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【青森県・弘前市】津軽の地で作り食べ継がれる食文化を、食堂の場を通じて多くの人に伝える「三忠食堂」【100年食堂】

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文化や風習、
そして暖簾を受け継ぐ食堂

青森県弘前市『三忠食堂』外観

弘前の駅から弘前公園の方向に少しずつ歩き出すと、目の前に雄大な姿を見せるのは津軽の名峰・岩木山。母なる山が育んできた様々な文化や風習は弘前の町に溶け込み、今なお受け継がれています。

それは食文化も同じで、七草粥から野菜とお米が分かれた料理が由来とされる(諸説あります)「けの汁」や、指で弾けば軽快な音が響く棒鱈をむしって、これを生玉子と絡める「たらたま」など。津軽の食卓には昔からの知恵が数多く受け継がれています。

弘前という町が文化と技術を伝承する町だからでしょうか。台所で受け継がれてきた料理を出すお店が他県と比べて多く、食後に身体だけではなく心までポカポカと温まるのは、きっとそういうこともあるんだろうと思うのです。

駅から少し離れた旧国道7号線沿い。この地に立つ三忠食堂もそんなお店の一つです。


暖簾ともに受け継ぐ桜の系譜

青森県弘前市『三忠食堂』現在のご主人である黒沼三千男さん

現在のご主人である黒沼三千男さんは、この食堂の四代目。

初代は盛岡から弘前にやってきた黒沼他人次郎(たにんじろう)さん。当時「農家の方から作り方を教わった」という津軽そばを、屋台で出すようになったのがお店のルーツです。

その後、二代目の忠次郎さんの時代を迎えると、大正の当時「観桜会」と呼ばれていた弘前のさくらまつりに、津軽そばの屋台を出すようになりました。時代を経て、屋台が合掌作りの木造の小屋に変わり、鉄骨のテントに変わっても、三忠食堂の看板は弘前の春に欠かせないものとなっています。

※さくらまつりに出店している三忠食堂の模様は、こちらからご覧ください!

お店の建物が屋台から固定店舗になった頃、大正元年生まれの忠一さんが三代目として後を継ぎ、「忠次郎の兄弟の名前に、忠がつく人が三人いた」ことから命名された三忠食堂。

そんな忠一さんから「店を手伝ってくれるか?」と言われたのは、三千男さんが高校を卒業する頃。この時代、家族経営のお店は長男が継ぐことが当たり前でしたが、「長男と次男は外に出てしまった」ことで、三男だった三千男さんは、高校の同級生だった奥様のけい子さんと、四代目として継いだのです。



時間と知恵、そして工夫が宿る。
これが「津軽そば」

青森県弘前市『三忠食堂』つがる蕎麦

もちろん、お店の名物は津軽そば。元々は農家の農作業の合間に簡単に食べる、おやつのようなものだったと言われています。一番の特長はそばのつなぎに小麦粉ではなく大豆粉や呉汁(水に浸して柔らかくした大豆をすりつぶしたものを入れた汁)を使うこと。

小麦粉の栽培量が少ない津軽地方だからこその食文化。身近な食材を使った製法には、気候風土が育んだ知恵と工夫が詰まっています。

青森県弘前市『三忠食堂』そばがき1

家庭によって、微妙に作り方が違うとされている料理。三忠食堂の津軽そばに欠かせない材料は、そば粉と大豆粉、そして出汁の材料となる焼き干しと昆布です。


青森県弘前市『三忠食堂』そばがき2
青森県弘前市『三忠食堂』そば

そばがきを作り一晩寝かせて、ここにそば粉と大豆粉を混ぜあわせたものを製麺します。これを更に一晩寝かせたらお湯で茹でて、水洗いをして一食ずつにまとめたものを更に寝かせたらできあがり。

