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【鈴鹿央士の偏愛映画喫茶vol.27】静かで情熱的。何度も観て誰かと語り合いたい『燃ゆる女の肖像』

【鈴鹿央士の偏愛映画喫茶vol.27】静かで情熱的。何度も観て誰かと語り合いたい『燃ゆる女の肖像』

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鈴鹿央士 連載 鈴鹿央士の偏愛映画喫茶 
発表

 前回は『逃げた女』をご紹介しましたが、別に“女シリーズ”で攻めてるワケではありません! 今回の『燃ゆる女の肖像』は、海外の映画祭などの高い評価を色々と聞いていて、ずっと“観たいリスト”に入れていて、ついに観てみました! そうしたら難しいところもありつつ……頭や胸の中に“ス~ッ”と静かに何かが通り過ぎて、なんかスゴイ映画を観たぞ、という感覚になりました。それが何なのかを、考えながら紐解いていきたいと思います。

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映画『燃ゆる女の肖像』ブルーレイのパッケージ画像

『燃ゆる女の肖像』
ブルーレイ:¥2,200(税込)
 DVD:¥1,257(税込)発売中
発売・販売元:ギャガ
© 2019 Lilies Films / Hold-Up Films & Productions / Arte France Cinéma

18世紀の孤島のお屋敷、最初はホラーかと思いました(笑)

 男たちが漕ぐボートに乗った画家のマリアンヌが、海に落ちた絵を自ら飛び込んで拾いに行く、なんかすごい強いヒロインだな、というところから始まります。彼女が向かうのは、ブルターニュの孤島。そこに住む貴族の娘エロイーズの肖像画を依頼されて、島のお屋敷を訪ねるんです。実は僕、最初はホラー映画かと思って観ていたんです(笑)。最初の晩、マリアンヌが暖炉の明かりで、前に雇われた画家が描いた肖像画を見たら、なんと顔がなくて。エロイーズの姉が数年前に亡くなったというし、暗いし、暖炉の火は揺れるし、絵の顔はないし、うわ~怖い~って。でもホラーとは全く違う映画になっていくので皆さんは安心して観てください。


映画『燃ゆる女の肖像』場面写真1

 肖像画はエロイーズの母が強引に進めている縁談のための見合い写真的なもの。エロイーズはそれを嫌がり絵に描かれることを拒んでいるんです。そこでマリアンヌは画家であることを隠して「散歩相手として」エロイーズに近づきます。2人で散歩に行ったとき、崖に走って行ったエロイーズを追いかけたマリアンヌが「もしかして死ぬことを夢見てた?」と聞くのですが、エロイーズは「思い切り走ってみたかった」と答えるんですよね。

 その後、砂浜に座って喋っている2人を見て、僕は“いい2人だなぁ”と思い、もしかしたらこの2人は恋に落ちるのかな、と予感を覚えました。

映画『燃ゆる女の肖像』場面写真2

計算され、抑制された緻密な音使いは“これぞ映画の音”!

 全体を通して、とても静かな映画で、だからこそ“これぞ映画の音だ”という音が使われているんです。例えば、絵の具を混ぜる時のビチャビチャという音も、うわ~スゴイなと強く印象に残っています。音楽もほとんど使われないので、人々が集まるお祭りのシーンや、最後に聴きに行くオーケストラのコンサートなど、数少ない音楽が非常に効果的に響くんですよね。


互いに惹かれ合って行くときの丁寧な描写がすごくいい!

 エロイーズのお母さんが、島から本土へ行って留守だった間、エロイーズとマリアンヌ、住み込みのメイドさんの3人が楽しそうにキャッキャと過ごしているのもメチャクチャよかった。階級の違う3人――お嬢様と雇われた画家とメイドが、同等の目線で言葉を交わしながら絆を育む姿、友達感覚で打ち解けている3人の関係が、観ていてすごく楽しかったですね。

 3人でギリシア神話「オルフェウス」を読むシーンも印象に残っています。詩人オルフェウスが亡き妻を生き返らせてほしいと冥界の王に懇願して連れ帰る途中、約束を破ってふり返ったために再び妻が冥界に引き戻されちゃう。メイドさんは「ふり返った夫が信じられない」と怒り、エロイーズは「妻を心配したから」と理解を示すのですが、マリアンヌは「詩人とはそういうものだ」と言うんです。芸術家としての言葉ですよね。もう深すぎて難しくて頭に入って来ないくらいでした。芸術家の感性って言葉では表せないけど、でも何か感じたことを自分の中にとどめておきたい、そんな感じがします。

映画『燃ゆる女の肖像』場面写真3

 ただ、メイドさんが望まぬ妊娠をしてしまい、堕胎するところはすごく残酷だったなぁ。3人で流産させようと色々と試みたものの、結局、助産師さんに堕胎してもらうのですが、その家のベッドに横たわった彼女の隣に別の赤ちゃんがいる。自分のお腹の赤ん坊を堕ろす、まさにその瞬間に赤ちゃんが隣にいるなんて、僕には残酷過ぎました……。

