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第19回は2025年春夏に初のメンズコレクションを発表したヴィヴィアーノ。チュールやラッフルを取り入れた気分が上がるデザインでアーティストやセレブからも一目置かれている。
TOKYO FASHION AWARD 2023を受賞し設立から10年となる実力派ブランドが、メンズコレクションをローンチした理由とは?
VIVIANO(ヴィヴィアーノ)
BRAND PROFILE
2016年にヴィヴィアーノ スーとして設立され、2020年にヴィヴィアーノと改名。スタート当初からとレディトゥウェア(既製服)だけでなく、ドレスが主体のクチュールライン(高級仕立服)を展開。現在は「秩序の花々の間からほのかにゆらめくカオス」をコンセプトに、チュールやラッフル、レースをふんだんに取り入れたエッジィでエレガントなコレクションを発表。2025年春夏にウィメンズのディテールをテーラリングに昇華したメンズコレクションをローンチ。
ブランド公式サイト:
https://vivianostudio.com/
ブランドInstagram:
https://www.instagram.com/vivianostudio/
VIVIANO(ヴィヴィアーノ)
デザイナー ヴィヴィアーノ・スーさん
【SPECIAL INTERVIEW】
1_来日のきっかけと文化服装学院時代

日本のカルチャーが好きで来日し
デザイナーを目指してBFGUに進学
――ヴィヴィアーノさんは中国とアメリカのミックスで、出身はアメリカですよね。
父は中国人で、母がイタリア系のアメリカ人ということで、ヴィヴィアーノと名づけられたんです。高校生まではアメリカで過ごして、その後上海に行って中国語を勉強して、それからアメリカに戻って美大を卒業し、広告系の会社で働いていました。
――日本には文化ファッション大学院大学に入るために来たんですか?
そういうわけでもなく…。実は昔からずっと日本が好きでした。子どもの頃は『ドラえもん』や『らんま1/2』などアニメやマンガを見て育ち、日本の音楽も好きで松田聖子さん、中島美嘉さんといった日本の歌姫の曲を聴いて日本語を勉強していました。『花より男子』(漫画原作ドラマ。2005年に放送)のような2000年代のドラマや映画も見ていましたし、ジャパニーズカルチャーが大好きなんです。
――そんなに日本好きだったとは!
アメリカで就職した広告会社の仕事があまり自分に合っていなくて、広告のグラフィックデザインではなく、もっと何かクリエイティブな仕事がしたいと思っていました。それで大好きな日本へ行って、日本語を勉強しながら自分が何をしたいか? もう一度考えてみようと来日したんです。
――リセットのために来日したと。
服もすごく好きでしたが建築にも興味があって、実際、多摩美術大学の建築コースを受験して合格もしました。ちょうどその頃、文化服装学院の学生と友だちになって「文化祭があるから遊びに来る?」と誘われて、行ってファッションショーなんかを見たらすごく楽しかったんです。


▲繊細なチュールのドレスやサンプルは、工場ではなくアトリエでつくられている。
――文化服装学院の文化祭のファッションショーはエンターテインメントですよね。ショーアップされていて華やかで。
アメリカで美大に進学するときにもファッションという選択肢はありました。でも中国系の父は頭が堅くて理解してくれなかったんです。文化(文化服装学院)を訪れたらやっぱり服をやりたいという気持ちが強くなった。それでネットでファッションデザイナーのことを調べ、当時勢いのあったジョン・ガリアーノやアレキサンダー・マックイーンのショーや作品に感銘を受けて「自分はこれをやるんだ!」と、文化服装学院に入りました。
――日本に来てからデザイナーを目指したんですね。
文化に入るときはファッションデザイナーとしてこの業界でやっていくと決めていました。私はオタク気質なところがあるので、学生時代は図書館に引きこもって『ヴォーグ』や『ギャッププレス』など各国のファッション雑誌を読み込んでいたこともありました。その頃のランウェイの写真なら今でも「これは何年のどこのブランド」と言えます。
――素晴らしいですね! 2010年代の前半は今みたいにネットで気軽にランウェイが見られず、雑誌でコレクションをチェックする時代でした。では学生時代は真面目に作品づくりに励んでいたのでしょうか?
真面目だったと思います。とにかく服をつくるのが好きで、ひとつでいい課題を3つ提出したりしていました。

