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ここが津軽ラーメンの原点。

煮干しや焼き干しの旨みが溶け込んだスープに、中華麺が泳ぐ津軽のラーメン。
この地方の食文化の一つとして欠かせない存在ですが、県内で初めてラーメン専門店として営業を始めたのが「来々軒」。
「ウチの初代が大陸から渡ってきた当時、出汁に使う魚が今ほど高価じゃなかったので、この組み合わせが生まれたのでは」と語る三代目の鈴木順司さんから、当時のことを教えていただきました。
大陸から日本に渡ってきた呉銘徳さんが、弘前の繁華街・下土手町の百貨店前で、ラーメンの屋台を始めたのは大正末から昭和初頭ごろ。「昔、お店に来ていたお客さんから、その頃に開店したという話を聞いていた」とのことで、正確な創業時期は定かでないそうです。
その後、百石町の一角に店を構え、現在は弘前公園や市役所のほど近くに場所を移して、今日まで暖簾を掲げています。
代継ぎは突然に。

「小学校時代から、そばあげとかを手伝わされていた。」
小さなころから厨房に立っていた順司さん。店を継ぐことにはあまり前向きではありませんでした。が、会社に就職して一年経たない頃にお父様が他界。親子ほどに歳の離れていた奥様が、二代目としてお店を支えることを知った順司さん。東京と仙台で調理技術を学び、当時知り合った奥様と共に故郷へ戻ったのです。
「なので、実際には自分は三代目だ。」
順司さんが厨房に立つ日は、こうして始まりました。
礎は自家製の麺とスープ。

「親父がやっている姿を見てきたものを、少しずつ今風に変えながらやってきた。時代と共にいい食材が出てきて食生活も変わってきた中、もしも昔のままでやるなら、多分やっていけなくなる。」
信念を持って麺とスープを作る一方で、少しずつとはいえ味を変化させるのは難しいもの。それを可能としたのが築いてきた麺とスープの礎。
「麺はラーメンも焼きそばも同じものを使っている。また、数多くのスープを丁寧に作るのは難しいので、スープも一種類だけ作る。だからこそ、どちらもベストコンディションにしなきゃいけない。」
生地を捏ねて麺を作り、食材の旨みを凝縮させたスープを仕込む。色々な味付けに馴染む懐の深さは、こうした日々の仕事から生まれています。
そんなお店のメニューにはラーメンや炒飯といった大衆的な中華料理が並びますが、やっぱりラーメンを食べない理由はありません。

代々伝わる自家製麺。茹でる前の手もみが味の決め手。

厨房に立つ順司さんと息子さん。三代目が中華鍋をふるい、息子さんが麺を茹でます。
魚出汁の旨みが溶けこむラーメンと、
みずみずしい塩焼きそば

器から湯気と共に立ちのぼる魚出汁の香り。一口飲めばあっさりした見た目の中に溶け込む、濃厚な旨みに驚きを隠せません。
煮干しや焼き干しはもちろんのこと、鶏ガラや昆布のエキスも一つになって、飲み飽きることのない奥深さが作り出されています。
そんなスープがしっかり絡んだ手もみの麺。勢いよくすすれば、チュルチュルと唇に触れる感覚が楽しく、ゆるむ口元を引き締めつつ箸の動きが止まりません。
心地よい歯ざわりのチャーシューとコリコリのメンマ。そして爽やかなネギの香り。主役がはっきりとしているので具材はシンプルに。そんな一杯だからこそ、空っぽになった器を見つめると再会を誓いたくなるんです。
ところで、このお店にも裏メニューというものが存在します。それが「塩焼きそば」。知る人ぞ知る味が常連さんを夢中にさせています。

楕円のお皿に盛られた、大量の野菜や肉が絡む具だくさんの麺。その迫力に圧倒されます。
艷やかにコーティングされた麺に絡む、絶妙な塩加減のタレ。咀嚼するごとにジワジワと溢れだす野菜の甘さと豚肉のエキス。
卵焼きと紅しょうがのアクセントも手伝って、早々とお皿の上から姿を消していくこの感覚がたまりません!
お店の味は、予科練生にとってはかけがえの存在だったはずです。
今日の手触りが、
明日の店の歴史を作る。
「気温や湿度で生地の加減は変わるので、それを整えるのが難しい。やっぱり、手の感覚が人によって違う。親父は親父でオレはオレ。それはしょうがない部分もある」そう語るのは、厨房で順司さんを手伝う息子さん。
一方、順司さんも「まったく同じ味を出すというのは100%無理。お店を受け継ぐときには、せがれの作る味になる。そこについてくるお客さんがいる」と話されます。
そこには、お店の歴史は自らの手仕事そのものという思いが込められています。
「四代目としてやる気はない」と言いつつも、朝からネギを刻み、薄焼き卵を焼き、あるいはスープを仕込む息子さんが、自らの手仕事で麺とスープ、そしてのれんを継ぐ日はそう遠くないはずです。
※この取材の後、アレンジ次第で3つの味が楽しめる、隠れた名物・マーボーラーメンをおかわりしてきました。
店舗情報
来々軒
創業年:1926年(大正末期〜昭和初期)頃
住所:〒036-8217 青森県弘前市茂森町16
電話番号:0172-32-4828
営業時間:11:00~14:00/17:30~19:30(品切れの場合は早期閉店)
定休日:木曜日、水・日曜夜の部
主なメニュー:醤油ラーメン(600円)/焼きそば(750円)/炒飯(650円)/マーボーラーメン(800円)
※店舗取材2016年1月27日/店舗情報は2025年12月1日時点のもの。料金には消費税が含まれています。
店主

三代目店主
鈴木順司 さん
東京と仙台で調理技術を学び、当時知り合った奥様と共に故郷へ戻り店を継ぐ。「親父がやっている姿を見てきたものを、少しずつ今風に変えながらやってきました」

Text by 百年食堂応援団/坂本貴秀
※この記事はウェブサイト「100年食堂」にて2016/03/18に公開された記事を、サイト終了にともない、メンズノンノウェブへ移行したものです。

坂本 貴秀
フォトライター/伝承料理研究家/百年食堂応援団
取材を通じて感じた飲食店や地域の「まだ伝わりきれていない魅力」を、撮影と執筆でお伝えしています。伝承料理研究家として、地域に残る食文化の調査・記録や、コンテンツ・商品化を通じた次世代への継承活動にも取り組んでいます。100年続いてきた、続けんと奮闘する飲食店を応援しています!
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