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前回と今回は、僕が出演している映画『花まんま』の前田哲監督をお呼びして、映画の見どころや現場でのエピソードを対談でお送りする特別編です!今回は後編です。

僕が演じた中沢太郎は、大学でカラスの研究をしていて、カラスと喋ることが出来る人。有村架純さん演じるフミ子さんと、もうすぐ結婚する予定です。フミ子さんのお兄さん・俊樹さんを演じるのは、鈴木亮平さん。今回は、そのお2人とのエピソードを満載でお送りします。



『花まんま』
4月25日(金) 全国公開
配給:東映
©2025「花まんま」製作委員会
鈴木亮平さんのアドリブで、
エキストラさんが本当に泣き出した
鈴鹿 前回、アドリブの話で終わりましたが、アドリブと言えば亮平さんの一言に“スゴイ!”と思わされることも多かったです。例えば結婚式のスピーチの中で、妹のフミ子さんのことを“宝物やねん”というくだりで入ってきた一言とか、聞いていて“おおー!!”と感動しました。脚本とも違っていて、テストや段取り、本番での何度かも、どれも違っていた気がします。

前田 スピーチのシーンは、本当に簡単な段取りしかしなかったんです。何度もリハしてしまうと、聞いている側のリアクションにも影響があるので。パンといきなり本番に近い状況で、“何を言い出すの!?”という状態で始めたら、エキストラの方たちがみんな本当に泣いてしまって。
僕は、お芝居の最中は俳優=役のその人そのものだから、俳優から自然に出た言葉が一番強いと思っているんです。あとは、それをどう出してもらうか。つまり僕は、俳優たちにリラックスして、自然にエモーショナルなものを出し切ってもらえる環境を作るというか。あの結婚式のスピーチは後半に撮影できたので、役同士としてもそれまで蓄積した関係性ができていたからこその、いい表情が撮れたのだと思っています。

鈴鹿 台本を読んでいる時から、あのシーンが一番の楽しみでした。撮影時に、僕と有村さんがひな壇に座っていて、亮平さんの方を見て聞いていたら、それまで撮影してきたいろんな場面が思い出されて来て、目の前にいる人たち――親族やお世話になった人たちに囲まれて、幸せを感じながら暮らしてきた2人だなと感じて。同時に、これから結婚してフミちゃんとの生活が始まるんだなとか、頭の中でいろんなものがかけ巡って、泣きそうになってしまって。そうして涙を拭いたら、真っ白なハンカチが茶色になっちゃったというオチがあったんですが(笑)……。
お兄さんの言葉一つ一つに重み、思いがすごく込められていて。それを太郎として受け取ると、やっぱり心が激しく動いて、あの時の感覚をなんと表現したらいいのか難しいですが、震え上がるというか……とにかくなかなか味わったことのない感覚でした。他のシーンでも感じましたが、亮平さんの喋る言葉は、すごく生きているんです。セリフではあるけれど、すごくリアルで……もう、本当にすごかったです。

映画の観客もみんな
ひとつになれるシーンにしたかった
前田 あのスピーチの内容には、亮平さん自身のアイディアもいっぱい入っています。色々と話をしたので、どういう風に来るかは大体わかっていましたが、その想像を超えるものを出していただきました。なのであとは、映画の観客みんなに、あの会場で一緒に座っている感覚になれるような編集をしなければ、と僕は非常に冷静に現場に立っていました。ひたすらスピーチの臨場感や、その場にいて味わった体験を、映画に生かすためにどう編集しようかを考えていて。でも撮影監督の山本(英夫)さんまで涙ぐんでいるのは驚きましたし(笑)、スタッフもみんな目が潤んでいましたね。
鈴鹿 僕が最も印象に残っているのは、結婚式が終わって“ありがとうございました”と披露宴のお客さんに挨拶をしているシーン。前田監督から、そこで“間を取るように”と言われたんです。それで演じてみて、僕の体感では30秒近く間を取ったつもりだったのですが、“もう少しあった方がいい”と言われて、ちょっと戸惑ってしまって。
そうしたら亮平さんが来てくださって、どうしたら“間”を取れるかアドバイスしてくださったんです。“間”の前の、ある方のセリフを太郎が受ける時の感情――ビックリや衝撃を、もっと大きく受け取れば“間”が取りやすくなるよ、と。監督からの言葉や演出をどう受け取るか、どう咀嚼して演技に反映させるかが、本当に大事だと思いましたし、その捉え方も変わりました。あの亮平さんのアドバイスは、本当に大きかったです。
前田 確かに“間”にも気持ちがあった方がいいよね。

