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ついに観た『ポンヌフの恋人』。とてつもない愛のパワー、あふれだす喜び、そして.../鈴鹿央士の偏愛映画喫茶vol.51

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鈴鹿央士 連載 鈴鹿央士の偏愛映画喫茶 
発表

 

昔から存在は知っていたし、有名なあの場面――花火や爆竹がバンバン音を立ててパリの夜空に打ち上がる――も予告編などを通して観て「スゴイなぁ」と、ずっと気になっていた映画で。しかも最近(25年末)、映画館でリバイバル上映され、共演している先輩俳優さんが観に行かれて、「やっぱり、すごく良かったよ」とおっしゃっていたので、今度こそと機会を狙っていたのですが......結局、行けずじまい。

でも、遂に配信で鑑賞しました!

   

鈴鹿央士 おすすめ 映画
映画「ポンヌフの恋人」4Kレストア版ポスタービジュアル

『ポンヌフの恋人』
配給:ユーロスペース
© 1991 STUDIOCANAL – France 2 Cinéma

実は僕の中で、『ポンヌフの恋人』熱が高まっていた理由が、もう一つあって。メンズノンノ本誌の連載「たゆたう」(6月号)で、なんと『ポンヌフの恋人』のイメージで写真が撮られているんですよ。カメラマンの末永真さんが、「身に着けているものや身分や、その他いろんなものを極限まで削ぎ落としたら、人間には何が残るだろう。そこに人間の美しさがあるのではないか」ということをテーマに撮りたいとおっしゃっていて。肌の上に直接コートを羽織ったりしているのですが、『ポンヌフの恋人』の主人公、ホームレスのアレックスをイメージしています。

そうして映画を観たら、女性の主人公ミシェルを演じているのが、この連載で以前紹介した『トスカーナの贋作』のジュリエット・ビノシュさんだってことに、まず驚きました。「あのメチャメチャお芝居がうまい人だ!」ってなって(笑)。確か『トスカーナ~』ではイタリア語と英語を話していましたが、フランス語も話せるのか、スゴイって驚いて。そうしたら、フランスの女優さんでした(笑)。


    

「愛がはちきれそうだ!」

とにかく僕は、この映画で“恋愛の持つパワー”のスゴさに圧倒されました。人間の根源的な恋愛、愛の力をとてつもなく感じて。主人公は、冒頭いきなり車に轢かれて片方の足が不自由になってしまうアレックスと、片目に眼帯をした美大生のミシェル。彼女が失明しそうな状態にあることが、後に分かってくるのですが、それもあって彼女は生きる希望を失いかけているんです。

何も持たないホームレスと、視力を失いそうな美大生という組み合わせ。ともに社会の淵に立つこの2人に愛が生まれたら――という物語です。

映画「ポンヌフの恋人」より(2)

それこそ劇中で、「愛がはちきれそうだ!」というセリフが飛び出すのですが、思わず「こんなセリフがあるんだ!!」と僕はもう驚いてしまって。でも同時に、それがとっても素敵だなとも思えて。僕にとって本作は、ものすごい愛のパワーを目撃した、深くて強い映像体験になりましたし、それが僕の人生経験に入り込んで来るものになったな、と感じています。

失恋と目の病気で生きる希望を失ったミシェルが家出をして、工事中で通行禁止のポンヌフ橋にやってくる。そこには、片足を車に轢かれたアレックスと、お爺さんの2人が住み着いているのですが、そのお爺さんはミシェルを追い出そうとするんですよ。なんで追い出すのかと思っていたら、お爺さんの長い人生における色んな経験や思いがあって、むしろ優しさだったのか、と後で気づかされました。つまり、「こっち側に来るな」ってことだったんですよね。

映画「ポンヌフの恋人」より(3)

それでもアレックスとミシェルは一緒に過ごすようになり、少しずつ惹かれていきます。2人で組んでカフェで人を騙して、お金を盗んで旅行に出かけたりして、お互いの存在がどんどん大きくなっていって。雪が降るシーンの美しさ、アレックスが火を噴きながら踊る大道芸のシーンも、本当に見とれるくらいに奇麗で、それこそ映画の世界観を堪能できました。花火や爆竹、橋から花火が滝となって川にこぼれて落ちていくところに、ボート走らせるとか、「そんなこと、していいんだ?」と驚きました。そうしたら実は、本物のポンヌフの橋で撮影したのではなくて、巨大なポンヌフ橋のセットを作ったそうで、そのスケールの大きな話にも驚きました。

