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映画監督 今泉力哉の[オフビート映画に惹かれて]2作目:エリック・ロメール『飛行士の妻』

映画監督 今泉力哉の[オフビート映画に惹かれて]2作目:エリック・ロメール『飛行士の妻』

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作目
エリック・ロメール
『飛行士の妻』

監督/エリック・ロメール 出演/フィリップ・マルロー、マリー・リヴィエール、アンヌ=ロール・ムーリほか 発売元:シネマクガフィン 販売元:紀伊國屋書店 DVD¥5,280

エリック・ロメールが1980年代に撮った「喜劇と格言劇」シリーズ全6作の1作目。人でごった返したレストランや緑あふれる大きな公園など、フランスの日常的な街並みでロケ撮影&同時録音をしたライヴ感のある風景の中で、男女の複雑な恋愛模様が描かれる。映画の中盤で主人公のフランソワと女学生のリュシーが出会う場面は『街の上で』における青とイハが語らう夜のよう。話が脱線していくさまが期待感をあおる。


シーンの数が少なくても
“動く”ことで面白くなる

大学生のフランソワにはアンヌという年上の恋人がいる。そのアンヌが不倫関係にある既婚者のパイロット、クリスチャンと一緒にいるのを目撃したフランソワは彼のことを尾行する。その途中、バスで出会った女の子リュシーと何度も目が合い、なんだかんだあって、なぜか2人で彼を尾行することに。『海辺のポーリーヌ』や『緑の光線』などの作品で知られるエリック・ロメールですが私のおすすめの1本は『飛行士の妻』です。私の『街の上で』が好きな人は気に入るかと。

1本の映画には“シーン”と呼ばれる時間の単位があります。これは要するに“場所”のことです。部屋の中、玄関、移動中の道、喫茶店など、場所が変わるとシーンが変わり、これがいくつも連なって映画ができています。作品にもよりますが、2時間の映画だとだいたい100〜150シーンくらいでできているのが一般的なのかな。それに比べて私の『街の上で』(130分)や『窓辺にて』(143分)は50シーン前後。『飛行士の妻』に至ってはざっくり数えて30シーンくらいしかないのです。

映画ってやはり画(え)の魅力に乏しいとつまらなくなってしまう。だからシーンが少ないってことは退屈になりがちなのですが、この作品は常に動いているんです。職場→家→追いかける道→カフェ→バス→公園→カフェ→家。そもそも尾行する映画ですから移動が中心ですよね。また、1シーンが長い場面では常に“心”が移ろいゆく。特に、冒頭のアンヌとクリスチャンのシーンと終盤のアンヌとフランソワのシーン。アンヌの部屋で起こるこの2つの場面のアンヌの心の揺れは永遠に見ていられるくらい。フランソワといるときのアンヌの衣装、肌の露出具合も画面に緊張感をもたらしています。

2人の会話の場面でカメラの切り返しが少ないのもロメール作品の特徴です。普通は喋(しゃべ)っている人に対してA→B→A→Bと順番にカットが変わりカメラが向けられますが、この映画ではBが喋っているときもずっとAにカメラが向けられ続けるといった場面が多く存在します。それはわざわざBに切り返さなくても観客がその表情を想像できるから。また時として話の聞き手の表情のほうが雄弁なことも多いのです。

シーン数が少なくても退屈にならないのは、常にこの映画が“動き”続けているから。物理的にも、そして心理的にも。シーンが少ないことは時間を贅沢(ぜいたく)に使うことにもつながりますしね。

あと、ロメールの映画を観て学んだこととしては「昼は外、夜は内」を描こうってこと。昼は存分に太陽の光や広い空間を使ったほうが豊かな画になるし、逆に夜は外で撮ろうとすると照明とかの作り込みが大変でお金も時間もかかります。よく考えたら私たちの普段の生活も昼は外、夜は家の中で過ごしてますよね。昼は光の中でめいっぱい遊んだり食事したり(ロメール作品は庭先での食事も多い)。夜は部屋でいちゃついたり会話したり。これです。

次回はマイク・ミルズの『20センチュリー・ウーマン』について。

 


今泉力哉

1981年生まれ。2010年『たまの映画』で長編監督デビュー。2019年『愛がなんだ』が話題に。その他の作品に『あの頃。』『街の上で』『猫は逃げた』『窓辺にて』など。公開待機作に、Netflix映画『ちひろさん』(2月23日配信&公開)と最新作『アンダーカレント』(秋公開予定)がある。

Photo:Masahiro Nishimura(for Mr.Imaizumi) Composition:Kohei Hara

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映画監督 今泉力哉のオフビート映画に惹かれて

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