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【鈴鹿央士の偏愛映画喫茶vol.15】おしゃれなパリで見つける“大切なもの”『ミッドナイト・イン・パリ』

【鈴鹿央士の偏愛映画喫茶vol.15】おしゃれなパリで見つける“大切なもの”『ミッドナイト・イン・パリ』

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鈴鹿央士 連載 鈴鹿央士の偏愛映画喫茶 
発表

 『ミッドナイト・イン・パリ』は、ジャケ買いというか、主人公がパリを歩いている、ゴッホの絵画のようなポスターを見て、なんか面白そうだなと観た作品です。SFとも言える“タイムスリップ”ものですが、別にタイムマシーンに乗るわけでもなく、自然に行き来しちゃうという、不思議なワクワク感が強く記憶に残っています。

鈴鹿央士 おすすめ 映画

『ミッドナイト・イン・パリ』(DVD 私物)

“おしゃれなパリ”のさりげなさがいい

 僕がまず気に入っているのは、パリの街の撮り方のくどくなさ。パリが舞台の作品ってたくさんあるけど、本作は、無理してオシャレに見せようとしてない、そんな雰囲気や切り取り方がいいんです。

 設定も面白い! タイムマシーンに乗るわけではなく、いつの間にかフッとタイムスリップしているんです。主人公のギルが真夜中のパリの街を彷徨っているところに、いかにも昔の車が来て、それに乗っていったら1920年のパリにいて。また現代に帰って来るタイミングも街を歩いてたら、いつの間にか戻っている(笑)。これは、パリだからこそ成り立つんじゃないかなぁ。日本も、京都なら成立するかも。昔のままの街並みがあるからこそ、撮れた映像だと思いました。

Photofest/アフロ

 ギルはハリウッドの売れっ子脚本家ですが、本当は作家になりたくて、芸術の都パリに憧れている。婚約者イネズとその両親と一緒にパリにやって来たのですが、3人とも全くパリになんかに興味がないんです。単にイネズのパパのビジネスで来た、というだけで。しかもイネズは、偶然会った男友達ポールに誘われると、行きたがらないギルを置いてダンスに行ってしまう。

 その時、ポールの恋人らしき女性が、パリの本店で買い物して来ましたとばかりに大きなディオールの袋を持っていて思わず“ウザッ”と・・・。パリが大好きなギルと、パリという街に興味はないけれど、買い物大好きな他の人たち、という対比が印象的でした。

 置いていかれたギルは真夜中のパリを一人で彷徨い、1920年のパリに迷い込んでしまう。そして社交クラブみたいなところで、心底憧れている当時の芸術家たちに出会うんです。特にダリは、本物が出ているんじゃないの!?って思っちゃうような見た目の寄せ方がすごいです(笑)!!

 ヘミングウェイやピカソらに会ってギルはものすごく舞い上がるのですが、そのあまりに主人公っぽくない姿が、僕はすごく好きでした。最初から婚約者とその家族と噛み合っていない感じも含め、主人公主人公していないんですよね。でも、そんなギルにこそ観客は共感していく、というのが上手いな、と。

Photofest/アフロ

“自分だったら誰に会いたいだろう”と考えるのも楽しい

 ギルが舞い上がるの、僕も分かる気がする。もし僕がタイムスリップして尾崎豊さん、あるいは大瀧詠一さんに会ったら「ウワ~っ」ってなっちゃうだろうし。一番行ってみたいのは、敢えて選ぶなら1994年。オアシスが超盛り上がっている頃で。リアルタイムで彼らのコンサートやライブに行きたい。だってもう2度と、ノエル&リアム兄弟を同じステージで見られないのかと思ったら……。

 ギルはそこでピカソの当時の愛人アドリアナに出会い、恋するのですが、そこでもまた考えちゃいました。僕がタイムスリップして恋する人って誰だろう、って(笑)。中森明菜さんなのかな、とか考えるのも楽しかったです。そんな風に本作は、“もし自分ならどうするだろう”と想像するワクワク感が満載で、エンタメ性も高くて本当に面白いんです。

©Photo by Roger Arpajou (c)2011 Mediaproducción, S.L.U.,Versátil Cinema, S.L.and Gravier Productions, Inc.

 しかも、もう一捻りある。ギルは1920年代のパリで憧れの芸術家たちと交流するのですが、その時代に生きているアドリアナに言わせると、ベルエポック期(1890年代~)のパリこそが最高だ、と。そして2人はフッと、今度は現れた馬車に乗って時代をさかのぼり、ベルエポックのパリに迷い込む。そこで、今度はゴーギャンやロートレックたちが登場して……。

 懐古主義的に“昔が良かった”っていうのは僕ももちろん思うし、人間ってそういう風に思っていくものなのかもしれない。本当は今が一番楽しい時期なんだ、と後から気づいていくんものなんだな、人間ってそういう生き物なのかな、と。

 でもそれは、今現在の自分が向き合うべきことから逃げている、向き合えてないという気もする。今を生きてるのだから、今を楽しまないといけないとも思いました。でも、そうかと言って今が最もいい時代や状況ではない、ということも同時に感じて……。

堂々巡りの中で、本当に好きなものが見つかることも

 今、色んな技術が発達して、最先端で最も効率よく回ってるかと言うと、そうじゃない。エネルギーやリサイクルなど循環型社会が理想だと言われるけれど、江戸時代の生活様式を見てしまうと、今以上にちゃんと循環している。そこまで使うのかってくらい、色んなものを使っている。縄文時代の生き方、生活の回し方がすごいいいな、とも思う。だから、確かに“昔は良かった”は、その通りなんです。でも、今に向き合わなきゃいけないのも、その通り。ただ今がベストというわけではない…って、堂々巡りですよ(笑)。

