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前回紹介した『ポンヌフの恋人』に続き、ちょっと強烈な恋愛映画を(笑)。この『パンチドランク・ラブ』は、何度も米アカデミー賞をにぎわせてきた、ずっと観たいと思っていたポール・トーマス・アンダーソン監督(通称PTA)の作品です。今年も『ワン・バトル・アフター・アナザー』で作品賞など6部門を受賞しましたが、基本的に長い作品が多いので、それがハードルでもあって。でも本作は90分強という見やすさで、本当にスッと観られました。


写真:Everett Collection/アフロ
主人公のキャラクターが強烈で特異。
かなり刺激強めの恋愛映画です!
色使いの面白さ、おそらく様々な意味が込められているメタファー(隠喩)——例えばハーモニウム(オルガンの一種)の使い方や、衣装の色使いなど、至る所にこだわりが感じられて面白い。特に、ポスターになっている逆光のキスシーンは、映し出される影がめちゃくちゃ綺麗で、実際とても素敵なシーンでした。とはいえ心に沁みる映画というよりは、かなり刺激強めの恋愛映画(笑)。主人公のバリーも、だいぶ強烈で特異なキャラクターです。
冒頭から、(スーパーの)レジの音などが爆音で入ってきて、バリーがマイレージのためにプリンを買い溜めする話から始まります。その後、会社に戻ったときのピンクオレンジの空の色が本当に美しいんです。「あぁロサンゼルスの色だなぁ」と見惚れていたら、暴走して来た車が目の前でクラッシュし、その直後にトラックが来てバリーの会社の前にハーモニウムをボンと置いていく。もう、カオス感がヤバくて思わず呆然としました。

それは、これからはじまる恋愛の突発性を、不条理な出来事を連続して見せているのかな、と。呆然とする事態はまだ続き、仕事中にお姉さんからひっきりなしに電話が掛かってきたり。しかもお姉さんが何人もいて、代わる代わる掛けてきては、相槌を入れる間もないくらいマシンガントークを繰り広げるんです。こっちまで、頭が痛くなるくらい。
さらに会社で棚が壊れたり、ダンボールを積もうとしたら崩れたり、カオスが連続して。バリーが混乱し、感情をどうコントロールしていいか分からないパニック感が、僕にもすごく分かりました。だって、あんな状況、僕も絶対に嫌ですもん。
バリーは、リナという女性が車修理をお願いしに来た時、反射的にパッと隠れるんですが、お姉さんたちの影響を考えると、女性恐怖症になる気持ちも、よく分かる(笑)。ただ、いくら何でもハンマーでガラスを叩き割る行為は、理解し難いですけどね(笑)。
女性恐怖症のバリーが、いざ恋に
振り切ったときのスピード感!
家族の誕生会に行くと、お姉さんたちが寄ってたかってバリーをからかう。それが本当に僕もイヤで、その時はバリーがガラスを割りたくなる衝動も分からなくなかった。ただその後、シレっと「僕じゃない」と平気な顔でトボけたのは......可笑しかったです(笑)!
そんなバリーだからこそ、(リナとの恋愛に)振り切った時のパラメーターの跳ね上がり方は尋常じゃない! 突発的な出会いに始まり、リナと「ご飯に行きましょう」となるスピード感や、その後のテンポ感もとても心地良かったです。

そうして訪れたレストランで、「誰にも言えないけど、実はプリンを買ってマイルを溜める裏技がある」と、スパイみたいに重大な秘密だとリナに話すのも面白くて。最初はいいムードだったのに、ある瞬間、破壊衝動を抑えられなくなってしまうんですよ。それで案の定、レストランを追い出されてしまうのですが、レストランを出たら道に停まっていた大きなトラックが、異様にキラキラ輝いていて。バリーの気持ちが「恋愛キラキラモード」に突入したと、その光が表現しているんだな、と。音楽もロマンチックで良かったです。
実はそれ以前、バリーは“テレフォン詐欺”に遭っている、そのトラブルも一つの大きな軸になっていて、プリンとマイレージ、家族のしがらみ、恋のはじまりなどと並行して語られていきます。そういうバラバラの要素が、一つのストーリーの中に練り込まれ、すごく緻密な脚本の作り込みがされていました。それらが後半に向けて、絡み合って展開していく様にワクワクしました。

