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生まれ変わったらなりたいもの選手権【連載】カツセマサヒコ「トーキョーカンバーセーションズ」第20回 

生まれ変わったらなりたいもの選手権【連載】カツセマサヒコ「トーキョーカンバーセーションズ」第20回 

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今日もどこかで、だれかが喋ってる。小説家カツセマサヒコさんの1話完結、オール会話劇!<メンズノンノ2023年12月号掲載>

 

「クレカの請求ってさあ」

「うん」

「総額だと覚えがないのに、個別に見ると覚えがあるよね?」

「わかる。めっちゃわかる。アレなんなん?」

「なんなんだろうね」

「今月すごかったもん」

「請求?」

「ゾッとした」

「いくら」

「20万」

「20万!? さすがにそれは覚えがないやつ混じってるでしょ」

「いや、あんま見てないけど」

「見たほうがいいって。20万はなかなかないよ」

「いやーでもなあ」

「覚え、あるの?」

「彼女にプレゼント買っちゃった」

「あー、そういうやつか。なに買ったの?」

「マルジェラの靴」

「それは高そうだ。よく20で抑えたね?」

「大出費だったなー」

「きついねえ。お金ないって言ってたの、それかあ」

「そうそう。別れたし」

「え、なんて言った?」

「別れた」

「え! いつ別れたの?」

「2週間前」

「待って聞いてない」

「ごめん、今言ったかも。気遣わせたくなかったし」

「いやいやいや、本当に? 20万の靴まであげたのに?」

「いや、靴だけで20万じゃないけど」

「まあそうかもだけど。でも、そんくらいのものあげたんでしょ?」

「まあ、そうだな」

「えー、きっつい。それで別れるの、嫌だね」

「いや、逆でさ。もう別れそうだったから、奮発しちゃった」

「あああああ、そゆこと? 繋ぎ止めたくて的な? マジか、マジかー」

「そう」

「一番悲しいやつだ。繋ぎ止めるために、頑張っちゃうプレゼント」

「そうな、まあな」

「あげたときはさ、喜んでくれたんでしょ?」

「まあ、そうだね。でもそれもさー、わかんないじゃん。一応その場では、喜んだフリするでしょ、プレゼントだし」

「まあ、そうかあ」

「今も、インスタのストーリーとかは見られるんだけどさあ」

「うん」

「いっちどもその靴見たことない」

「ねえ悲しいこと言わないでよーほんとさー」

「いやー悲しいよなー。もうなんか、別の生き物とか生まれ変わりたいもん」

「そうだね、それはちょっと、もう全部いやんなるやつだよね」

「ほんと、クジラとかなりたい」

「クジラね。クジラいいね」

「クジラいいよね? こう、ずーっと泳いでたいよね。天敵いないし」

「そうだね。でもなんか、それはそれで、寂しそうだけどね」

「え、寂しいかな?」

「なんか、映像とか写真で見るけどさ、クジラって結構、孤独っぽくない? 群れとかに出会えない子とか、いるんでしょ?」

「そうなの? そしたらずっとひとり?」

「うん。死ぬほど広い海で、陸とか見えないとこを1ヶ月とか泳いでるときとかあったらさ、俺、すげー不安になっちゃうと思う」

「あー俺そういうの絶対無理だ。家でもラジオとかテレビついてないと心細くなっちゃうし」

「あーそれはきついね。クジラも歌うらしいけどさ、自分がクジラだと、自分の歌だけしか聞こえないでしょ」

「それしんどい。ほかの音聞けないとパニックなりそう」

「だよねー」

「えーじゃあなんだろ、ライオンとか?」

「急に強そう」

「ライオンってさ、あれでしょ、ハーレムつくるんでしょ?」

「ああ、それ、プライドって言うんだよね。オスが1匹で、メスをたくさん連れてるってやつね」

「そうそう。いいじゃん。彼女ひとりからフラれても、まだ他の子がいるって思えたら超ポジティブにいられそう」

「そういう発想でライオン選ぶ人、初めて見た」

「いやライオンいいよ。俺もライオンだったら、別れそうな子にわざわざ貢いだりしないもん」

「自分で貢ぐって言うのやめなよ。そもそもライオンにそんな感覚なさそうだしね」

「そうだよな、いいなーライオン」

「でもオスのライオン、普通に過酷じゃない?」

「え、そうなの?」

「だってただ生まれてきただけなのに、オスってだけで、ある時期が来たら生まれ育った集団から追い出されるわけで」

「そうなの?」

「そうだよ。若いオスは追い出されて、自分で次のハーレムつくらなきゃいけないの。それで、ほかのプライドに乗り込んで、そこのボスであるオスライオンと戦って、勝つことで乗っ取ったりするって」