――文化服装学院の後に文化ファッション大学院大学(BFGU/Bunka Fashion Graduate University)に行ったのはどうしてですか?
将来的に自分でブランドをやると決めていたので、コレクションのつくり方をしっかり学びたいと思い、アパレルデザイン科に2年在籍した後BFGUに転入しました。
――BFGU時代はインターンにも行かれましたか?
それが行っていないんですよ。行けばよかったと今は思いますが、学生時代はインターンに行く時間なんかないほど、創作に集中していましたから。
2_大学卒業後、
すぐブランドを立ち上げる

セオリーどおりにコレクションをつくって
取引先ゼロでもランウェイショーを開催
――2014年に卒業して、2016年にヴィヴィアーノ スーを立ち上げています。
卒業した後、アルバイト的なことをしながらブランドを立ち上げて、2016年9月にハウス オブ ヴィヴィアーノ スーという会社を設立しました。私はアメリカ国籍なので、日本でブランドを起こすにはビザの都合上、会社をつくらなければならないという事情があって。
――ということは、ファーストコレクションは2017年春夏ですか? 最初はユニセックスでコレクションをつくっていたんですよね。
そうですね。大学でメソッドを学んだので、古いやり方かもしれませんが、テーマを決めて、マップをつくって、リサーチして…としっかり手順を踏んでコレクションをつくっていました。
――今もセオリー通りに?
今は変わってきましたね。でもブランドを立ち上げてから長いこと、セオリー通りにつくっていました。最初の展示会を開いたのは渋谷区文化総合センター大和田です。当時、文化学園が若手デザイナーの支援を目的とした「文化ファッションインキュベーション」というプロジェクトを推進していて、そこに施設を持っていたんです。
――大和田小学校跡地にできた文化センターですよね。2010年代は展示会で何度か行きました。
オフィスも提供していたので、アトリエもそこに構えました。気鋭のデザイナーが集っていたいい場所だったんですが、2020年のコロナ禍のときに閉鎖されてしまって。そのときは急に引っ越さねばならず大変でした…。
――そんな経緯があったんですね。ちなみに最初の展示会の反響はいかがでしたか?
セオリー通りに取り組んでいたので、売れるという確証もないのに(笑)フルコレクションつくりました。1週間展示会をして来場したのは3組だけで、取り扱ってくれるお店もなく。一応知り合いのPR会社さんに展示会のDMを出すなど協力はしてもらったんですが、結果は悲惨なものでした。でも売れていないのにランウェイショーをしようと思って、JFWOに参加して次のシーズンはショーをしたんですね。
――え? そうだったんですか? 最初から公式スケジュールで…。
はい。デザイナーたるもの、ショーをやらなきゃって。セールスもいないのになぜかフルコレクションをランウェイショーで見せるという暴挙に出まして(笑)。かなりの赤字でした。



▲ランウェイデビューとなった2017~2018年秋冬コレクションには、レースやクチュール的なドレスなど、ヴィヴィアーノのエッセンスが散見する。ユニセックスの展開で男性モデルも登場していた。
――2017年秋冬のデビューコレクションの裏にはそんなエピソードが…。経済面はどのようにやりくりしたのでしょう。
親にサポートしてもらいました。それから4シーズン、ショーを続けましたが、取り扱い店はゼロのままで…。
――4シーズンやってゼロ?
友人や芸能系のセレブリティの方など、一部コアなお客様はついたのですが、一般の人からは「どこで買えるんですか?」と問い合わせがあったりして。まだ自社のオンラインもなかったので、自分たちで個人のオーダーを受けていました。