鈴鹿 いつも通り前田監督に言われたことを自分で考えて演じて上手くいかなかったのを、亮平さんがどうすればいいか、具体的に一種の方法を教えてくださいました。新しい読み取り方や見え方を捉えることが出来るようになった気がします。
一人一人のアイディアから生まれた
“らしさ”が積み重ねたチーム感
前田 僕は、お好み焼き屋さんのシーンの話をするのかと思ったよ。お兄ちゃんにフミちゃんがおしぼりを投げつけるんですが、太郎がそれを綺麗に畳んでフミちゃんの横にそっと置くシーン。太郎の優しさが出ていて。
鈴鹿 あのシーンは勝手に僕がやったことですが、太郎さんの優しさを示してるね、ということになったんですよね。
前田 そう。フミちゃんと結婚する太郎を、兄やんが認める“何か”が欲しい、と。“意外にこいつ優しいとこ、あんねんな”と思わせる何かが欲しくて。なので太郎が畳んでいるのを兄やんは目線で追っている。そういう時、みんなが現場でサッとアイディアを出してくれるんです。お芝居ってリアクションだと思うので、強い球が来たら強く打ち返すだけではなくて、するっと何か違う手で返すというお芝居を、自然に央士君はされていたと思います。
鈴鹿 太郎が結婚式で、初めてフミちゃんのウエディングドレス姿を見るシーンもそうでした。段取りをした時、あまりにフミちゃんが光り輝いていて、緊張して近づけなくなってしまったんです。その時に、前田監督が“ここまで行くやろ”と背中を押してくれたのも大きくて。ウイカさんが演じる駒子さんも背中を押してくれて、ようやくフミちゃんの前に行くシーンになりました。

前田 確かにそうだった。式場で着替えて“フミちゃん綺麗やな”の場面で、確かに背中を押すね。でもそれは、央士君がやることすべてが自然だからでもある。フミちゃんがほんまに綺麗で近づかれへん、って。それで押されて行って“綺麗やな”と、とても素敵なシーンになったわけです。
有村さんもアイディアマンなんです。例えば、ある記事を見た兄やんが走り出すシーンで、“もう一つ何かが欲しいね”という話になった時、有村さんが出るシーンではないのに、“それなら、モンタージュシーンの中にウサギのぬいぐるみを見る場面を入れたら”と提案してくれて。みんながバトンを渡し合って進んでいくというか。そうしたら今度は、そのウサギを亮平さんがスピーチで活かして来たんです。本当に遠慮なく話が出来て、みんなで作っている感覚が強い作品でした。
鈴鹿 そういう奇跡や偶然が重なったと思います。すごく手応えを感じましたし、実際にいい仕上がりになると経験値から感じました。僕は有村さんと“初めまして”だったのですが、すごく優しい方で、すごく現場を見てくださっていて、亮平さんと有村さん、お2人とも気にかけてくださっているのを感じていました。
前田 なんかお2人とも、すごく可愛くてしょうがなかったみたいですよ(笑)。もしかしたら僕以上に可愛いと思っていたのかもしれない。総じて有村さんが、1番肝が座っていますが(笑)。本当にチーム感がすごく上手くいった現場でした。

