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是枝裕和監督が語る、映画『ルックバック』の季節。

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原作に触れた際、「なぜ自分は作るのか」と考えずにはいられなかったと語る是枝裕和監督。そんな監督が本作で描き出したのは、クリエイターを突き動かす「創作の初期衝動」だ。人はなぜ描くのか、描かなければいけないのか――。作品に込められた真摯な熱量と、その制作の舞台裏に迫る。

映画『ルックバック』のワンシーン

©藤本タツキ/集英社 ©2026 K2 Pictures・集英社

秋田県にかほ市を舞台に、実写映画『ルックバック』の撮影が始まったのは2025年の冬。このカットは藤野(出口夏希)・京本(蒔田彩珠)がコンビニに向かう象徴的なひと幕より。しんしんと降り積もる秋田の雪に圧倒されながら、撮影は行われた。

 

4つの季節の中で、4人の女の子を撮る

2018年に『万引き家族』でカンヌ国際映画祭パルム・ ドール(最高賞)を受賞。その後も『ベイビー・ブローカー』(22年)、『怪物』(23年)、『箱の中の羊』(26年)が同映画祭に出品されるなど、国内外で高く評価されている是枝裕和監督。是枝監督と『ルックバック』との出会いは、京都からの新幹線の帰り道、品川駅の本屋に平積みされていた表紙に惹かれて、思わず手に取ったことから始まる。

「事務所に戻って、そのまま一気に読みました。衝撃でしたね。藤本(タツキ)さんは、これを吐き出さないと死んじゃうんじゃないか、もしくは吐き出さないと次が描けないんじゃないかというぐらいの覚悟を感じました。業種は違えども、作り手であれば、これを作らないといけないという宿命的な作品はきっとみんなあって、藤本さんにとってのそれが『ルックバック』であり、この作品を通して勇気づけられた作り手はたくさんいると思います。自分はなぜ作るんだろう、ということをもう一度立ち止まって考えさせられる、そんな稀有な体験でした」

この時点では映画化の話は何もなかったが、あるとき、プロデューサーの仲介で原作者の藤本さんと会う機会があり、そこから具体的に話が動き出した。映画を撮るにあたって、是枝監督がまず考えたのは、4つの季節の中で、4人の女の子を、藤本さんの故郷でもある秋田県にかほ市で撮るということだった。

「最初の段階ではそれくらいしか決めていなかったと思います。あとは、原作で省略されている部分を説明的にならずにどうやって膨らませていくかということですね。だって、違うクラスの生徒に卒業証書を持っていけというのはよく考えると異例で、それをやらせるということは絶対に何か担任の先生にも思惑はあるわけです。だとすれば、そこは多少補強しておいたほうがいいし、作中で描かれる『メタルパレード』や『シャークキック』も、あれだけで終わらせるのではなく、2人で漫画を描いている時間の中で、どういうふうに作られて、どう上達していくのかということをちゃんと見せたほうがいい。別に長くしようと思ったわけではなくて、実写にしたときに、あの2人が肉体と声を持って現れると、省略では済まない部分が出てくるんですよね。ほかにも、原作の中でちょっとだけ藤野の家族が登場しますが、いるのであれば、自分の娘が漫画を描くことをどう見ていたのか、そのことをまなざしとして残したほうがいい。周囲の大人の目を少しずつ膨らませることで、少女を見つめる観客の目線を誘導していくことが必要だと思ったから、そこは意識してやりました」

漫画の腕に絶対的な自信を持つ藤野と、彼女に憧れを抱きながらも圧倒的な画力を秘めた京本。漫画へのひたむきな熱量で結ばれた2人を、ある日思いもよらない出来事が襲う。主人公となる藤野と京本を出口夏希と蒔田彩珠、それぞれの子ども時代を七瀬ふうりと岡田六花が演じ、是枝監督みずから「完璧なキャスティングだった」と話す4人の繊細かつ瑞々しい演技は必見だ。


