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同年代の俳優の友人から、何度も「いい映画だよ」と勧められていて、ずーっと「いつか観よう」と思っていたのをついに鑑賞しました! そうしたら、本当にいい映画で(笑)。10年以上前に作られた映画なのに、それを感じさせない。SNSを取り巻く環境の描写以外は、感覚のズレや古さを全く感じさせるところがなくて、本当に楽しかったです。


『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』
デジタル配信中
株式会社ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
© 2014 Sous Chef, LLC. All Rights Reserved.Kiarostami
バツイチのシェフ、腕はいいけど
ブロガーともオーナーともケンカ
本作の主人公は、一流レストランのシェフ、カール。ある日、有名なグルメブロガー、ラムジーが来店することになり、カールは大はりきりでキレキレの新メニューを考えるんです。ところが、頭の固いオーナーが口を出してきて、昔ながらの料理を作らせようとします。それでオーナーと喧嘩になって、カールがクビになってしまう――という始まりです。

もう、僕、このオーナーが本当に嫌でした(笑)。だって、オーナーが口出ししなければ、きっとカールは斬新な料理を作って高く評価されていたんです。しかもカールがそのレストランと契約する時に「キッチン内のことには(オーナーが)口を出さない」と約束をしていたのに、それも急に撤回すると言い出して。そういう大人っていちばんダメじゃん、と思いながら観ていました。
しかも一度だけじゃないんです。新味のない料理を「つまらない」と酷評されて、カールはもう一度ラムジーに挑みます、なのにオーナーがカールに新しい料理を絶対に作らせないんです。新しい考えや新しいものを認められない人は、新しい能力だとか時代だとかと必ずぶつかってしまう。今の時代にもあることだし、色々なことを感じました。
でも、そのレストラン内の人間関係にはとても惹かれました。特にカールの下で働く2人の部下と常に冗談を言い合える関係とか、ふとした絶妙な表情で互いの信頼が見て取れるような、3人の男同士の関係性がすごくいい。カールが店を辞める時、1人はカールについて来ようとするのですが、1人はレストランに残ってスーシェフに昇格して働き続けることを選ぶんです。カールを慕ってはいるけれど、自分のシェフとしての道を優先する決断もよくわかります。彼ら部下2人もとても魅力的で、キャラクターもちゃんと立っていて、そうした一人一人の人間性が見えるのも、この映画の大事な部分だなと思いました。

どん底から始まる、
アメリカ横断の親子トラック旅
一流レストランを飛び出したカールは、ラムジーとの諍いがネットで炎上したため、なかなか仕事が決まらない。心配した元妻イネスに勧められ、生まれ故郷のマイアミへ行くことにします。ちょうど夏休みだった小学生の息子パーシーを連れて。そこで食べた“キューバン・サンドイッチ”の美味しさに驚いて、カールはフードトラックで移動販売をすることを思いつくんです。
そうしてマイアミからロサンゼルスまで、つまり東海岸から西海岸まで、息子と一緒にアメリカ横断の旅が始まります。元妻のツテで古いキッチンカー(=フードトラック)を手に入れたカールは、息子と掃除・修理することになるのですが、キツくて汚い作業も多くて、父と息子の間が険悪になるんですよね(笑)。そこへ、なんと元部下の一人、マーティンが現れます。
ラテン系のマーティンはテンションがすごく高くて楽しいだけじゃなく、スペイン語が話せるので、そこにいた労働者たちに声を掛けて手伝ってもらえることに。もしマーティンが来てくれなかったら、その後も、あんな素敵な旅路にはならなかっただろうな、というくらい重要な人で、僕は大好きでした。ジョン・レグイザモさんという有名な俳優さんだそうですが、すっごくいい味でしたね。
それに、元部下が自分を慕って来てくれたってことが、きっとカールの自尊心を回復させてくれたと思うんですよ。そこで救われたからこそ、気持ちよく次のステップに行けたのかな、と。そこからフードトラックで男3人――カール、息子パーシー、マーティンの気のおけない関係も、すごく楽しかったです。マーティンがボロボロだったフードトラックを、めちゃキラキラにカスタマイズしてくれたのもよかったな。
“キューバサンド”の成功で、
自分らしさを取り戻していく
でも何といっても魅力は、美味しそうな料理の数々。カールが家のキッチンで息子にサンドイッチをフライパンでジュッと焼いて作っているのも、すごく美味しそうでした。カールが今の恋人に作ったパスタもまた、すごい量のニンニクを使って、もう香りが漂って来そうなくらいメチャクチャ美味しそう。
さらに絶対に食べてみたくなったのは、道中の街のお肉屋さんに寄って3人で試食したお肉。スモークしたのか、外見は真っ黒なんですが、すごくジューシーで柔らかそうで、3人ともめっちゃ美味しそうに食べていました。フードトラックの商品に採用するために予約してあったはずなんだけど、思わず「もう1つだけ」と手を伸ばしていたのは、アドリブというか素の反応かなと思いました(笑)。