鈴鹿 僕は結婚したことがないし、まだ結婚式に出たこともないんです。なので、お芝居で初めて経験することも多く、自分がもう少し年を重ねた時にみたら、また違うことを感じるんだろうな、と思いました。きっと頭に残るセリフや目がいく場面も変わるんだろうな、と。既に本作は、これから先の人生で何度か観たくなる作品になっています。実は脚本を読んだ時点でそんな気がしていましたが、完成した映画を観て確信しました。
前田 つまり未来を生き続ける映画、と言えるんじゃないかな。
鈴鹿 はい、そう思います。映画を観て感じたのは、過去を振り返っていろんな記憶が蘇りもするけれど、やっぱり本作が向かってるのは未来。未来を見ているからこそ、前に進んでいける映画だなと思いました。

「あなたの大切な人は誰ですか?」
未来へとつながるみんなの物語
前田 まさにその通り。本作は大切な人を亡くしてしまう物語でもありますが、死んだ方々は過去の人になるわけではなく、僕たちと一緒に未来も生き続けるんですよね。記憶の中にも残っているし、つまりは一緒に未来を生きていくことに繋がる。親や祖父母たちは子どもや孫を通して、もう自分が生きていないであろう未来を見るわけです。亡くなった人がどう思っているのかは正確には知り得ないけれど、今を生きる人たちに対して、明るく元気に行き続けて欲しいと願っているんじゃないかな。だからこそ“愛しい”のではないかな、と。そういう思いが、この映画に込められています。
鈴鹿 この映画から何を受け取るかは人によって違うと思いますが、違っていて大正解ですよね。自分の心に染みてくるものが何だったのかを、映画館から出た時に感じて考えていただけたら嬉しいです。
感じることは違っても、きっと観た後に大切な人が思い浮かぶと思うんです。僕も自分のお兄ちゃんがパッと思い浮かびました。小さい頃はよく喧嘩をしたし、別に今もすごく仲がいいわけでもないけれど、かけがえのない存在、別のものに替えようがない存在なんだ、という気づきをもらえました。この映画の魅力は、観てくれた方の心の中で、それぞれの花が咲いてくれることだと思います。

前田 人の愛しさを感じて欲しいのと同時に、皆さんがココ(心)に持っている感情を開放できる映画だとも思います。なので、ぜひ劇場で感情を解放して欲しいです。人生は残酷なこともありますし、みんな色んなことを抱えている。それを劇場でパッと解放して、デトックスして欲しいですね。少なくとも心の中には、優しいものが残ると思います!


『花まんま』
大阪の下町で暮らす二人きりの兄妹・俊樹(鈴木亮平)とフミ子(有村架純)は、幼い頃に両親を亡くし、俊樹は父との約束を固く守って、兄としてフミ子を守り続けてきた。ある日、フミ子から「結婚したい」と恋人の太郎(鈴鹿央士)を紹介された俊樹は、複雑な胸中を抱きながらも妹の幸せを喜び、ようやく肩の荷が下りるとホッとする。しかし、遠い昔に封印したはずのフミ子の<ある秘密>が今になって蘇り……。
第133回直木賞を受賞した朱川湊人の短編集『花まんま』の表題作を、前田哲が映画化。
4月25日(金)より全国ロードショー
2025/日本/118分/配給:東映 ©2025「花まんま」製作委員会




今、次の作品に向けて色々と準備をしています。今回はフィジカルなアプローチのための準備もあるので、ジム通いをしながら少しずつ身体を作っています。どんな作品かは、もう少し先のお楽しみに! それ以外の時間は、観たかった映画やドラマを見て、台本を読んで、勉強して、写真を撮って……。そして、映画『花まんま』のプロモーション活動もしています!
コート ¥173,800・ジャケット ¥140,800・パンツ ¥140,800(ともにフランクリーダー)/マッハ55リミテッド[tel 03-5846-9535]
中に着たTシャツ(キャプテン サンシャイン)¥16,500/キャプテンサンシャイン[tel 03-6277-2193]
靴(ミドリカワリョウ)¥55,000/オーバーリバー[info@overriver.com]
Photos:Teppei Hoshida Hair&Make-up:Taichi Nagase Stylist:So Matsukawa Text:Chizuko Orita
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