▲2018年春夏、2回目のランウェイショー。今ではヴィヴィアーノを象徴するカラーとなったピンクのルックが多数登場し、ラストにはチュールのドレスも。ヴィヴィアーノのスタイルがすでに確立されていたように見える。
――赤字状態が続いていたわけですね?
金銭面は苦労しました。ただランウェイを続けたことで、スタイリストさんの目に留まり、衣装としてリースしていただいたり、クチュールラインも打ち出していたのでアーティストから仕立ててほしいと依頼があったり。女性だけでなく男性のアーティストやセレブリティの衣装もやらせていただいて、ブランドの資金にしていました。



▲2018年~2019年秋冬、3回目のランウェイショー。1980年代のB級SF映画から着想したコレクションにもラッフルなどヴィヴィアーノらしいディテールが。ラストには憧れの歌姫だった中島美嘉がモデルとして登場し話題を呼んだ。
――ヴィヴィアーノさんのコレクションは、ドラマティックで衣装に向いていますよね。
アーティストの方はステージ上でものすごく動くので、こう動くからこういうつくりにしようと毎回試行錯誤の繰り返しで。服の構造を改めて勉強する機会にもなりました。それがその後のコレクションにも活かされています。



▲2019年春夏、4回目のランウェイショーは“驟雨(しゅうう・にわか雨のこと)”をテーマに。衣装向きの凝ったデザインが目を引く。チュールのドレスがラストを飾るのがお約束となった。
――ブランドが軌道に乗ってきたのはいつ頃からですか? TOKYO FASHION AWARD 2023がきっかけに?
アワードはひとつのきっかけになっていますが、その前にセールス会社を紹介していただいたことが大きかったです。大きい会社には営業がいますが、私たちのような小さい会社はどうやって営業すればいいのかを知らなかったんです。
――インターンやどこかに勤めたりしないで、いきなり会社を立ち上げたわけですからね。
コレクションを売らなきゃいけないと、いろいろな方に訊いたらセールス専門の会社があることを知って。2022年秋冬シーズンからセールス会社に入っていただきました。それで取り引き先が増えて、そのタイミングでTOKYO FASHION AWARD 2023を受賞したので、はずみがついた感じです。
3_ブランドの変容

チュールを日常的なレディトゥウェアに
取り入れ、ブランドのシグネチャーに
――2020年にブランド名を改名したのは、どうしてでしょう?
コロナ禍前の2019年に中国のセレクトショップから規模の大きなカプセルコレクションの依頼があって、ショップ主導だったので私たちとしては納得のいく内容ではなかったんですが、ブランド運営の資金のために受けたんです。2シーズンやりましたが、未払いになってしまって…。
――詐欺にあってしまったんですね。
ブランドを続けるのは難しいかもしれないと思いました。じゃあもう、2020年秋冬コレクションは数を減らして自分の好きなモードをやろうと。これでダメだったら会社をたたむと覚悟して、気持ちを新たにするためにブランド名をヴィヴィアーノ スーからヴィヴィアーノに替えました。


――そのような経緯が…。
最後のチャレンジという思いで、ありえないくらい大きなチュールのドレスをつくって発表したら、それが中国の気鋭のセレクトショップやPR会社の目に留まったんです。ちょうどコロナが流行り始めたときで…。
――2020年秋冬だから発表は春ですね。そのときは東京コレクションも中止になりました。
だからオンラインで発表しました。そのシーズンはコロナ禍の影響で、海外ブランドのサンプルが入ってこなかったこともあって、リースがすごく増えたんです。それで大きなドレスが日本の雑誌でも取り上げられ、ブランドにとって追い風になりました。


――ヴィヴィアーノ スーとヴィヴィアーノで、作風はそんなに変わったのでしょうか?
以前はユニセックスで、どちらかというと少しダークなイメージでした。改名してからはウィメンズにフォーカスして、ハッピーなムードというか、全体的に前向きになったと思います。
――チュール=ヴィヴィアーノのイメージも、改名してからのものですよね。
日常的に着る服にチュールが付いていたらみんなワクワクするんじゃないかなと思って、それまではドレスにしか使っていなかったチュールをレディトゥウェアに落としこんだんです。日本のブランドでそういうことをやっているところは、まだあまりかったので、セールスにもつながっていきました。



