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新しい潮流を生み出し続けるファッションデザイナーたち。“トレンド不在”と言われて久しい今、彼らは服づくりとどう向き合っているのか。今回は国内外で注目を集めるDERRICKのデザイナーLuke Derrickに語ってもらった。

BRAND:DERRICK
伝統とは、守るものではなく、更新するもの。英国テーラリングを再設計するルークが描く、現在に沿った新たなメンズウェアのかたち。
新旧が交差するロンドンから
テーラリングの未来を更新
世界のトップデザイナーを輩出するセントラル・セント・マーチンズを卒業後、ブリオーニ、アレキサンダー・マックイーン、ダンヒルといった名だたるメゾンや、サヴィルロウのテーラーで経験を重ねてきたルーク・デリック。若手の登竜門であるLVMHプライズ2026のセミファイナリストにも選出され、今世界中から注目を集めている。

現在スタジオを構えるイーストロンドンは、彼のクリエイションに強く影響を与えている場所だ。多文化が交差するこの地域では、伝統的なジェラバ(モロッコの伝統衣装)にナイキのスニーカーを合わせたスタイルや、制服の上から防水アノラックをはおるような光景が日常的に見られる。建築もまた同様で、ジョージアン様式のテラスハウスの向かいにブルータリズム建築の団地が建つなど、新旧のロンドンが並存している。
「この街は常に“古いものと新しいものはどう共存できるのか”という問いを投げかけてきます。その緊張関係こそが、デリックの中心にあるものです」
デリックのデザインの原点にあるのは、テーラリングの伝統が現代の生活スタイルから遠ざかってしまっているという現実だ。「かつて多くのメンズブランドは、毎日スーツを着る男性のために服づくりをしていました。でも、そういう人はもうほとんどいません。だからこそ、現代社会の生活に合わせて、英国のテーラリング文化を立て直したかったんです」
彼のデザインプロセスは、スタジオの中だけでは完結しない。街やエリアを移動しながら人々の装いを観察する中で構想が徐々に形になっていく。
「通勤から仕事、そしてプライベートな時間へと、人々は一日の中で場面に合わせて何度も服装を調整していますよね。多くのアイデアは私自身が実際に服を着て、動く体験の中から生まれています」

ブランドのシグネチャーとしてよく語られるのが、独特の細いラペルのカッティングだ。「衿を立てたり、自然に落としたり、着方によって表情が変わります。世界中の人が、自分なりの着こなしを見つけられるデザインなんです」
最新コレクション「ハロゲン(HALOGEN)」は、都市の光が生み出す曖昧な時間をテーマにしている。ショーでは、青い光が照らす暗闇の中でモデルたちがランダムに行き交う、フィナーレのような演出で幕を開けるオープニングが斬新だった。素材にはマイクロコーデュロイやフランネル、ツイルといった英国的なテキスタイルを採用。古典的な素材の中に現代的なニュアンスを見出そうと試みた。「コーデュロイは文脈によってワークウェアにもフォーマルにも見えます。その曖昧さが面白いんです」

ショーの最後を飾ったフード付きのタキシードも印象深い。日本製のウールジャージーが用いられ、構造を極力排した柔らかな仕立てが特徴だ。「タキシードをジャージーで再構築することで、その象徴性を少し揺さぶりたかったんです。スポーツウェアとイブニングウェア、伝統とテクノロジーの間にある服ですね」
トレンドが細分化し、明確な方向性が存在しない現代のファッションについても、彼はむしろ自由を感じているという。「服があふれる時代だからこそ、トレンドを追うよりも、自分が何を求めているか考えるほうが大切だと思います」

デザインの未来についても、彼の視点は明確だ。「現在のイギリスにおけるデザインは、伝統を守るか壊すかという両極端にあります。でも、伝統的な枠組みの中でアップデートさせる視点はまだ少ない。そのフォーマットを現代の生活に合わせてつくり直すこと。そこに可能性があると思っています」
日本のファッションシーンとの縁も深い。日本製のテキスタイルを多く採用し、ファーストアシスタントを務めるのも日本人。国内では東京のドーバー ストリート マーケット ギンザや吾亦紅、名古屋のgufoなど、感度の高いセレクトショップでの取り扱いも始まっている。
「まだ日本には訪れたことがないのですが、不思議なほど、親しみを感じています。両国の文化は、クオリティへの感度や、服を“生きる経験”として捉える視点において共鳴していると思います」
メンズノンノを手に取る読者へ、彼はこう語りかけた。「何を着るにしても、自分のために選んでください。ファッションはあなたを型にはめるものではなく、後押しするものです。スタイルとは自己表現の積み重ねであり、本当の自信は自分の視点を磨くことから生まれます」
Photos:Yu Fujiwara Composition&Text:Mami Osugi[W]

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