属する軽音楽部のメンバーの日常を描く。『少年ジャンプ+』では毎週日曜更新。最新刊12巻が10月2日から発売中。

Interview&Text:Koki Yamanashi

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