▲TOKYO FASHION AWARD 2023を受賞した2023年~2024年秋冬のランウェイショーではファーストルックからチュールが登場。カジュアルなフーディにチュールをドッキングしたルックが象徴的だ。フリルやラッフルもヴィヴィアーノのアイコンに。
――コレクションのつくり方も変わってきましたか?
以前はつくりたいものを、ただつくるというスタイルでしたが、今は着やすさやオケージョンを考えるようになりました。いろいろなものに合せられるとか、チュールやレースといった繊細な素材でも洗えるイージーケアであるとか、スタッフのアドバイスも取り入れるようになって。
――それでアワードも取って、販路も広がったと。
デパートからポップアップをやりたいと声がかかったとき、私たちは在庫を持っていないから、受注会としてやるしかないとトライしたら売り上げがよかったんです。今でこそポップアップの受注会は一般的になりましたが、ヴィヴィアーノが先駆者だと思います。最近はチュールの色を変えられるカスタムオーダーもできるようにして、それもとても好評です。

4_メンズコレクションを始動

ユニセックスに限界を感じ
美しい服をつくるために
メンズとウィメンズを分ける
――2025年春夏からメンズコレクションを立ち上げました。ヴィヴィアーノ スー時代はユニセックスで、ヴィヴィアーノになってからも2024年春夏からランウェイショーにメンズモデルが登場するようになりました。
ブランドの立ち上げ当初は自分でも着られるものがいいなと思っていたのでユニセックスをコンセプトにして、ジャケットやシャツの袷はメンズ仕様でつくっていたんです。ヴィヴィアーノに改名してウィメンズにフォーカスしてからもそれは残っていて、トップスの袷は左上です。2023年秋冬からショーを再開して、翌年からメンズのモデルを登場させるようになったときに、ユニセックスであることに物理的な難しさを感じるようになったんです。


▲[左] 2024年春夏コレクション・[右]2024~2025年秋冬コレクションのランウェイショーより。
――ヴィヴィアーノ スー時代とは違う視点で、ものづくりをするようになった影響もありますよね。
まさに。ユニセックスと謳ってもサイズ感やパターンはやっぱり違いますから。胸があってウエストが細い女性に対して、男性は胸が厚くてウエストやヒップまわりもまったく違う。物理的な壁を感じていたときに、メンズのお客様が増えてきたんですね。ユニセックスを謳うのは簡単ですが、誰にでも似合うようにつくっていくとオーバーサイズにするしかなくて、美しくないんですよ。何かを犠牲にしている気がしていました。男性が着ても美しい洋服をつくりたいとスタッフにも相談して、新たにメンズコレクションを立ち上げました。
――男性の顧客が増えたと実感できたのは、受注会の反響からですか?
受注会だけでなく、問い合わせも増えたんです。実は物理的なことだけでなく、クリエーション的にも限界を感じていて。ひとつのコレクションの中にメンズもウィメンズも入れ込むと制限が出てきてしまいます。特にアウター類はフェミニンに振りきれていないし、メンズにはちょっとデコラティブすぎるかもと中途半端になりがちです。だから、いったんそれぞれの道を走ってみようと。いつか投降するかもしれませんが、今までもトライアル&エラーを繰り返しながらここまで来たので。





――メンズコレクションの2シーズン目の2025~2026年秋冬コレクションから、ヴィヴィアーノさんの思い入れのあるルックを選んでいただきました。テーマを教えていただけますか?
今回のコレクションを“Assemblage(アセンブラージュ/集合体)”と表現しているように、テーマは後付けです。実はこのコレクションからつくり方をガラッと変えて、いわゆるセオリー通りにつくるのをやめました。自分たちが着たいものやつくりたい服のアイデアをどんどん絵で描いて、知らず知らずの間につくってしまっていた見えない枠や限界を取っ払ったんです。