ハワイ出張に行ったリナをバリーが追いかけていくのですが、公衆電話からリナの滞在するホテルを頑張って探そうとするんですよ。ようやくリナ本人に繋がった瞬間、テレフォンボックスの照明がパッと明るく光る演出も、可愛くてステキでした。その時にバリーが、「結婚していたの?」と聞いたら、リナが「していた。でも離婚した」とサラッと答えるのですが、予想外の答えにバリーがキョドってしまう姿にも、不自然さの欠片もなく素晴らしかったです。ボーっとしている姿だけで心情が察せられて、もうバリーそのものになっていてスゴイなって思いました。
演じるアダム・サンドラーさんが、急ハンドルを切っても決して体勢が崩れない名運転手のようでした。恐怖の波とコミカルさの波の切り替えがすごいんですよ。そういうのって簡単そうに見えて、決して簡単ではない表現だなと思いながら観ていました。
ポール・トーマス・アンダーソン、
実はアドリブも好き?
もう一つ「おお~!」と思ったのが、公衆電話の場面もそうでしたが、他にも冒頭で社員が出勤してくる場面でも、カメラの前をエキストラさんが絶妙なタイミングで横切るんです。逆光のキスシーンも同様に、そういうエキストラさんの使い方や動かし方が、めちゃくちゃ丁寧だな、と。普通はセリフの邪魔をしないように、むしろ画面から人数を減らすことが多い。でも本作は、遠慮なく画面を横切らせている。その配置やタイミングを、すごく計算していると感じました。
一方で、PTAってアドリブも好きなのかな、とも思って。すべてが緻密に計算されているけれど、例えばバリーが会社の吸い殻入れ(スタンド灰皿)の壊れた部分をずっと持ったままだったり、受話器の紐を垂らしたまま走っていったり。普通はしないような行動をさせていて、意図したものか否かは分からないですが、僕にはアドリブを繋げているように見えて、それも映画の自由さだなと思ったりしました。
インパクトが強い映像も多く、画作りの力が凄まじいし、バリーがバンと殴ったときに手から血が出るシーンでは、血の跡が「LOVE」という文字になっている遊びがあったり。サイケデリックな色が抽象的な絵や模様みたいに流れ込んでくるシーンでは、僕は思わず『素晴らしき哉、人生』の星たちが喋るシーンの光を思い出したりしました。

客観的に見たらバリーは結構、嫌な奴でもあるけれど、彼の情熱は本当にスゴイ。「人生で一度きりの恋愛をしている、今の俺は無敵だ!」と詐欺師に啖垢を切るシーンがありますが、そんなキザで熱い言葉を真っ直ぐに言えるのも、スゴイなと。それが「恋愛がもたらしてくれるパワー」でもあるんだな、と思いました。
「人生には、こんなことが起きる」という提示の仕方が、とても素晴らしい。ターニングポイントになるブースターのような出会いが突発的に訪れる面白さが、本作には詰まっています。だから「こんな変な奴、イヤだな」で終わらせず、一歩俯瞰して「可愛らしい映画だな」と観てもらえたら嬉しいです。キラキラした王道の恋愛ものの合間に、本作のような癖があり過ぎる恋愛映画を挟むのも良いものですよ!

映像や撮り方がとても魅力的な本作ですが、僕は今回、編集の面白さに目を引かれました。例えば、ホテルの廊下を手を繋いで歩いていく2人の後ろ姿を映し出す映像が、段々と丸く小さくなっていって、最後は2人の手だけを映していたり。
それってフィクションだから出来る演出や編集というか。バリーの狂気と紙一重の真っ直ぐさ、それが持つ暴力性も描かれていますが、「これは映画の世界ですよ」と敢えてフィクションであることを強調した編集などで可愛らしさが強調され、そこでバランスを取っているのかな、と。そのセンスがとても好きでした。
僕ら俳優は撮影中、どう編集されるのか、そのカットが作品の中にどう入ってくるか、多くの場合は知り得ない。だから観て驚きがあったりしますが、本作もきっと「あのシーンに、こんなエフェクトをかけたのか」などと、俳優たちも驚いたり楽しんだりしたんだろうな、と思いました。

『パンチドランク・ラブ』
作品情報&あらすじ

『パンチドランク・ラブ』
『ブギーナイツ』『マグノリア』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』などのポール・トーマス・アンダーソン監督作。主演にアダム・サンドラー、相手役にエミリー・ワトソン。ロサンゼルス郊外に住むバリーは、トイレ詰まり用吸盤棒のセールスマンとして真面目に働いている。口うるさい姉たちに囲まれて育った彼は、突然キレる情緒不安定な一面も。ある日、姉の同僚リナと出会い、惹かれ合う。しかし出来心から利用したテレフォンセックスのサービスで詐欺に遭い、バリーは強請られ始め――。初めての恋、姉らとの確執、詐欺グループとの対決、マイルを溜める裏技のひらめき......。真っ直ぐすぎる男バリーの、恋と成長を描いた異色のロマンチック・コメディ。カンヌ国際映画祭で監督賞受賞。



なぜか今とってもお腹が空いてしまってヤバいです。先日は、タコ焼き、油そば、チキンまで、ガッツリ系のものばかりを夕飯に食べちゃったり。事務所の方からも「少し太った?」と指摘されてしまいました。役作りで体を絞ったときに始めたジム通いは続けていますが、自分でもこの食欲は謎です。頭も使っている(台本を覚える)から、お腹も空くのかな(笑)?
そしていよいよ『喧嘩独学』の配信が始まりました! 僕にとって初の本格アクションに挑戦した作品です。恋愛要素もありつつ、お金儲けをしたり、誰かのために何かをするという、すべて愛情が原動力になっている物語なので、楽しいしスカッとできますよ。全6話なので、ぜひ一気見してください。
Text:Chizuko Orita
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