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JeterとY ohtrixpointnever、二人で活動するポップ・デュオ、Peterparker69。ポップ、ヒップホップ、テクノ─さまざまなジャンルを自由気ままに横断しながら、新しい音楽を開拓し続ける新世代は何を考えているのだろう。リラックスしたムードを持ちながらも、芯を持って活動する二人の魅力に迫る。

次世代のポップスを更新する
ニューカマー
今、高感度なユース層から熱狂的な支持を集めているユニット、それがPeterparker69だ。
2022年、Jeter(ジーター)とY ohtrixpointnever(ワイ・オートリクスポイントネバー。以下、Y)の二人によって結成。デビュー曲「Flight to Mumbai」が早耳リスナーの間で話題となり、Apple JapanのキャンペーンCMソングに採用されたことで一気に注目を浴びた。以降、〈POP YOURS〉や〈BOILER ROOM〉などの大型フェスやイベントにも出演し、今年は待望の1stアルバム『yo ,』をリリース。タイトルに込められた軽やかな呼びかけのように、彼らの音楽は常に開かれた感性とユーモアに満ちている。なかでも、RADWIMPSの野田洋次郎を迎えた「Hey phone」は、新世代のアンセムとして急速に広がっている。どの曲にも共通しているのは、聴いたことのないようなテクスチャーと、誰もが口ずさみたくなるポップネス。そのユーモラスな感性とインターネット世代らしい自由さが共存する音楽性は、いまや国境を超え、世界中のプレイリストに名を連ねている。今年は海外ツアーも敢行し、各国で遊び心あふれるサウンド体験を届けてきた。そんなグローバルな活動を通じて、彼らは音楽の受け取られ方の違いにも敏感になっている.
Yは、ツアー中に感じた印象をこう語る。「ヨーロッパでは、クラブカルチャーが生活に根づいていることを強く感じました。日本だと“アーティストを観に行く”感覚が強いけど、例えばベルリンでは“踊りに行く”というほうが近い。お客さんが主役で、そのBGMを任されているような感覚かな」。Jeterもまた、ツアーで巡った世界各国の土地と音楽の関係に目を向ける。「いろんな国でライブをして思ったのは、曲って土地に生かされてるということ。日本ではJ-POPの文脈があるから、自分たちの曲もポップソングとしてラフに聴かれる。でも海外では、まるで自分たちがとんでもない変化球を投げているような感覚になる」
実際、ツアーで訪れた土地の若者が彼らの楽曲をどんなふうに受け止めているかも興味深い。
「例えば現地のキッズみたいな子たちが、『Hey phone』や『Flight to Mumbai』を気に入ってくれてるんですよ。ポップスって、その人の内面にある一番子どもらしい、ピュアな部分に触れるものなんだなって思う」(Jeter)
そんな彼らの頭の中では、どんな景色が映し出されているのだろうか。Yは、最新アルバム『yo ,』のアートワークがそのイメージに近いと語る。
「カートゥーンなんだけど、どこか現実的でちょっとディズニーに憧れてる感じというか。映画『ファンタジア』が昔から好きで、楽曲の世界観のつくり方にすごく影響を受けています」
曲つくりに込めた
自由さと純真

Jeterにとって曲づくりの原点は“スケボーで遊んでいる自分”だと語る。
「スケボーって自由の象徴なんですよね。何も考えずに風を切って走っているときの、景色が変化していく感じ。そういう感覚を大事にしています」
確かに、“自由さ”はPeterparker69を表すキーワードかもしれない。二人とも飄々としていて、力んだ様子がない。
彼らの制作は基本的には遠隔で行われる。Yがトラックを送り、Jeterがそこに歌詞を乗せる。驚くのは、その相性のよさだ。
「Jeterが歌詞を返してくると、いつも“そうそう、こういうのが欲しかった”ってなるんです。細かい話をしなくても、結果的に同じ方向を向いている」(Y)。Jeterもうなずく。「相手の意図を探るというより、自由にやった結果がたまたま一致してる感じ。意見がぶつかることもほとんどないけど、たまにあったとしても“これは違うね”で終わるから、“なんでわかってくれないんだ!?”という感情的な衝突もない」
言語化できない感覚を投げ合いながら、「それそれ!」と通じ合う。Peterparker69のクリエイティブは、そんな直感の共鳴で成り立っている。一言目を発して、次の二言目で“あーはいはい”となることが多いそうだ。会話のテンポ感すら音楽的で、阿吽の呼吸によるコンビネーションはどんどん熟成されてきている。リスナーをどう捉えるかという観点においてもよく会話に出るが、二人の意見は一致している。
「“こういう曲のほうが好きな人多いかもね”みたいな話はするけど、結論はいつも“寄せない”に落ち着く(笑)。好きなことをやりたいから」(Y)。その選択は、彼らが「本当のこと」を信じているからだ。「エモいものに惹かれます。本当のことをやればやるほど、エモい。自分の思いや願いを素直に表現すれば、それが自然と伝わる。例えばAIも使い方が本当なら、ちゃんとエモくなると思うんです。結局、みんな“本物”を選んでる気がするんですよね」(Y)
例えば、最新アルバムの『yo,』は、そんな二人の思いが一致しつつ、直感の共鳴が成立した作品として象徴的だった。一時期Yがスランプに陥った時期もあったが、そこで「yo ,」というワードを思いつき、視界がひらけたような気持ちになった。自分たちの音楽が世界に広がっていき、徐々に環境の変化も起きていた中で、煮詰まっていったマインドが開ける突破口になってくれたそうだ。