――現物を手に取ると、どれもとても凝っていてクチュール的にきれいに仕立てられているのが印象的です。今回つくるのに苦労したアイテムなどはありますか?
今季のメインビジュアルとしても選んでいるツイードジャケットのルックをはじめ、デニムジャケット、チュールのブルゾンにもコーディネートされていますが、ワイヤー入りのロングリボンタイ。これは本当に大変でした。泣きながらパターンを引いて、工場さんも泣きながら縫製したという。

――素材がサテンだったりスパンコールだったり、シャツ生地だったり…。ウィメンズのコレクションにも素材違いで登場していますよね?
それぞれの生地によってもバランスが変わるから、よくぞ製品になったとホッとしています。

――ジャケットのツイード生地もオリジナルですよね?
ツイード生地はイギリスのウール糸を織り込んで日本でつくっていいます。ウール糸とポリエステル糸をミックスすることで、クラシカルな雰囲気でありながらモダンに見えるようにしました。ラッフルのあしらいがフロントに格子状に入っていて、ゴールドのボタンはリボン形になっています。同じデザインのベストもあります。
――リボン形のボタン! 今季、リボンも重要なモチーフになっています。ラッフルと同じくらい、リボンのパッチワークにも目が留まります。ピンク背景のカットではモデルがリボンパッチワークのレザーブルゾンを着ています。
リボンも今季のキーアイテムで、リボンの先が屈曲したモチーフを、平面的でなく立体的に組み込むことにこだわりました。このレザーブルゾンはバルーンシルエットで、丈は少し短めです。中綿を入れているからとてもあたたかいんです。

――ラッフルのデニムジャケットがあるように、リボンのモチーフはデニムでも展開されています。
レザーもデニムもリボンのモチーフをただ上に縫い付けるのではなく、パーツごとにジャケット本体にパッチワークしています。デニムは縁を切りっ放しにして、製品洗いをかけて古着のような風合いを出しました。

――ラッフルが付いたデニムのテーラードジャケットも同じ手法ですね。
ラッフルとリボンのモチーフはいろいろなアイテムに取り入れています。デニムはセットアップになるバンツもあります。春夏シーズンもサイドにラッフルをあしらったデニムパンツがありましたが、今季は端の処理やヒダの入れ方を変えてシルエットもアップデートしました。

――薔薇のモチーフのキルティングジャケットはベストと重ね着して、ボトムにはバルーンシルエットのクロップド丈パンツ。ヴィヴィアーノは薔薇のモチーフも多いですよね。
薔薇が好きなんです。オリジナルで柄をつくって、薔薇のつぼみのステッチパターンでキルティングにしています。ウィメンズにも薔薇の柄はありますが柄もステッチパターンも、関連性を持たせつつ変えています。素材はサテンでヴィンテージのベッドスローのような雰囲気にしています。


▲左がメンズ、右がウィメンズの薔薇のキルティングファブリック。ウィメンズは柄も写実的な2トーンで、ロマンチックな印象。
――コーディネートしているバルーンパンツがクラシックなウール生地というのも素敵です。
これはセットアップになるバルーン袖のジャケットも展開していて、ルックではデニムパンツとコーディネートしています。

――バルーンパンツの仕立てがクチュール的で感動しました。
ウエストはゴム仕様ですが、バルーン状の裾は裏地とつなげてきれいに始末しています。ヴィヴィアーノは例えばデニムジャケットのようなカジュアルなアイテムにも裏地を付けたり、基本的にクチュールの手法を取り入れてつくっています。


▲[左]素材違いのバルーンパンツの裾裏。裾と裏地がつながって、シルエットはもちろん、なめらかなはき心地。[右]デニムジャケットもこの通り、総裏地仕様で美しい。
――モノクロのカットはチュールのラッフルブルゾンとスパンコールのパンツ。スパンコールはインパクトがありますね。久しぶりに見た気がします。
チュールのアイテムは今回少なくて、このブルゾンと同じデザインのジップベスト、それからレザーのブルゾンのボトムに合せたラッフルスカートの3型です。スパンコールをこんなにふんだんに使った生地は、今の若い人たちは見たことがないかもしれませんね。きっと新鮮に映ると思って取り上げてみました。

