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上白石萌歌が語る偏愛サマームービー『恋人までの距離』

2023.07.04

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映画好きの女優・上白石萌歌さんが愛してやまないベストサマームービーは何？　観ると夏ならではの高揚を感じたり、どこかに行きたくなる、そんな衝動に駆られる作品を熱い語りとともに紹介してもらった。

夏の夜道を歩きながら
誰かと語り合いたくなる

やっぱり映画は映画館で観るのが理想なんですけど、忙しい時期はそういうわけにもいかず、最近は家でゆっくり楽しむことが増えています。季節に合わせて観る映画を選ぶこともありますね。特にひと夏の物語を描いたお気に入りの映画はたくさんあって。夏はいろんな人にとって思い出深い季節だから、それだけ夏の映画も多く作られているんだと思います。なかでも私は人の会話や街の風景が美しく描かれている作品に惹かれるんです。

初夏のウィーンを舞台にした『ビフォア・サンライズ恋人までの距離〈ディスタンス〉』もそんな作品のひとつ。初めて観たのは2、3年前。ここまで怒涛の会話劇を観たことがないくらいに主演の2人がずっとしゃべっていて、脚本はどうなっているんだろうと疑問に思ったのを覚えています。後から調べると主演のイーサン・ホークが脚本に携わっていて、映画の中でこんなにも自然な佇まいが成立している理由がわかったような気がしました。お互いを見つめる視線だけで2人が惹かれ合っていることが伝わってきます。

『ビフォア・サンライズ
恋人までの距離〈ディスタンス〉』

それ以来、何度も繰り返し観る作品になりました。ストーリーがわかっているので、食器を洗いながら再生しておいて、好きなシーンになったら集中して観たり。時間がゆったりと過ぎていく映画なので、そういう観賞スタイルにも合っているんです。

この作品は『ビフォア・サンセット』『ビフォア・ミッドナイト』と続く3部作なんですが、1作目の余韻を残した終わり方が完璧すぎて、続編は観ていません。自分の中でこの2人の物語をここで終わらせておきたいという気持ちがどうしてもあって…。

特に印象的なのは、冒頭の2人が出会うシーンです。イーサンが電車を降りる前のジュリー・デルピーへの口説き文句がとにかくカッコいいんです。簡単に言うと、「いつかキミが結婚生活への情熱を失ったときに備えて、僕との退屈な思い出をつくっておこう」というセリフ。そんな面白そうなこと言われたら、そりゃついていっても仕方ないよなって（笑）。

ハープシコードの音に合わせて2人が踊るシーンも好きです。楽しそうなのに別れが近づいていることに対する寂しさがにじみ出ているんですよね。映画内では一夜の出来事なんですが、リアルタイムでカメラを回していたんじゃないかと思うくらい感情の機微が表現されているんです。夜のシーンと朝のシーンを同じ場所で撮ったりもしていて、時間の経過も丁寧に描かれています。だからこそ、登場人物が少なくても映画としての見応えがあるんだと思います。

長距離列車の中で意気投合した男女がウィーンで下車して、朝日が昇るまで街を歩き、語り合う。発売元：ワーナー・ブラザースホームエンターテイメント　販売元：NBCユニバーサル・エンターテイメント　DVD￥1,572

この映画を観るといつも、人が仲よくなるのに時間は関係ないんだと思い知らされます。それは恋愛に限った話じゃなくて、友情とかでも同じですよね。一緒にいればいるだけ尊いということではなく、短い時間でも豊かな関係を築くことができる。この2人はもちろん恋をしていますが、それ以上に固い絆で結ばれているような気がするんです。そこに人間関係における大切な教訓が詰まっているように感じます。

夏の夜って散歩に向いているし、人と一緒なら自然と会話も弾みますよね。映画の2人も距離が近づくにつれ、お互いの本質に迫るような深い話題が増えていく。この映画を観た後は、その会話についてどう考えたかを誰かと語り合いたくなります。もちろんそのときは、夏の夜道を歩きながら話したいですね。