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この人が描く“ととのったー”の表現に衝撃を受け、サウナにハマった人は数知れない。サウナを題材にした書籍『サ道』『マンガ サ道』、ドラマ『サ道』の生みの親であり、「日本サウナ・スパ協会」が公式に任命する日本でただひとりのサウナ大使でもある。サウナとの出会いからサウナの未来、さらには自身の驚きのルーティンまで、あれこれインタビュー。
タナカカツキさん
COMIC ARTIST / KATSUKI TANAKA
1966年、大阪府生まれ。85年、小学館『週刊ビッグコミックスピリッツ』誌にて新人漫画賞を受賞し、マンガ家デビュー。89年、初のマンガ単行本 『逆光の頃』を刊行。主な著書に『オッス!トン子ちゃん』、『サ道』シリーズ、天久聖一との共著『バカドリル』シリーズなどがある。また、カプセルトイ「コップのフチ子」の企画・原案も手がけるほか、水槽内に水草や流木、石などをレイアウトして楽しむ「水草水槽」の第一人者でもあり、「世界水草レイアウトコンテスト」では世界ランク最高4位、日本人ランク最高1位を記録。近著に『はじめてのウィスキング』がある。
サウナと初めて出会った日のこと
――カツキさんは、現在のサウナ人気の立役者ですが、ご自身のサウナとの出会いはどんな感じだったんですか?
時期は2008年になると思うのですが、当時の私のメインの仕事はコンピュータグラフィックスで、パソコンの画面を見て、細かい数値を打ち込んでいく作業を一日中ずっとやっていました。ただ、年齢的なこともあって、だんだん無理がきかなくなってきて、あるときそうした生活による体の不調がいっぺんに出てきたんです。その原因のひとつが運動不足なのは間違いなかったので、近所にできたジムに入会して、最初はランニングマシンとかで体を動かしていたんですね。体を動かすとやっぱり気持ちいいし、けっこうアイデアが浮かんでくるんですよ。諸先輩方も散歩しているときにマンガのアイデアが浮かぶって言っていたけど、それってこういうことなんだろうなって思いながらやっていたんです。しばらくはアイデアが出ることが面白くて続けていたんですけど、当時は適正な運動量がよくわからなくて、やったらやるだけいいと思っていたから、家に帰るともうヘトヘトで。そうなってくるとアイデアどころの話ではないし、そもそも何かをしようという気力もなくなっちゃって。
――やりすぎて、疲れちゃったわけですか。
そうです。で、そんな時期に、ジムの中にプールと浴室があることに気づいたんです。しかも、浴室にはサウナもあって。ジム自体はできたばかりだったから、設備はきれいだし、会員はまだ少なくて、平日の昼間なんかに行くと浴室には誰もいないんですよ。その時点ではサウナに全然興味がなかったんですけど、誰もいないし、入ったら木のいい香りがして、気持ちいいんですよね。気持ちいいなぁと思って入っていたら暑くなってきて、サウナを出たら横に水風呂があったんです。水風呂もそのときは入ったことがなかったので、最初は無視していたんですけど、とはいえ体が火照って熱いから、足先をつけたりしていたんですよ。
――最初は足先だけだったんですか。
はい。水風呂に足をつけて、肌寒くなってきたら暖を取るためにサウナ室に入って…ということをやっていたら、だんだん水風呂もお腹くらいまで入れるようになって。そうしたら何かすごく気持ちよくなってきたんですよね。軽いトランス状態というか。そのときにまず思い浮かんだのが、その日のお昼にわりとスパイスの強いカレーシチューを食べたんですよ。それが影響しているのかなと思ったんですけど、次の日もサウナに入ったら今度はカレーシチューを食べていないのに、同じように気持ちよくなったんです。そこで「あれ?」となって、サウナと水風呂を行ったり来たりすることで何かが起こるのかなと思って、家に帰って調べだしたのが最初ですね。
朝4時に起きて、昼まで仕事して、そのあとはサウナに
――そこから一気にハマっていったんですか?
いや、いろいろ調べたんですけど、サウナの記事ってほとんど出てこないんですよ。近いなと思ったのがランナーズハイとクライマーズハイで、それと同じようなことがもしかして自分の中で起こっているのかな、ぐらいしかわからなくて。それで当時、私は健康に関するラジオをやっていたんですね。ラジオ日本の『菅原明子のエッジトーク』という番組で、菅原明子さんという人はマイナスイオンを提唱した先生なんですけど、私が聞き手になって日々の生活の疑問をぶつけていくという番組をやっていたので、菅原先生にサウナでの出来事をお話ししたんです。これはいったいどういうことが自分の体に起こっているのかって。そうしたら、「それは血管がポンプ運動をしているのよ」と教えてくれて。サウナで温まることで血管が開いて、水風呂で冷えることで血管が縮んで、こういうことをずっとやっていると血流が普段の2倍ぐらいになって酸素がどんどん脳に送られるから気持ちよくなるんだっていう話をしてくれたんですね。それがもとになって、2009年にウェブマガジンで『サ道』の連載が始まったんです。
――そこから現在のサウナ人気は想像できましたか?
まったく想像できないです。できたらすごいですよ(笑)。でも、私みたいな仕事をしている仲間には言っていたんです。プログラムを書く人とか、ゲームクリエイターとか、家にこもってパソコンとずっとにらめっこをしているような人たちの間では流行るんじゃないかなと思っていました。やっぱり絶大なる効果があったので。
――最初の頃はどれくらいの頻度でサウナに行っていたんですか?
