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「小学四年生・跳び箱・コンサート」歌手・折坂悠太氏の原点を振り返る[僕らをつくった0ページ]

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作品を目にして、「どうしたらこんなものが生み出せるのだろう」と思ったことはないだろうか。当然だが、どんな異才も、脈絡なく〝今〟があるわけではない。その根っこをたどることで見えてくる、初期衝動=原点とは。

あなたの原点は?

歌手 折坂悠太 直筆

歌手

折坂 悠太

1989年、鳥取県生まれ。幼少期をロシアやイランで過ごし、2013年よりギター弾き語りを本格スタート。2018年発表のアルバム『平成』でCDショップ大賞を受賞。映画やドラマの主題歌、劇伴など活動は幅広い。


折坂悠太の原点 小学四年生の跳び箱とコンサート

自分は変えられなくても、
環境は変えられる

折坂悠太 横顔

「私は人と関わることに苦手意識を持っています。いまだに誰かと打ち解けるまでには4年くらい必要なんです。今は自分の作品という先立つものがあるから、会話しやすくなったものの、何者でもなかった学生時代は苦労も多かった」

 ジャンルの枠には収まりきらない折坂の楽曲に耳を傾けると、まだ知らない場所へ連れていかれるような高揚感がある。彼の表現の原点は、幼い頃から、そして今もなお通っている〝ある場所〟にあった。

「小学3年生くらいで不登校になったんです。集団で何かをすることが得意ではなく、地元のフリースクールに通い始めました。時間割もなく、生徒の年齢・世代もバラバラ。スポーツをしている子がいれば、絵を描いている子もいる。音楽を始めたのもそのタイミングでした。みんなが運動している最中に、そばにあった跳び箱の上で、テニスラケットをギターに見立て、ずっと歌っていたんですよ。当時流行っていた松浦亜弥の曲を歌いながら、サビに入ると周りも盛り上がったり、逆に試合中に点が入ると、私もちょっと声が大きくなっていったり。それぞれ違うことをやっているけど、なんとなくつながっているような空間が心地よかったんです」


折坂悠太 2

 ただ自由でいられたのはフリースクール内だけで、外に出ると自分の殻に閉じこもってしまう。そんななか、折坂は大胆な決断をする。

「何かを変えて、社会に適応していくというよりも、このままの自分で生きていく道を模索しようと思ったんです。そして殻を破る一歩となったのがスクールの外の世界でのソロライブ挑戦でした。自分の表現が、見ず知らずの人に受け入れてもらえるとはあまり思っていなかったのですが、お客さんの反応から手ごたえを感じることができたのは、大きな自信になりました」

 フリースクールに通いながら、映画館でのアルバイトに励む日々。そこでの出会いも今の創作に大きな影響を与えているという。

「私は他人と音楽を共有できなかったことで、偏った感覚が形成されてきた気がします。自分のことを全く知らない人に音楽を聴かせたときに、『なんでこうなったんですか』と不思議に思われることも多いんです。そしてその偏りに拍車をかけたのが、私がアルバイトをしていた映画館の先輩との出会いでした。『これを聴いたらいい』とCDを貸してくれたことがあったのですが、今考えてもすごく変なんですよ(笑)。例えば、『幻の名盤解放同盟』というユニットが手がけている、発売禁止や廃盤になったレコードをまとめて復刻したアルバム。他にもアメリカの『スーサイド』というグループの、すごくミニマルなリズムの中で、雄たけびを上げるような音楽。どれもとてもカッコいいのですが、同世代で流行しているようなものとは全然違った。でも先輩から紹介してもらったら、やっぱり『いいっすね』と言いたいじゃないですか。それを機に、さらに自分ひとりで音楽を探すようになりました。周りに詳しい友達もあまりいなかったので、YouTubeを観たり、レコードショップに行って試聴したり。いいなと思ったものを、手探りで時間をかけて掘っていきました。たぶん当時AIがあったら、めちゃくちゃ使っていたと思います。『こういう系統の音楽を知るには、何を聴けば理解が深まりますか』と尋ねたら、最適な答えを返してくれますよね。ずっと何者かになりたいという気持ちがあったから、『自分はこのジャンルの人間で、こういう音楽を聴いて、こういうファッションをすればいいんだ』ということを知りたかった。でも、すぐには答えがわからなかったからこそ、ときに遠回りをしながら自分自身と深く対峙できたところもあると思うんです」

折坂悠太 3

 そして「活動当初から憧れていた」という柴田聡子とのセッションが、9月18日公開の映画『さとこはいつも』の主題歌の制作で実現した。今ではアーティストとの共作も彼の強みのひとつになっている。

「私が東京で音楽活動を始めたときには柴田さんは、〝すでにそこにいたスターみたいな方〟だったんですよね。『どうやってここまでたどり着いたのだろう』と不思議に感じますし、だからこそ惹きつけられてしまう。彼女の紡ぐ、切れ味のある言葉にはとても影響を受けてきました。私は誰かと音楽を作るときに、お互いの波長を合わせながらシンクロしていくというやり方は、想像できないんです。それも幼少期の経験からかもしれません。調和をめざすのではなく、ぶつかり合っていく。自分のエゴを出したからといって、その人の個性が薄まったり、台なしになったりすることはない。表現者として相手を信頼しながら、一種の格闘技をしているという感覚を持っています」

 異なる個性をぶつけ合うことで、自分自身の輪郭もまた浮かび上がる。そうして表現を続けてきた折坂はこう振り返る。

「プロになりたいと思ったことは今までで一回もないんです。別にお金が稼げなくても、本業だと思い込んでやるだろうし、一本に絞ってやることが筋が通っているというわけでもない。他の仕事をしていたとしても、創作活動を諦める理由にはなりません。たぶん不登校を経験したことが大きくて、順当な道筋がなくなったからこそ、今の自分にできる表現を大切にしていきたいと思っています」

『さとこはいつも』

映画監督・沖田修一がデビュー20周年の節目に手がけた完全オリジナル映画。有村架純、石田ひかり、姫野花春がトリプル主演を務める。年齢も育った環境も異なる3人の「さとこ」たち。その人生が交差する物語を、ぜひ劇場で。

シャツ¥23,000・パンツ¥19,000/ニゲラ その他/本人私物

Photos:Ren Fujishige Hair&Make-up:Miki Marutani Stylist:Kayoko Nagatomi

メンズノンノ編集部

メンズノンノ編集部

集英社の男性ファッション誌『メンズノンノ』の公式サイト。20代の男性に向けて最新のファッション、美容、ライフスタイル、カルチャー情報などを毎日お届けします。

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