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社会と家族と、そのありかた。東京国際映画祭・観客賞『小さな私』は、僕に多くのことを気づかせた/鈴鹿央士の偏愛映画喫茶vol.50

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鈴鹿央士 連載 鈴鹿央士の偏愛映画喫茶 
発表

 

昨年あたり「すごくいい作品だよ」と聞いたことがあって、ずっと気になっていたんです。そうしたらNetflixで配信が始まったので、早速、観てみたら......もうメチャクチャ良かったです。

これ、東京国際映画祭で観客賞を受賞した作品でもあるんですね。僕の中では『オアシス』(2020/韓国)を見た時に受けた衝撃と近いものがあって。少しヘビーな話ではありますが、鑑賞中にずっといろんなことを感じたり考えたりしていました。まだ完全には受け止め切れていない気がしますが、それも含めて、ここで考えてみたいなと思います。

   

鈴鹿央士 おすすめ 映画
映画『小さな私(小小的我)』

『小さな私』
Netflix独占配信中

主人公は、リウ・チュンフーという名の脳性麻痺を患っている青年です。冒頭、お祖母ちゃんが老人ホームから戻って来て、いきなり賑やかになるシーンで幕を開けます。

結構、派手なお祖母ちゃんで(笑)、色とりどりのスカーフを「賢い人間は、洋服じゃなくてスカーフを買う」と自慢げに見せたりして、なんか楽しくて。このお祖母ちゃんがいてくれて本当に良かったな、と思わされる場面も多かったです。

というのもチュンフーのお母さんは、もちろん息子を心配してのことだろうけれど、「勉強しなさい」とか「あなたの進路はこうだ」と勝手に決めてグッと詰めてくる。その様子は、なんか「はぁ、しんどいなぁ」って僕もなりました。


    

脳性麻痺を患う青年、チュンフーと
彼を人前に連れ出すお祖母ちゃん

そこへお祖母ちゃんがやって来て、勝手にどんどん外に連れ出してくれたり、お祖母ちゃんが参加している合唱団の仲間との会合に連れて行ったり、果ては合唱団で太鼓叩きを半ば強制的にやらせようとしたり。

でも、なんか笑っちゃう場面も多いんですよ。合唱団のメンバーのお爺ちゃん、お婆ちゃんたちも、すごく良くて。最初は、好奇の目でチュンフーのことを見てしまう場面もあるし、言いたいことを言い合うので老人同士がすぐに喧嘩になったりもするけれど、チュンフーと彼らが互いに知り合っていくことで、お互いに助け合えることがあることに気づいていくんです。

©2024 TIFF

一方で母親はチュンフーが外出したり、人前に出ることを嫌がります。でも、人って知り合うことでどんどん変わっていくし、チュンフー自身にも楽しみが増える感じがあって。人との出会いって、やっぱり大事だな、外に出ることはとても大事だな、と思わされました。

お祖母ちゃんに連れ出され、合唱団の人たちと公園で練習をしていたからこそ、ヤヤという若い女性とチュンフーも出会えたわけですし......。

     

「仕事を持つことは、尊厳だ」

ヤヤについては後でまた考えるとして、僕がこの映画の中で、最も心に響いてハッとなったのは、チュンフーの「仕事を持つことは尊厳だ」という言葉です。

その前段として、心配するお祖母ちゃんに「絶対についてこないで!」と拒絶して、チュンフーが一人でカフェのバイトの面接に向かうくだりがあって。大通りを一人で渡ろうとするシーンでは、渡り切れるかどうかハラハラしましたが、彼が「渡れた!」と後ろを振り返った時のリアクションが良くて。なんかもう、感情移入して「頑張れ~!!」と力が入ってしまいました。

映画『小さな私(小小的我)』のワンシーン1
©2024 TIFF

そういうことを経てカフェで面接を受け、そうして受かった時にチュンフーがお祖母ちゃんに言う、そのセリフが僕の中に強烈に突き刺さった感覚がありました。

というのも、ちょうど僕自身が撮影していた作品が、人権等々の問題をはらんだ社会的な作品だったのもあって、「仕事を持つことは尊厳だ」という言葉が、より深く刺さって心に残ったというか。またチュンフーが面接で、「自分は脳性麻痺だけど、記憶力がとてもいい普通の人間だ!」と表明するシーンも、すごく良かったです。


    

「太陽が当たらない場所でさえ、
苔は成長しようと戦います」

教師になりたいチュンフーが応募して、小学生低学年の教室で“詩”の授業をするシーンがあるのですが、障がいで流暢に喋れないチュンフーに対して、小さな子供たちが「変だ」と笑ったりバカにしたりするんですよ。

でも、それもまた純粋な反応なんだろうな、と思わされて。“社会の素の反応”が、そこに凝縮されている気もしました。そういうことを、周りの人々の目線で端的に描き込んで気づかせてくれるのも、スゴイなと思いました。それを見て、どんどん主人公に感情移入していくことにもなるので。

彼がその授業で、「いろんな詩人たちが詩句の中で“苔”について書いているけれど、“苔”は常に脇役でしかない」と子供たちに語るんです。「でも、ある詩人は、“太陽が当たらない場所でさえ、苔は成長しようと戦います。米粒ほど小さくても諦めない。苔は自己否定的ではない。牡丹のように凛として生きるために、その力を使うのです”」と。

僕がちゃんと理解できているかは分からないですが、チュンフーの生きる姿勢や前向きな気持ちを感じ取れるし、とても大切なことを子供たちに伝えようとしていることが分かって、すごくいい授業だなって思いました。