1日3回とか行ってましたね。朝行って、昼行って、夜行って。気持ちいいから、サルのように行ってました(笑)。でも、入りすぎたからなのか、ちょっと不調になっちゃって。今は1日1回ですね。
――現在の1日のスケジュールはどんな感じなんですか?
今は朝4時に起きて、お昼まで仕事をして、そのあとはサウナに行って夕方まで過ごして、家に帰って晩ご飯を食べるという感じです。これがルーティンですね。
――毎日そのスケジュールで動いているんですか?
そうです。結局、ちゃんと管理しないとダラダラとやっちゃうんで。だから、決めちゃおうと思ったんです。例えば朝起きる時間がマチマチだとスケジュールを毎日立て直さなきゃいけないですよね。それって面倒くさいじゃないですか。とにかく面倒くさいのがイヤなんです。何時に何をやると決めたら、あとはそのとおりにやればいいので、ラクなんですよ。
――決まったスケジュールを繰り返しているだけだとクリエイティブな発想が生まれにくい気がするのですが…。
アイデアが出てくるときというのは、脳に何か負荷がかかっているときじゃなくて、リラックスしているときなんですよ。そういう状態のときに脳は盛んに活動を始めるんです。ルーティン化すれば、極力余計なことを考えずに済むので、実はアイデアが浮かびやすいんですよね。ただ、生活をルーティン化することはいいと思いますが、朝4時起きはメンズノンノ読者にはおすすめしません。昼すぎになるとうっすら眠いですから(笑)。やっぱり若いうちはいろいろ試したほうがいいと思います。今とは違う日常を過ごすことが若い人の使命かなと思うんですよ。実際、私も昔は夜通し友達と語らって、朝日を見て寝るみたいな生活でした。年をとったらそういうこともできなくなるので、できるうちは目いっぱい楽しんだほうがいいと思います。
たき火と猫とサウナは共通している!?
――サウナは今後どうなっていくと思いますか?
今、サウナがブームといわれていますが、それってやっぱり社会状況とか時代性もあると思うんです。というのも、ひと昔前に比べてライフスタイルは激変しましたよね。ネット社会になって、スマホが登場して、明らかに変わりました。部屋にいて、ろくに運動もせず、スマホの画面ばかり見て、自然と触れ合う機会がほとんどない。そういうライフスタイルをかなりの人が送っています。そういう生活って人類にとって初めてのことじゃないですか。今まで経験したことがないから、私たちの体がちょっと悲鳴を上げているのかなと思うんですよね。スマホがあればいつでもどこでもつながれるから、常に頭が回転している状態になっていて、結果的に思考の世界にいる時間が長くなる。それって見方を変えれば、感覚の世界にいる時間が少なくなっているということになります。感覚的なものって匂いだとか、肌触りだとか、主に五感ですね。
――たしかにそうですね。
なので、五感を刺激してくれるものに対して価値を感じる時代がやってきたわけです。キャンプブームとか、猫ブームとかありましたけど、あれもそうだと思うんです。たき火の炎を見ると落ち着きますよね。猫をなでていると気持ちいいですよね。そういうものの中のひとつにサウナがあると考えています。
「もっと世の中に
サウナが増えていってほしい」
――面白い見立てですね!
しかも、今は働き方も変わって、会社が最後まで面倒を見てくれる時代ではなくなりました。副業もOKになったりして、自分でキャリアを磨いて何とかやっていってねという時代にどんどんなっています。ということは、働き方や時間の使い方はもちろん、健康管理も当然自分でしなきゃいけないわけです。いつ仕事をして、いつ休むのか。1日のスケジュールを自分でデザインしないといけない。そうなったときに、サウナほど効率的なものはないなと私は思っているんですよ。体を温めて、血流をよくすることは健康にいいですし、ととのった状態になると気持ちがリラックスして、脳がぱかーんと何も考えないような感覚に満たされます。それに、サウナってすごく感覚の世界なんですよ。水の動きだったり、ロウリュウの香りだったり、アウフグースの風だったり、サウナというのは半強制的に感覚の世界に誘(いざな)ってくれるんです。実は脳が休んでいる状態がそこで実現されているわけなんですよ。
――なるほど!
だから、今だってそうですけど、これからの時代はサウナを避けて通れるのかなと思っています。サウナで得られる効果に匹敵するようなものがほかに何か現れないかぎり、サウナは人々の暮らしにとって必須なものになるんじゃないかなって。ブームどころの話ではなくて、完全に日常ですよね。自己管理がこれからの現代人の課題になるのだとすれば、ストレッチや筋トレと同じくらいサウナは必要になってきます。ただ、サウナが当たり前にある暮らしを実現するには、まだまだサウナの数は足りないので、もっと世の中にサウナが増えていってほしいなと思っています。
INFORMATION
タナカカツキさんが総合プロデュースを手がけるサウナ「渋谷SAUNAS(サウナス)」が2022年12月23日、渋谷区桜丘町にオープン! 趣向を凝らした9つのサウナ室、頭までつかれる深い水風呂に加え、ととのい後に仕事が捗(はかど)るワークスペースと会議室も完備。サウナ好きが追い求めた、理想のサウナがここに!
Illustrations:Katsuki Tanaka Composition & Text:Masayuki Sawada
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