登場する食べ物がとにかく美味しそうだし、料理もカッコ良くて、そういうすべての見せ方が本当に上手い。包丁で新鮮な野菜を切る、刻むリズムも良ければ、肉をジュッと炒める音もいいし、キッチンでのスピーディーな動きもカッコ良くて、目が釘付けになりました。一つ一つに“一流のプロフェッショナルな料理人”だと感じさせる説得力があって、物語に真実味が宿ったように思いました。
もちろん行く先々で調達する材料で、3人がフードトラックで作るキューバン・サンドイッチも、毎度メチャクチャ美味しそう! カールが食材を仕入れて中身を決めた後、フードトラックの黒板に、ササっとその日のメニューを書く、あの感じもオシャレで好きでしたね。実は僕の実家にも黒板シートがあって、お母さんが予定や買い物リストを書いていたのを思い出して。僕も自分の部屋に黒板を買って、予定とか書こうかな、なんて思うくらいステキでした。

この旅の中で、父と息子の関係も変化して行きます。レストランのシェフだった頃のカールは、2週に一度のパーシーとの面会でも、市場に行って息子のことが眼中になかったり。常に自分や仕事が第一優先で、家族をおろそかにして来たからこその離婚だったのかな、と感じましたね。
でも“いい父親”ではなかったけれど、料理に関しては本当にプロフェッショナルで情熱がある。普段はバカっ話をしていても、料理に関してはパーシーにも真剣に怒るんですよ。ちゃんと自分の人生で得てきた見解や信念を子供に引き継ぐ、というか。そして、パーシーが本気でやりたいなら自分も本気で向き合う、という姿勢は、父親としておっきい背中だなって思いました。準備を終えて初日を迎えるという晩に、3人がトラックの外に椅子を並べて乾杯するシーンも、すごくよかったですね。
マーティンがパーシーにビールを飲ませようとして、カールも「一口だけな」って。そういう、ちょっと大人扱いみたいなのも嬉しいんですよね。
作品全体を包む
めちゃくちゃごキゲンになれる音楽
そして僕にとって最大の魅力は、やっぱり音楽で。マイアミに飛んでからのキューバン・ミュージックなど、ビーチの陽気な映像と絡み合って思わず心が躍りました。フードトラックの中でも、ずっと音楽が掛かっているのですが、カールとマーティンが「もっといい音響機材を買おうぜ」とか話していて。人生において“なくてはならないものの1つ”として音楽が自然に組み込まれている感じに嬉しくなりました。
カールとマーティンが運転しながら楽しそうに歌っているのを、息子のパーシーが笑いながら見ているシーンも印象に残っています。そこでマーヴィン・ゲイの曲が流れてきた瞬間は、さらに僕のテンションも上がりました。
忘れていた“好きなこと”、
やっと気づいた“大切なもの”
そうして約1ヶ月の旅も段々と終わりに近づいていきます。カールは、有名シェフとしてもてはやされていた時には気がつかないことがたくさんあったんだろうなって。それを失って息子と一緒に旅をしていく中で、息子との関係や、今も気遣ってくれる元妻の優しさにやっと気づく。旅を通してカール自身が成長し、家族との関係も変化していく、すごくいい物語だと思いました。
笑いあり、悲しみや怒りもあり、でも幸せも感動もあって。そしてロードムービーの楽しさも加わって、本当に色んなものをずっと見せてくれる、すごく見応えのある作品でした。