「あいつらそんなに苦労してんのか」

「数年に1回とかのペースでプライドのトップのオスは交代するらしいからね。負けたらまた放浪の旅だし」

「結局みんな孤独を味わうってかー」

「メスライオンはずーっと同じプライドで、血縁を絶やさないようにその中で一生暮らすらしいけどねえ。オスは難しいねえ」

「やるせないなあ。何かいい動物いないかな。こいつに生まれたら一生ハッピー! みたいなやつ」

「いやーそんな都合いい生き物はいないんだろうねえ、みんな過酷な環境で生きてんじゃないのかなあ。食物連鎖の頂点みたいなとこにいてもさあ、その中での競争がヤバいでしょ? 鳥とか、まだ飛べない兄弟を巣から落っことすやつとかいるよね。餌をもらえる確率増やすために」

「やっぱ人間が一番?」

「生存率みたいな意味で言えば、日本に生まれてこうやってダラダラ喋って生きていられてるのは、すごい恵まれてるんだろうねえ」

「そうかー、そういうもんかあ」

「異性とうまくいかない、みたいなのはまた別の問題だとは思うけどね?」

「まあそうだよな。あ、でもあれは? 遊園地にいる鳥とか、よくない? あいつらすっごい幸せそうじゃん」

「あーいるね、ああいうところの鴨とか、すごい太ってたりするよね」

「そうそう。エサなんていくらでも貰えてさー。それなのに野生の自由もあってさー」

「たまにすごい図々ずうずうしいやつとかいるもんね。ベンチの上乗ってきたり、手のひらまで食べにきたり」

「完全に餌付けされちゃってるやつね」

「そうそう。ああいうの、厚かましいけど、すごいなあって思う」

「いいよなー」

「でも、悪い人間もいるからねえ。変なもん食べさせられたりとかしたら危ないしねー」

「いや遊園地に行く人で、そんなやついる?」

「まあ、少なそうではあるね」

「でしょ? だったらやっぱり、遊園地の鳥が最強ってことだよ」

「そういう結論でいいの? これ」

「わかんない。でも、いいな、自由だし、安全だし。なりて~」

「まあ20万も払った末に別れたら、そう思う気持ちもわからなくないけどね~」

「お前は、なんかないの?」

「何が?」

「え、なりたいもの」

「そんな将来の夢みたいな聞き方されてもね」

「ないの?」

「あー、じゃあ、菅田将暉にはなりたいかな」

「え! そんなのずるいじゃん!」

「いや何が?」

「人間はナシでしょ、こういうの!」

「いや、ルール決めてないでしょ別に」

「えーでも! ずる! ずっる!」

「なんでなんで。ふふ。おもろいな」

「だってお前、俺が遊園地の鳥になってる横で、お前は菅田将暉になってんでしょ?」

「想像するとだいぶウケるね、それ」

「でしょ? 俺だって松坂桃李がいいよ、そんなこと言ったら」

「え、遊園地の鳥って言ってたじゃん」

「遊園地の鳥と松坂桃李のどっちか選べって言われたら、松坂桃李を選ぶだろ!」

「なんでちょっとキレてんの」

「だって芸能人もOKって聞いてなかったから」

「自分から始めたくせに」

「まあそうだけどさ」

「でも、菅田将暉も松坂桃李も、大変だと思うよ。ちょー努力してそうじゃん。悪い老け方しないようにとか、太らないようにとか」

「それは俺だって松坂桃李をやれるなら頑張るよ」

「まずは遊園地の鳥で頑張ってみなよ」

「なんで俺はずっと遊園地の鳥をおすすめされてんの?」

「まあ、その前に自分の人生頑張れって話か」

「急に正論。それは間違いないわ」

カツセマサヒコ


映画化もされた第1作『明け方の若者たち』での衝撃的なデビューから、第2作『夜行秘密』と人気作を次々に生み出す小説家。ぐさりと刺さる人間模様やリアルな感情の描写が、若者たちから熱い支持を集めている。執筆のみならず、ラジオ『NIGHT DIVER』(TOKYO FM、毎週木曜28時~)など、多方面で活躍中。
最新情報はインスタグラム@katsuse_mからチェックしよう。

※この会話はフィクションです。

撮影/伊達直人

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最終更新日 :

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