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今や身近な選択肢になったウルトラライト登山、UL。荷物の軽量化によって、山の遊び方はもっと自由になる。体現者である二人が語る、その魅力とは?


Yusuke Yamazaki
1994年生まれ、東京都出身。アウトドア好きの父の影響で幼少期より山に親しみ、ボーイスカウトの経験もあり。山に出かける主な目的は昆虫の撮影・観賞という大の昆虫好き。

Sho Masuda
1995年生まれ、栃木県出身。雑誌撮影のモデルとして山に登ったことがきっかけで、登山に夢中に。アメリカのロングトレイルPCT(約4,200km)踏破歴もある健脚ハイカー。
ULとの出会いと、
そぎ落とした先に見えるもの
グラム単位で荷物を引き算し、体への負荷を最小限に抑える登山スタイル、ウルトラライト(以下、UL)。ストイックなイメージは過去のものになりつつあり、現在は「もっと遠くへ、もっとわがままに遊ぶ」ための軽快なスタイルとして、感度の高いハイカーの間で新たなスタンダードに。初心者にとっても挑戦しやすく、登山を楽しむヒントが詰まったULの魅力を、エキスパートの二人が教えてくれた。
山﨑 そもそも僕がULに出会ったのは10年くらい前。その言葉自体が今ほど知られていなくて、精通したショップも情報も本当に少なかった。
増田 僕も同じくらいかな。その頃は、あらゆるアウトドアショップのウェブサイトをチェックして、手持ちの道具と照らし合わせて、何が足りないか、何が欲しいかをずっと考えてた。
山﨑 わかる(笑)。僕も一緒だよ。
増田 でも、一番の変化は、2023年にアメリカの長距離自然歩道「パシフィック・クレスト・トレイル」(以下、PCT)に行く準備段階かな。自分が納得できるオールスターズを連れていきたくて、試行錯誤しながら道具を集めた。でも、いざ歩き出すと、これもこれもいらないなと、そぎ落としていった。結局ベースウエイトが2㎏ぐらいになって。最後は調理器具のクッカーもバーナーも捨てたもん(笑)。
山﨑 その軽量化ぶりは極限だね。でも、その状態ですら心が満たされちゃう魅力が、ロングトレイルを歩くという特別な旅にはあったんだろうね。
増田 PCTは4か月間をかけて歩いたんだけど、長く山にいると、それが日常になる。自分の体力ならこれだけの道具があれば大丈夫だっていう限界値がわかってくる。思考のすべてがシンプルになるんだと思う。
山﨑 東京にいると情報量が多くて、つい無用な考えが多くなる。でも、山を歩くという行為だけに絞られた状況だと、軽やかな思考でいられるからね。

山では昆虫撮影が主な目的の山﨑さん。カメラなどの機材は削らず、他の道具で全体の軽量化を調整する。愛用のクッカー類は超ミニマル派で知識も豊富だ。「店では道具選びの相談も大歓迎です。昆虫好きな人も、ぜひ!」(山﨑)
軽くした先の余白に、
自分だけの遊びを詰め込む
増田 今は、また山の楽しみ方が少し変わってきてる。不思議だけど、極限まで絞ったはずの道具が、逆に増えてきてて、山の中でゆっくり過ごすための道具を持ち始めてるんだよね(笑)。
山﨑 それ、わかる!
増田 釣り竿なんかもそうだけど、山の遊び道具が結構増えてきてる。
山﨑 新たな楽しみ方に気づくことって、とても豊かなことだよね。
増田 そうなの。ただ、一度極限を知ったからこそ、増えた道具を含めても、最初の頃よりバックパックが軽いから。
山﨑 ULの面白さは、ベースウエイトが同じ4㎏でも、中身が人によって全然違うこと。以前は、どれだけ削れるかという追求が主流だった。軽いけど寝心地が悪い薄いマットでひと晩寝て、全然眠れたよ! と言い張るようなストイックな時代もあった。でも今は、誰もが軽くて便利な道具を買える時代。ベースウエイトを軽くするのは当たり前で、その先の余白に、どんな遊びを詰め込むかっていう、個性を楽しむフェーズに突入してる気がする。うちのスタッフでも、スケボーを担いで山に登って、下山後にそのまま駅まで滑り降りるなんて人もいるもんね。
「軽さ」という正義が、
登る景色を変えていく
山﨑 軽量化は体力や年齢を問わず、ある種〝正義〟だと思ってる。僕自身、過去に20㎏近い荷物を背負って八ヶ岳に挑んだときは、あまりの重さにしんどすぎて断念した。登山をやめようと思うほどだったけど、後にUL装備で再挑戦した際、その急登で顔を上げて登れる自分に驚いたんだよね。そうすると、以前は気づかなかった空の青さや、高山植物の美しさが目に飛び込んできて、登る行為そのものの景色が変わった。今はいろんなブランドが道具を以前より軽くしていて、より多くの人が“軽さ”による恩恵や感動を味わえるようになっていると思う。
増田 世間的にULがブームなのもあるけど、バックパックの生地ひとつとっても昔とは全然違うよね。軽いのに耐久性が高いメッシュとか、新しい素材の開発とかの影響も大きい気がする。
山﨑 まさに進化だよね。
増田 あと個人的なことだけど、僕は自分の体を進化させるのが、今いちばん楽しいんだよね。道具は便利だけど、結局は体が丈夫で疲れにくければ長く歩ける。だから、体力を引き上げて、山登りをもっと自由にしたい。
山﨑 それって山登りの本質かもね。最初はしんどくても、気づけば体力がついていて、久しぶりに同じ山へ行ったときに、あれ? 楽勝じゃんって感じる。大人になってから自分の体の進化や成長を実感できるのって、最高に気持ちいいし、楽しいよね。