 しかも、その赤ちゃんが上手いんですよ。絶妙なタイミングで彼女の指を握ったり、彼女に笑い掛けたりして。本当に赤ちゃんって演技派だって思いました。僕も、ドラマ「18/40」で生後5ヶ月の赤ちゃんと共演したのですが、名前を呼ぶとちゃんと反応して、「すごいね」と言うと笑ったり、本当に上手かった(笑)。

絵の完成が近づき、物語は静かにクライマックスへ

 2人の距離が縮まってエロイーズが心を開き、マリアンヌは画家であることを告白し、密かに描き進めていた肖像画を見せるのですが、それを見たエロイーズは布でビッと拭って消してしまいます。うわ、エグいなって驚きましたが(笑)、なぜ彼女は怒ったのか――。その時「これが私!?」って聞くんですよね。絵が完成することで、マリアンヌと離れ離れになるのが嫌だった。ということなのかな。

映画『燃ゆる女の肖像』場面写真4

 終盤、いつ好きになったのかをベッドの上で話すシーンがあるのですが、互いの答えを聞いたとき、もう一度、観たくなりました。次は多分もっと分かることがあるんだろうなって。2人の表情や感情の流れ、会話もその時に映る映像も、全てが細かく緻密に計算され尽くしている映画だと感じました。そのベッドの上のシーンは、肖像画を描き終わり、エロイーズのお母さんが島に帰って来る前日なんです。そこで互いの思いが募りに募って涙が出てしまう姿を上から撮っているのですが、まさに俳優2人だからこそ起きた化学反応、「うぉぉぉ、よい。」と唸るほど素敵なシーンでした。

映画『燃ゆる女の肖像』場面写真5

 18世紀という女性が働くことがよしとされていなかった時代に肖像画を描いているマリアンヌ。展覧会には父親名義でしか出品することが出来なくて……。そんな時代の女性の生き方や幸せとか、色々考えさせられました。肖像画の完成=お別れであり=エロイーズは望まぬ結婚をする、ということになるわけで……。

語り過ぎないひとつひとつのシーンの、意味を何度も考えたい

 マリアンヌが島から去っていくとき、または終盤のコンサートのシーンなどに、“ふり返るか、ふり返らないか”とか、その理由をどう捉えるかによっても色んな違う解釈があると思います。芸術的なことが好きな人、映画好きな人には是非観て欲しい。1度では分からないことがきっとあると思うので、誰かと一緒に観て“あれはどういうことなのか”と語り合って欲しいです。ただ見始めたら没入感がすごいので、溶けたい時とか、お休みの前日に観るのをおススメします。よく分からなくても“なんかスゴイよかった”と思うし、誰かと喋ると“絶対もう一度観たい!”となる、引力強めな映画でした。

鈴鹿央士 映画 個人的なツボ

 2人がベッドの上にいるシーンで、途中、マリアンヌがエロイーズのことを「ちゃんと覚えていたいから」と絵を描くんです。そうしたらエロイーズに「あなたの絵も描いてよ」と言われ、マリアンヌが自分を描くために丸い鏡を置くのですが、映像を引いていったら全裸のエロイーズの股間に鏡が置いてあるんですよ。相手の股間にある丸鏡に自分の顔を映しながら自画像を描くって、なんか急にネタが入って来たような感覚があって(笑)、急に面白い感じになって笑っちゃいました。うわ、めっちゃシュールだぞ~って。本作は時々笑えたりしますが、あのシーンは本当に面白かったです。


映画『燃ゆる女の肖像』場面写真6

『燃ゆる女の肖像』(2019/フランス)
18世紀、望まぬ婚姻話を強引に進められる貴族の娘と、その結婚のために彼女の肖像画を依頼された女性画家が、切なくも情熱的な恋に落ち……。2人の愛の行方と女性の生き方を、壮大かつ繊細な映像美で映し出し、カンヌ国際映画祭・脚本賞&クィア・パルム賞受賞の他、数々の映画賞に輝いた。画家役に『英雄は嘘がお好き』のノエミ・メルラン、貴族の娘に『午後8時の訪問者』のアデル・エネル。監督は『水の中のつぼみ』(07)、『秘密の森の、その向こう』(21)のセリーヌ・シアマ。

最近、布団を新しくしたりして、ますます家の中が充実してきています(笑)。僕はあまりベッドメイキングしない派だったんですよ。朝起きた時の状態が、自分がリラックスして寝ていた時の形なんだろうなって思って。だから布団を抜け出した時の形を保ったまま、夜そこに入って寝たい派というか。そうしたら自分がリラックスしている体勢のまま眠りに入れるとずっと思ってきたのですが……。先日、布団を新調し、シーツも洗濯し、すごい綺麗にして寝てみたら、メチャクチャすぐに寝つけて、全然そっちの方がぐっすり眠れることに気付いたんです(笑)。ということで今はベッドメイキング派となり、綺麗にして寝るようにしています。

Text:Chizuko Orita

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