     

否定的に思える母親の言動にも
彼女の中での理由があって

彼自身も詩を書く人で、それをヤヤにプレゼントするシーンもあるのですが、その詩もすごく素敵なんです。ヤヤとは公園で知り合うのですが、快活でいいエネルギーを持っているヤヤは、チュンフーにも気軽に話しかけて、すぐに打ち解けて。別に思わせぶりな態度を取るわけでもないのですが、そんな魅力的な同年代の女性を前にしたら、当たり前のように好きになっちゃいますよね。チュンフーが夢にも見てしまうほどに。

ヤヤの方も、少しはチュンフーに恋愛対象としての好意を持っていたんじゃないかな、と僕は感じたんですよね......。だって、「ねえ、あなたも勃起するの?」と聞くなんて、男性側からすると気になって当然だろ、みたいな。そんなフランクさも魅力なんですが、もし恋愛感情がないなら残酷だよ、とも思ったり。観ながらずっと、「互いに支えあえる存在になればいいな」と思っていました。

映画『小さな私(小小的我)』のワンシーン2
©2024 TIFF

チュンフーを否定するようなお母さんの態度や言葉に対して、ずっと疑問や嫌悪がありましたが、遂にチュンフーがキレて母親にひどい言葉をぶつけることで、互いの気持ちが噴出する場面があります。そこから段々と母親の言動の裏には、そんなトラウマがあったのかと分かってきて。

お母さんはお母さんで、自分の母親、つまりチュンフーのお祖母ちゃんとの間にいろいろ抱えてもいたんですよね。母子は近すぎるから愛憎になってしまうけれど、間に一拍おいた祖母と孫なら、本作に限らず、とてもいい関係が築けることが多いですよね。距離が少しあるからこそ、互いを認め合えるし、思い合えるし、愛情を表現し合える、みたいな。お祖母ちゃんとチュンフーの会話シーンも、どれも良かったですね。

     

ちゃんと観ようと臨むほど、
深く深く刺さってくる映画

ただ僕、どうしても解せなかったのが、お父さんの存在。右往左往しているだけで、ほぼ喋らないし、父親としての役割を果たしていないように見えて。そんな時、この連載で何回か話に出してきた、エーリッヒ・フロウの『愛するということ』という本をまた思い出しました。父親というものは、子供が自分の築き上げた財や遺産を引き継ぐ能力があるかどうかで愛情が決まる、と。なるほど、チュンフーのお父さんは、その最たるものなのか、なんて思ったりして。僕はそういうのはイヤだなぁ、と思いながら。

一言で言ってしまうと、脳性麻痺を抱えた男の子が、自立しようと仕事を探したり、大学を目指して頑張る物語。でも、いかに生きるという行為自体が、あるいは仕事をするということが、そして音楽を奏でる/聴くという、そういう一つ一つが、なんて尊いのだろうと実感させてくれる作品でした。社会と家族とそのあり方を描いている本作は、本当に僕にいろんなことを気づかせてくれました。

あぁ、本当にいい映画なんですよ。ちゃんと観ようと臨んだ時の、刺さってくる感じはとても深く鋭い。だから多くの人たちにも、ちゃんとゆっくり構えて観て欲しいです!


     

リウ・チュンフーを演じているのは、イー・ヤンチェンシーさんという俳優さん(アイドルグループ「TFBOYS」でも活動)と聞いて、「え、これは演技だったのか!」と、本気で驚きました。特に終盤、彼が口いっぱいにキャンディーを次から次へと食べるシーンの迫真の演技は、凄すぎますよ。もう顔面、紫色でしたから!

加えてもう一点、どうしても心に引っ掛かっているのが、多分メチャクチャ深いことを言っている、彼が最後に行うスピーチ。ハッキリとは意味が分からないですが、だからこそ良くて(笑)。「木の樽は、一番短い板で容量が決まる」と言って、「僕たちが、その短い板だ」と言うんです。「うん?」と、ちょっと考えているうちにスピーチは終わってしまったのですが(笑)。

それって、詩で“苔”について彼が言いたかったことにも繋がってくると思うのですが、社会で見過ごされがちなものにも価値があるし、大事な存在だってことなのかな、って。とても大切で深い意味が感じられる気になる言葉が、いろいろと僕の中に残っています。

『小さな私』
作品情報&あらすじ

Netflix独占配信中 ©2024 TIFF

『小さな私』 (2024/中国/131分)

脳性麻痺を患う青年リウ・チュンフー(イー・ヤンチェンシー)は、大学受験を控えるなか、祖母(ダイアナ・リン)が力を注いでいる合唱団で太鼓を担当することに。祖母はチュンフーを積極的に外の世界に誘い出そうとするが、チュンフーの母(ジャン・チンチン)はそれをよく思っていない。チュンフーは、そんな母に不満を募らせ......。障がいを持ちながらも、前向きに自分らしく生きようとする20歳の若者の、ひと夏の成長を描く。監督は、フィクションとドキュメンタリー双方で活躍するヤン・リーナー。2024年・第37回東京国際映画祭コンペティション部門で観客賞受賞。

少し前にアメリカへ一人旅に行ってきました。ブログにも書きましたが、到着1日目にしてカメラが壊れて、慣れないフィルムの使い捨てカメラとデジカメで古着屋さんとかを撮ってみたり。サンフランシスコではスーパーボールの真っ最中だったので、メチャクチャ街が盛り上がっていましたよ!

Text:Chizuko Orita

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