映画「ポンヌフの恋人」より(4)

     

起きていることはカオスなのに
2人を美しいと思えてしまうのは

「街にはいろんな音楽があふれているよ」というセリフの後、クラシックからラップまで色んなジャンルの音楽が次々に流れてきて、橋の上で2人が走るシーンがあり、それがもう本当に美しいんです。こんなにキラキラ輝いて見えるけれど、実際には橋にはゴミが散らかっているし、そこで寝起きしている2人は、とても清潔とは言えないし、匂いだってあるはず。でも、そんな2人を美しいと思えてしまう。

そうか、人間の根源的な力や喜びみたいなものが体からあふれだし、それが走る姿や踊りとして表れているからこそ、人間の生命力の美しさ的なものを感じさせられたのか、と思いました。

映画「ポンヌフの恋人」より(5)

でも、そこで起きていることは、だいぶカオスだったりするんです。だってアレックスは、捕まって刑務所に入ってしまうくらいのことをするわけですから......。そのきっかけとなるのが、アレックスが街で見かけたミシェルのポスター。「治療すれば目は治る。帰って来い」とミシェルを探すポスターを見たアレックスは、ポスターを破ってしまう、何枚も何枚も。その心情って、本当に難しいなと思いました。

もしミシェルの目が治ったら、自分の元から去っていくかもしれない、ジュリアンという昔の恋人のところに行くかもしれない、少なくとも、かつて生きていた世界に戻ってしまうかもしれない。アレックスは、それを阻止しようとするのですが、ある意味すごく執着が強い男の物語でもあるんですよね。

映画「ポンヌフの恋人」より(6)

僕、最初から平等でいる関係よりも、自分がへりくだって弱者になることで、優位になれる瞬間ってある気がするんです。相手が自分のレベルに合わせに来てくれるから。そういう力学的なことって、人間だれしも大なり小なり、無意識にやっているような気がするんですよね。そんなことを観ながら考えました。


    

強い強い愛は、
失ってしまう恐怖と表裏一体

ホームレスとして生きていたところへ、美大生のミシェルがやってきて、目が見えなくてホームレスになりゆく状態にある。だから2人で一緒にいたけれど、段々とお金を稼いだり、さらに目も治るとなったとき、アレックスは何もなかった元の2人の状態に戻さなきゃ、みたいな気持ちになるというか。怖いといえば、怖いですよね。彼にとってはミシェルが居てくれればそれでいい、他には何もいらないって、すごい純愛だなって。でも、そこには破壊と崩壊が常に在るというか。

映画「ポンヌフの恋人」より(7)

中盤以降で「一丁の拳銃」が登場して、一発だけ弾を残して捨てずに持っているんです。それって、いつでも人を殺せるし、いつでも自分が死ねる状態だと言えますよね。何も持っていないけれど、自分は命を操れる、命を握る“力”を持っている、と。一方で、元々拳銃を持っていたミシェルにも、いつでも元カレのジュリアンを殺せるという気持ちがあったかもしれないし、自分がいつでも死ねるという気持ちがあったかもしれない。

「はちきれそうな愛」なんて強い愛情を一度手に入れちゃったら、それを失うかもしれない恐怖ってスゴイんだろうな。そうなったとき、人はどこまでするか。愛って原動力にもなるけど、破壊力もすさまじいなって思いました。例えば、お爺さんがミシェルを夜の美術館に連れて行ってあげた晩も、アレックスはミシェルがいないことにメチャクチャ不安になっていて。強すぎる愛も恐ろしい、愛と執着って紙一重だな、と思わされました。もちろん当事者である2人が良ければ全く問題ないし、周りがどうこういう必要はないのですが......。

映画「ポンヌフの恋人」より(8)

     