Jeterは言う。「yo,というのは、“力を抜いてやっていこうよ”みたいなニュアンスです。そのタイトルがバチッとハマって、僕たちも気持ちが楽になっていきました。この気楽な感じ、忘れていたかもなって思ったんです」。『yo,』は、聴いていると、情景が目に浮かび視界がどこまでも広がっていくような不思議なアルバムだ。どこか知らない国を旅行しているようなフレッシュな気持ちと、一方で懐かしい感情も湧いてきて、どんどん想像力が膨らんでいく。聴く人のクリエイティビティが刺激される作品として、アーティストの間でも評判を呼んでいる。
『yo,』が表す、
軽やかさの正体とは?
ここまで自由な作品がどうやって生まれたのだろうか? 興味は尽きないが、彼らの創作における“頭の中”のビジョンを聞くと、対照的な世界が浮かび上がってきた。Jeterは言う。「曲を作るとき頭の中にはいつも、部屋に泣きながら笑ってる元パートナーがいます。その部屋には窓があって、その人を説得しようとしてる。だけどそんなにバッドな感じでもない(笑)」
一方でYは極めて冷静だ。「俺の部屋は、何もなくて、真ん中にワープできるホールがひとつある。そこからどこにでも行ける感じかな」
感情と静寂。存在と無。二人の空間イメージの違いが、Peterparker69の音楽のレンジを支えているのかもしれない。ユニークなテクスチャーの一つ一つが、そういったお互いの頭の中から生まれている。
Jeterはつけ加える。「でも“何もない空間”っていうのはわかるかも。俺もミニマルな空間は好きだし、余白があるほうがPeterparker69っぽくていろんなものを取り入れられる。自由が一番いいよね」
好きな音楽やミュージシャンを尋ねると、さまざまな答えが返ってきた。「ダフト・パンクの『デジタル・ラブ』が好き」とJeterが言うと、Yは「フィッシュマンズっていいよね」と答える。趣味や嗜好も、少しずつ近づいてきているよう。最近の二人の共通トピックは、ロンドンのアーティスト・svn4vr(セブンフォーエバー)。Jeterがいいなと思って曲を流していたら、Yが「何この曲!?」とすぐに反応した。そうした共鳴の瞬間の積み重ねが、二人の関係を常にアップデートしている。ちなみに音楽以外だと、最近気になるのはAirPods Pro3。二人とも、ライブ翻訳機能に惹かれているそうだ。

これからも自由気ままに、遊ぶように。
新しいステージを夢見る二人

「これから挑戦したいことは?」という質問の答えも、実に独創的。Jeterは「映像作品を前提に音楽を作るとか、あえて厳しい制限を設けたうえでの楽曲制作をやってみたいですね。自由の中にルールをつくるのも面白そう。映画の劇中歌とか挿入歌とか、やってみたいな」と語る。一方のYは、意外にも「子どもたちが参加しているフットボールチームの監督をやってみたい」と話す。
「そこまで強くないチームで、人数もギリギリの。最近、『eFootball™』っていうフットボールゲームにハマってるんです。これを実際に子どもたちとやったらどうなるんだろう?って興味があって。絶対楽しいと思うんです」
Jeterが語った「スケボーの自由さ」、Yの「本物と感じられることをやる」という姿勢、その他にもたくさん飛び出してきた興味深いワード。それらはすべて、Peterparker69という存在の根底を支え、彼らのユニークさを生み出している。インターネット的だけれど、現実。アーティスティックだけれど、ポップ。一見無機質のようにも見えるけれど、感情的。そのあわいで生まれ続ける彼らの“エモい”表現は、これからさらに世界中へ拡張していくに違いない。二人の、どこまでも軽やかで真剣なクリエイションの向こうに、次の時代のポップの形が見えてくるようだ。ただ、それでも彼らは、特別な何かになろうと力むことはない。自分たちが本当に面白いと思う瞬間を更新し続けているだけだ。デジタルの海の中で遊びながら、感情やユーモアをそのまま音に変えていく―その軽やかさこそ、2020年代を象徴する新しい創造者のあり方を象徴している。Peterparker69の旅は、まだ始まったばかりだ。
Photos:Tomoyo Tsutsumi[ende] Hair&Make-up:ren Stylist:auskou Artwork:Yumi Matsushita Interview&Text:Tsuyachan
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