力仕事で生地を作り、熟成の時間がそばの食感を作る。一つとして欠かせない仕事の積み重ねで津軽そばは作られます。


青森県弘前市『三忠食堂』器に盛られたそば
青森県弘前市『三忠食堂』調理中のそば

注文が入ったらそばを鍋でさっと温めなおす。茹で置きされたものなので時間はかかりません。


青森県弘前市『三忠食堂』スープを注いでいる様子

ここに焼き干しと昆布を引いた出汁に醤油をくわえたおつゆと合わせて、きざみねぎ、海苔、そしてなるとを添えたらできあがりです。

青森県弘前市『三忠食堂』ラーメン

澄み切った琥珀色のおつゆに泳ぐそばは、箸越しに繊細な質感が伝わり、歯に当たるとフツフツと切れんばかりの独特な食感を生み出します。

立ち上る出汁の香りに誘われて、おつゆを一口くっと飲めば、じんわりと広がる焼き干しの上品な旨み。薄化粧の味付けだからこそ、その繊細で濃厚な味わいに驚くしかありません!

そして、食べ進めると器の底に見えてくる細かく切れてしまったそばの端っこ。最後におつゆを飲み干す時に、これを一緒に口に運ぶ瞬間。これこそ津軽そば一番の醍醐味。そう思います。


青森県弘前市『三忠食堂』カレー

そして、忠一さんの時代から提供が始まったカレーライス。具材はタマネギと豚肉だけのシンプルなスタイルですが、ソースに行き渡る魚の出汁の美味しさに驚かされます。

一口一口と食べ進めるごとに、スパイスの優しい刺激と共にタマネギの甘さと豚肉のジューシーなエキスが口いっぱいに広がり、その手が止まることはありません。

手間ひまかけて作られるこれぞご馳走。津軽そばの傍らにカレーがあるテーブルは、この上なく幸せです。

 

お店の歴史は、食文化の伝承と共に

青森県弘前市『三忠食堂』屋台で津軽そばを提供するために使われていた、釜とそばを運ぶ商売道具の一式1

青森県弘前市『三忠食堂』屋台で津軽そばを提供するために使われていた、釜とそばを運ぶ商売道具の一式2
屋台で津軽そばを提供するために使われていた、釜とそばを運ぶ商売道具の一式

そんな美味しさを次代に継ぐのは五代目の卓也さん。地元の企業にお勤めだったのですが、「やっぱり、このお店をやりたい」という気持ちが溢れ出し、9年前から厨房を手伝っています。

津軽の地で作り食べ継がれる食文化を、食堂の場を通じて形で多くの方に伝える。生業として受け継がれるその想いは、桜の季節を重ねるごとに多くの方の心を温かくしてくれます。

※三忠食堂のもう一つの名物が、鯖節の旨味がふんだんに溶け込んだ中華そば。心と身体がぽかぽかになる一杯を、弘前さくらまつりの屋台で食べてきました。

【青森県・弘前市】大正、昭和、平成をまたいで受け継がれた伝統のおいしさ。さくらまつりに欠かせない『三忠食堂』の屋台【100年食堂】


店舗情報

三忠食堂

創業年:1907年(明治40年)頃
住所:〒036-8021 青森県弘前市和徳町164
電話番号:0172-32-0831
営業時間:11:00~18:30(L.O.)
定休日:火曜日
主なメニュー:津軽そば(700円)/中華そば(700円)/カレーライス(900円)/カツ丼(1,000円)
Instagram:https://www.instagram.com/hirosakisancyuu/
※店舗取材2016年1月28日/店舗情報は2025年12月1日時点のもの。料金には消費税が含まれています。

 

店主

青森県弘前市『三忠食堂』現在のご主人である黒沼三千男さん

四代目店主

黒沼三千男 さん

先代である父からの「店を手伝ってくれるか?」の一言から四代目としての日々が始まり、現在は奥様のけい子さんや息子の卓也さんと共に暖簾を守る。

 

Text by 百年食堂応援団/坂本貴秀

※この記事はウェブサイト「100年食堂」にて2016/02/29に公開された記事を、サイト終了にともない、メンズノンノウェブへ移行したものです。

坂本 貴秀

坂本 貴秀

フォトライター/伝承料理研究家/百年食堂応援団

取材を通じて感じた飲食店や地域の「まだ伝わりきれていない魅力」を、撮影と執筆でお伝えしています。伝承料理研究家として、地域に残る食文化の調査・記録や、コンテンツ・商品化を通じた次世代への継承活動にも取り組んでいます。100年続いてきた、続けんと奮闘する飲食店を応援しています!

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