――メンズとウィメンズのつくり方で意識的に変えていることはありますか? 先ほど、薔薇モチーフのキルティングを変えているとのことでしたが。
つくり方のセオリーは同じでも出発点が違うんですよ。たとえばラッフルも、仕様や幅を調整しています。ウィメンズはアシンメトリーのような派手なデザインもすっと受け入れてくれますが、メンズは格子柄やサイドラインのようにきちっとしていないと手が出しにくいという保守的な部分があります。それから「ほかの服と合わせやすいか?」というような汎用性も気にされます。そのあたりは考慮してデザインしています。
――なるほど。どのアイテムもクチュール的に丁寧につくられているのが、ヴィヴィアーノの魅力だし、強みでもあると思いました。
それはブランドの裏テーマのようなものでもあります。効率ばかりが求められる時代だからこそ、手作業で時間をかけてつくられたものにしかないよさや、ぬくもりのようなものをみんなきちんと感じているんじゃないかと思うんです。今回のリボンのパッチワークのようなことは、やっぱり私たちじゃないとできない。そういう部分は大事にしています。
――複雑に見えても仕立てがいいということは、着心地のよさにつながります。
変わったデザインではありますが、着心地のよさにはこだわっています。例えばウィメンズの大きなドレスもボディの部分はきちんとフィットするように裏地を付けているから着やすいんですよ。あとは洗濯できるといったイージーケア性ですね。価格も決して安くはないので、着心地が悪くて着なくなってしまうとか、素材の手入れが面倒で着なくなるというのでは申し訳ないですから。

5_これからのヴィヴィアーノ
海外に進出して、
セレブリティのレッドカーペットを狙う
――山あり谷ありの10年間でしたが、これからはどんなことをしていきたいですか?
海外に出たいですね。ランウェイショーはヨーロッパでの開催を考えていて、PRはロンドンの会社と契約しました。レッドカーペットを見るのが昔から好きだったから、去年ローンチしたドレスラインをハリウッドにアピールできればと思います。
――今は速報でセレブ着用のニュースが拡散されますからね。
ハリー・スタイルズにヴィヴィアーノをぜひ着てほしい! あとはメンズのコレクションを進化させていきたいですね。こういうアプローチのメンズブランドはまだ日本にはないと思うので、もっと受け入れてもらえるように、お客様の動向を見ながらブラッシュアップしていきたいです。
――メンズノンノ世代の男子が好きそうだと思いましたが、メンズの年齢層は幅広いと伺いました。
若い子は20代から上は80代まで、本当に広いんです。ヴィヴィアーノはウィメンズにミューズをつくっていないように、メンズもイメージする男性像をつくっていません。着る人を限定しないというのが間口の広さになっているかもしれません。
――ヴィヴィアーノさんにとって、ファッションとは何でしょう?
人生ですね。私、本当に服をつくることしかできないんですよ。ほかになにかできるだろうか? と考えてもパッと出てこない。だから、街中で私の服を着ている人に会うとすごくうれしくて、興奮するんですよ。「あなた素敵ね」って声をかけたくなる。スタッフには「絶対やめて!」と釘を刺されています(笑)。

――ヴィヴィアーノの服で伝えたいことは多幸感のようなことですか。
自由ということ。好きなものを好きなように着ればいいと伝えたいです。何かのインタビューで読んだのですが、私、ガリアーノがディオール時代に会社のボスに言われた「It’s about selling a dream」という言葉がすごく好きで…ファッションは夢を見せるようなものだという。私もヴィヴィアーノの服で夢を売りたいですね。人生において夢は大事なものだから。
Photos(portrait & report ) : Kenta Watanabe
Interview&Text : Hisami Kotakemori
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