ULスタイルのエキスパート同士、二人は取材中も楽しそうに道具談議を繰り広げていた。増田さん愛用のスクリュー蓋が便利なクッカーは、山﨑さんが教えてくれたそう。軽量性だけが条件ではないクッカー選びの世界は、奥深い。
正解もルールもない。
好奇心と本能で山を遊ぶ
山﨑 これから登山を始めたい人は、食料や水はどれくらい必要? とか不安だと思うけど、最初は自分が安心できる分をしっかり持っていくのがいいと思う。自分にとって何が大切で何が不要か、試行錯誤のプロセスそのものを楽しみながら、自分のスタイルを探ればいいんじゃないかな。
増田 体験を繰り返すと、本当に必要なものがわかってくるからね。
山﨑 初心者の人は、不安でエマージェンシーキットを山盛りに持っていったり、自分がどれくらい歩けるかわからなかったりする。だから最初はあえて全部持っていって、その重さを体感することから始めてもいい。そこから荷物を徐々に減らしていった先に、心身ともに楽しめる自分のベストなスタイルが見えてくると思う。
増田 最低限のエマージェンシーとか、本当に必要なものを持ちさえすればね。山はサバイバルだから!
山﨑 日帰り登山だって、山に入れば一日中そこで生き抜くわけだからね。自分の足で登って無事に下山したときの達成感は、何物にも代えがたい。
増田 下山した後の風呂とか、本当たまんないよね。
山﨑 あの悪魔的な解放感ね。不便な自然の中でやりくりしたからこそ、コンビニでいつでも食料が買えるとか、日常の当たり前のことに猛烈に感謝を覚える。贅沢にさえ感じる。
増田 登山って全部が思い出になるのがいいよね。あと、始めたての頃は目に入る景色全部が新鮮で、木の根っこや岩の模様まで全部カメラで撮ってたのに、今はあまり撮らない。でも、初心者の友達と行くと、当時の自分と同じことをしてて、それを見て、この視点忘れてたなって気づくこともある。
山﨑 初心を思い出して、いい刺激になるよね。その視点を得たうえで、自分がさらに研ぎ澄まされたりする。ULは、あくまで山を楽しむ手段のひとつだからね。山のスタイルに正解はないし、日帰り登山にデカいバックパックを選んでもいい。10㎏背負って、山頂で豪華な飯を食べるのもいい。ルールがないのが山のいいところだから。
増田 好奇心を止めないこと。持っていきたければ、全部持っていけばいい!
山﨑 本能のままにね。経験値が上がると、道具は自然とシンプルになっていく。ムーンライトギアに来てもらえたら、いくらでも相談に乗ります。お客さんの道具選びや遊びの話を聞くのが楽しくて話し始めたらつい長くなるし、気づいたら全然関係ない大好きな昆虫の話をしてたりするんだけどね(笑)。
ふたりの愛用品

[右/増田さん愛用品]
オンブラズのサングラス、SONY RX100Ⅶ、アルコールながら火力が強いバッチストーブのGram Weenie Pro、スクリューの蓋が便利なバーゴのTitanium Bot 700。
[左/山﨑さん愛用品]
老舗釣り漁具メーカーとコラボしたテンカラ竿。サクラ×ムーンライトギアのKONGO TENKARA ROD、ブラントンの単眼鏡 ECHO® Pocket Monocular、カメラ OM-1 Mark II、エバニューのチタン製マグを筆頭にクッカーは超軽量!
山﨑さん愛用品

ムーンライトギアで取り扱うUL系ブランド、パランテの“mini joey”は初心者の日帰り登山にもおすすめの小型タイプ。荷物の出し入れがしやすいポケットが豊富で便利。
増田さん愛用品

ビボベアフットの“PRIMUS TRAIL FLOW”。トレランレースのために鍛錬中という増田さんの足もとを支えるベアフットシューズ。グリップ力に優れ、山道でも心強い。
Photos:Asuka Ito Composition&Text:Marie Miyazaki

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