映画監督の是枝裕和

「出口さんは『舞妓さんちのまかないさん』(23年)で初めて一緒になって、当時はまだお芝居をすることへの戸惑いというか、ちゃんとお芝居をしようと思って出てきてしまった感情とどう向き合ったらいいのかわからないみたいな状況もありましたけど、それから作品を重ねることで、相当自信もついただろうし、すごく成長したなって思います。なのに、天真爛漫なところは変わっていなくて、そこが魅力ですよね。蒔田さんは以前から僕の作品によく出てもらっていて、彼女を京本にと考えたのは、とにかく役者として優秀なキャッチャーなんです。ちゃんと受けて投げ返せる。藤野が暴れん坊だから、それを受け止めて、少ない動きの中でいろいろなものを見せられる子がよかったので、京本役はぴったりだったなと思います。田んぼ道で2人が別れる場面では、最初は藤野が攻めているんですけど、それに対して京本は動じなくて、だんだんと藤野がたじろいでいく。京本の内に秘めた強さみたいなものが見事に表れていて、あれはいいシーンになったと思っています」

そして、子ども時代を演じた2人もすばらしい。二度と戻らないかけがえのない時間を過ごす2人の少女のきらめきが画面の中で躍動している。

「七瀬さんはこれが初めてのお芝居だったこともあって、台本は渡さずに現場で口伝えで演出していきました。セリフを渡すと、『じゃあ、監督出てって』と言われて、セットから追い出されるんです。『できあがったら呼ぶから』って。そんなこと言われたのは初めてでした(笑)。そのあたりも藤野のイメージとぴったりでしたね。いざ撮影が始まると、ちゃんと仕上がっていて、勘もいいから、ちょっとした表情の違いとかも自分で考えてアレンジしてくる。そこはすごく役者だなと思いました。岡田さんは、言葉で説明するのは難しいんですけど、この子は台本を渡したほうが表現力が上がるなと思ったので、渡しました。彼女は、ちゃんと育つ環境が整えば、役者として伸びると思います。現場で撮っていても、もっと撮りたいな、もっと撮りたいなと思わせる魅力がある。実際、そうやって彼女のシーンは当初の予定よりも増えていきました」

 

インスピレーションの源は
偶然出会った白鳥

漫画を描くことに情熱を注ぐ少女たちの成長と喪失の軌跡が、春夏秋冬の風景の中に美しく刻まれた本作。数々の撮影の思い出がある中で、特に印象に残っている出来事は白鳥が撮れたことだという。

「にかほ市は白鳥の飛来地でもあるので、ここで育った藤本さんはきっと白鳥を見ているはずだなとロケハンのときに何となく考えていたんです。そうしたら最初のほうの撮影で、出口さん演じる藤野が歩いて家に帰るとき、下手から飛び立った白鳥が目の前を通って、飛んでいくのが撮れてしまった。これは生かそうということで、たくさん白鳥を撮って、いろいろな形で脚本に埋め込んでいきました。映画作りにおいては、こういった偶然から何かが生まれて発展していくことが楽しいし、大事なことだと思っています。ただ歩いているだけよりも、周りにある池とか田んぼとか白鳥とか神社とか、そういうものの中でシーンが展開できたほうが、人物がちゃんと息づいているように見えて、圧倒的によいものになる。今回はいつもより現地密着型のスタートで、ロケハンをしながらシナリオを書いていく感じだったんですけど、そのおかげでとても豊かなものが映し出された作品になったと思います」

 

映画監督

是枝裕和

1962年生まれ。主な監督作に『誰も知らない』(2004年)、『歩いても 歩いても』(08年)、『そして父になる』(13年)、『海街diary』(15年)、『怪物』(23年)、『箱の中の羊』(26年)など。

Photos:Hideaki Hamada Interview&Text:Masayuki Sawada

メンズノンノ編集部

メンズノンノ編集部

集英社の男性ファッション誌『メンズノンノ』の公式サイト。20代の男性に向けて最新のファッション、美容、ライフスタイル、カルチャー情報などを毎日お届けします。

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