 それでもラストシーンを観て感じたのは、そうした時間旅行を通して、自分が最も好きなところやモノや人にたどり着くんだな、ということ。例えば僕で言うと、今の最先端は iPhone14で使っているけれど、それは自分にとってのベストじゃないんだ、と気付くとか(笑)。昔に行ってみて、僕はホームボタン付きのiPhoneがやっぱり一番好きなんだ、大切なんだ、と気付くような映画かな。

 先日も、同世代の俳優たちと話していたのですが、今はスマホがあり、LINEがあるけれど、デジタルで「好き」を伝えるのって、どうなんだろう、LINEで告白はあり得ないよね、と。デジタルだからこそ言えることもあるけど、大切なことをデジタルで伝えられちゃうのって、意思が弱くないか、とか。そうして結局、今の社会って何なんだってところに行きつくのですが。僕も別に江戸時代に行きたいわけじゃないけれど(笑)、この映画は、そういうことを軽い感じで語りながら、大きいことを問いかけてるような気もしました。

知れば知るほど楽しめる! 偉大な芸術家を演じる豪華キャスト

 僕はフィッツジェラルド夫妻と聞いて、作家ではなく歌手のエラ・フィッツジェラルドを思い浮かべちゃったりしましたが、実在した著名な芸術家が多数登場し、それを有名な俳優さんたちが演じている。僕もピカソに「おお~っ」となったり、ヘミングウェイがメチャクチャカッコ良い、なんて思いましたが、たくさんの知識がある人が見たら、もっと楽しめるんだろうな。何しろ美術館員さんを、元フランス大統領サルコジ夫人のカーラ・ブルーニさんが演じているそうですから。もう、情報量で頭がパンクしそうな豪華キャストです。

Everett Collection/アフロ

 ティモシー・シャラメやエル・ファニング、セレーナ・ゴメスが出ていた『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』は観たことがありますが、まだ、アレン作品にはあまり足を踏み入れていないんです。でも、なるほど、これがウディ・アレンか、と思いました。軽妙な会話がとっても面白かったです。しかもたった94分!

 ギルが「雨のパリは一番美しい」と言って、イネズには「濡れるから嫌よ」と言われていましたが(笑)、雨の時が最も美しいだなんて、本当にパリに行ってみたくなりました。本作の飾らないパリの感じ、何気ないパリが本当によくて。撮り方なのかなぁ。不思議なことが起きても不思議じゃないというか、パリでこんなことが起きちゃったらいいな、起きちゃいそうな気がするな、というか。そういうフィクション感が現実に落とし込まれていて、境界なくスムーズに時代を超えていました。

 何も考えずに気楽に観るのもありだし、SFなのにリアリティがある、ぶっ飛んでいるけれど、ぶっ飛び過ぎていない、リアルな人間たちを描いているからドラマのリアリティも楽しめる。脚本のスゴイところかもしれないですが、大作映画とはまた違うワクワク感が素晴らしい。ちょっと涼しくて心地いい今なら、より深く観てもらえるんじゃないかな。“秋の夜長に観る映画”として選んだ、僕が観ながら感じていた“ワクワク感”を、是非味わってほしいです。


鈴鹿央士 映画 個人的なツボ
Photofest/アフロ

 やっぱり今回は、“ダリがダリにしか見えない”というポイントです(笑)。本当に、こういう人だったんだろうなって思わせる説得力がスゴイ。すごく濃~いダリなんです。しかも演じているのが、まさかの『戦場のピアニスト』の主演俳優、エイドリアン・ブロディ。ダリだけでなく、たくさんの伝説の芸術家をオールスターが演じている現場って、すごく楽しかったんだろうな。観ていても、すごく楽しそうだなって伝わってくる雰囲気で、いいなぁ~って思いました。


©Photo by Roger Arpajou (c)2011 Mediaproducción, S.L.U.,Versátil Cinema, S.L.and Gravier Productions, Inc.

ハリウッドの売れっ子脚本家ギル(オーウェン・ウィルソン)は、本格的な作家に転身したくて悪戦苦闘中。婚約者イネズ(レイチェル・マクアダムス)の父親の出張に便乗し、憧れのパリを訪れたギルは、パリでなら小説が書けると胸を弾ませている。ところがイネズのいけ好かない男友達ポール(マイケル・シーン)と出くわし、親しそうな2人の様子が面白くないギルは、ひとりで夜のパリを彷徨う。そこへクラシックカーが現れ、誘われるまま乗り込んだギルは、賑やかな社交クラブにたどり着く。そこでフィッツジェラルド夫妻やコール・ポーター、ジャン・コクトー、ヘミングウェイらを紹介され、自分が1920年代のパリに迷い込んでしまったことに気付く。そしてピカソの愛人アドリアナ(マリオン・コティヤール)と知り合い、惹かれ始め……。米アカデミー賞に作品賞を含む4部門にノミネートされ、見事、オリジナル脚本賞を受賞。

素敵な音楽と出会ったり、美味しいコーヒーと出会ったり、楽しく過ごしています。
気になる本を少し読んでみたり、一人でゆっくりしていることが多いです。 ──「silent


Text:Chizuko Orita

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