公開当時を知る先輩たちに
その熱狂の理由を聞いてみたい

2人を演じた、ドニ・ラヴァンとジュリエット・ビノシュのお芝居がスゴすぎました。特にアレックスのアクロバティックな動きは、お芝居として簡単に出来ることではないし、彼が酔い潰れたときの走り方や歩き方、体の動かし方、もっと言えば骨格が既にホームレスの方のそれになっている。お腹の出方も含めて、メッチャすごいなと思いました。

映画「ポンヌフの恋人」より(9)

しかも本作って、セリフが本当に少ないんですよ。だから2人はあまり喋らないのですが、ずっと見ていられるし、痛さも伝わってくる。つまり“画”と身体のお芝居で、すべてを見せているんですね。1つ1つの画づくりの面白さ、映像の美しさ、お芝居のスゴさ、どれもとても印象的でした。もちろん説明台詞もないので、完全には分かっていないような、「フランス映画あるある」状態ではありますが(笑)。でも、だからこそ自分の感覚で読み取らなくちゃいけないけれど、それって、とても正しい気がしました。自分の目で見て、耳で聞いて、受け取った何かが一番大事なんだな、と。

果たして、弾を一発残した拳銃でアレックスは何をするのか。そして2人の愛はどうなるのか――。結末は伏せますが、そんな2人の愛を強烈に描き切った本作は、やっぱりいい映画だなって。僕が生まれるより前に作られた映画ですし、公開当時になぜ大ヒットしたのか、特にクリエイティブ系の方々がなぜそんなにも熱狂したのか、聞いて回りたいくらいですが、何か感性を刺激して欲しい人には、是非ともお薦めしたい映画です。


     

バーで男性たちがジョークを飛ばしているシーンが、とっても好きでした。カウンターで「君はどれくらい(の頻度でセックス)する?」みたいな話をしていて。ある人は「2週間に1回」、別の人は「1ヶ月に1回」と言ったりしているのですが、その話を最も楽しそうに聞いている人が、「僕は3年に1度です」と言うんですよ。当然「え!?」となって、「何故そんな幸せそうなのか」と聞かれたら、「それが今晩なんです」と答える。その笑い話自体も単純に面白いですが、それ以上に僕は、それについて話している2人の笑い声が好き過ぎました(笑)。

特にビノシュがおかしな笑い方をするんですよ。高い声でカエルみたいに「ゲッケケッケ」と大笑いして、それに対してド二・ラヴァンもすごい笑いで返して。観ながら僕も笑っちゃいました(笑)。他にも、2人が酔い潰れて笑っているだけのシーンもあるのですが、それも好き。2人がバカ笑いしている楽しそうなシーンが、今回はかなりツボでした。

『ポンヌフの恋人』
作品情報&あらすじ

映画「ポンヌフの恋人」より(10)

『ポンヌフの恋人』
監督・脚本:レオス・カラックス/撮影:ジャン=イヴ・エスコフィエ/出演:ジュリエット・ビノシュ、ドニ・ラヴァン
1991 年/フランス映画/125 分/配給:ユーロスペース
公式サイト http://carax4k.com

『ポンヌフの恋人』

フランスの鬼才レオス・カラックスが、『ボーイ・ミーツ・ガール』(83)、『汚れた血』(86)に続いて手がけたラブストーリー。アレックスという名の青年を主人公に描く、3部作の完結編。パリの歴史ある美しい橋・ポンヌフで暮らす大道芸人のアレックスは、ある日、目の病を抱えて放浪する美大生ミシェルと出会う。元カレに対する未練と失明への恐怖を抱えるミシェルと、他人と深く関わらずに生きてきたアレックスは、ポンヌフで一緒に暮らし始め、少しずつ絆を育み、恋愛感情が芽生えていく。そんな折、ミシェルを探すポスターが街中に貼り出され――。アレックス役に前2作に続いてドニ・ラヴァン、ミシェル役にジュリエット・ビノシュ。

現在放送中のドラマ「リボーン」の撮影も終盤。日々、撮影に臨んでいますが、まだ結末がどうなるか僕たちには知らされていません。だから楽しみでもあり、ドキドキでもあり。撮りながらリアルタイムで放送されていく、というドラマ撮影が久しぶりでもあるので、その状況を今とても楽しめている自分がいます。

Text:Chizuko Orita

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