ちょっと嫌な奴は出て来るけれど、悪人は一人もいない。レストランのオーナーも、酷評したブロガーも嫌な奴ではあるけれど、それぞれの立場で考えると、理解はできるんですよね。結局のところ、カールもラムジーも、嫌なオーナーでさえも、みんな自分の信念や好きなものを一途に大事にしている、という点では同じなんだなと思いました。
いつの間にか息子のパーシーが、フードトラックの広報部長みたいな役割を果たすようになっていて、カールのフードトラックの人気も爆発! でも、それに大人たちがついていけてない、という展開も面白かったです。本作が作られたのは、確か僕が中学2~3年生くらいなので、日本でもFacebookや Twitterが出て来た頃かな。それにしても、カールのネット・リテラシーのなさには驚きました。今なら炎上どころか、社会的に抹殺されたかもしれないですよね!
久々に構えずに観られて、気軽に純粋に楽しめる映画を選んだなと自分でも思いました。好きなものを大切にしたいなって思わせてくれるし、“好きなもの”が生きる理由や活力になってくれる素敵な物語。だから「今日なんか映画観たいな」と思ったら、迷わずこの映画をおススメしたいですね。ちょっとお腹が空くことは覚悟しなきゃ、ですけどね(笑)。

終盤に流れる「1秒動画」が本当に素敵でしたね。パーシーがネットに上げるために撮り溜めていた映像を編集したもので、その動画を観たカールが感動しているのを観て、僕も一緒にウルウルしてしまって。パーシーが撮っているだけに、オフショットみたいな自然な雰囲気で他の2人が映っているんですよ。
そして最後はロスに戻って来る。それはつまりこのフードトラックでの旅が終わりということ。“楽しかった旅ももう終わりか……”と僕ら観客も名残惜しく感じているところで、さらにこの「1秒動画」を見ると、いろんな紆余曲折の思い出が次々と溢れてきてジワっと泣けてきて……。楽しそうな父とマーティンが映っているけれど、それを撮っているパーシーの本当の気持ちも映っているんですよね。あれには本当にヤラれました!

『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』 (2014年/115分/アメリカ)
『アイアンマン』シリーズの監督ジョン・ファブローが、製作・監督・脚本・主演を務めたハートフルなロードムービー。ロサンゼルスの有名レストランで長くシェフを務めて来たカールは、オーナーと喧嘩して店を辞めることに。元妻の提案で息子のパーシーを連れてマイアミを訪れたカールは、そこでキューバン・サンドイッチの美味しさに改めて目覚める。フードトラックでサンドイッチの移動販売を思いついたカールは、元妻や仲間の助を借りながら、マイアミからニューオリンズ、そしてロサンゼルスまでの旅を始める。ロバート・ダウニー・Jr.、スカーレット・ヨハンソン、ダスティン・ホフマン、ジョン・レグイザモら豪華ハリウッドスターが出演。




8月15日から、僕が声で出演している映画「ChaO」が公開されています!
人間と人魚が結婚するということから始まる不思議だけど、心温まる映画になっています。世界観も独創的で見ていて楽しいですし、キュンキュンしたり感動したり、色々なものをもらえる映画だと思います。ぜひ劇場で!!
最近は暑さにやられていますが、日が長いのがいいなと思ってます。夕焼け空とか、入道雲とか、空を見るのが気持ちいいこの頃です。水分、塩分チャージを忘れずにいい夏を過ごしましょう!!
Text:Chizuko Orita
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