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恋人のスマホを見ただけなのに【連載】カツセマサヒコ「トーキョーカンバーセーションズ」第18回 

恋人のスマホを見ただけなのに【連載】カツセマサヒコ「トーキョーカンバーセーションズ」第18回 

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今日もどこかで、だれかが喋ってる。小説家カツセマサヒコさんの1話完結、オール会話劇!<メンズノンノ2023年10月号掲載>

 

「ねえ」

「んー?」

「……浮気」

「え?」

「浮気してない?」

「ん……? どしたの、急に?」

「いや、してるでしょって」

「浮気? 俺が?」

「うん」

「……いやいやいや、え、なんで? どうしたの?」

「いや笑うとこじゃなくて。答えてよ、聞いてんだから」

「いや、だって、そんな急にさ」

「急とかないし。してないならしてないって言えばいいから」

「いや、そうじゃなくて。え? いや、してないよ、してない、してない」

「してないの?」

「え、うん、うん、してないしてない」

「え本当に?」

「え、何、あ、疑ってる? 疑ってんの?」

「いや、疑ってるっていうか」

「何? 何?」

「え、じゃあ、スマホ見せてよ」

「え、待って、なんなの急に。すごい来るじゃん。完全に疑ってるじゃん」

「いや、してると思ってんだけどさ」

「なんでだよ。してないって言ってるじゃん」

「え、絶対に? 本当にしてないの?」

「うんうん、そう言ってるじゃん」

「じゃあ、スマホ見せて。浮気してなかったら見せれるでしょ」

「いや、そうだけどさ、でも、ほら、プライバシーじゃん、スマホって。プライバシーに関わってるじゃん」

「え、ちょっとくらい良いじゃん。同棲どうせいしてる彼女だよ? ダメなの?」

「いやいやいや、彼女でもよくないって、そういうのは。え、なに、逆に、見られてもいいわけ?」

「べつにいいよ、私は」

「いやいやいや。え? いいの? いや、でもさ、そっちはよくてもさ、俺はよくないとか、あるじゃんそういうの」

「えわかんない。別によくない?」

「ええー、マジで? なんでわかんないの? マジで言ってんの?」

「だって浮気してないんでしょ。だったらべつにいいじゃん」

「いや、浮気はしてなくても、ほら、えー、見方によっては怪しいなー、みたく思っちゃうやつがあるじゃん。ね?」

「ないよ、そんなの」

「あるよ、あるある。しかも今、疑ってるわけでしょ? 疑ってる状態で見るスマホは、ぜんぶ怪しく見えちゃうって絶対」

「いや、そんなことないから。はい、いいから見せてって。安心したいだけだから」

「こっちが安心できないから! それによって!」

「はあ? 何それ」

「えーだから。待ってよほんと。え? 何、じゃあさ、三分待ってよ。それでよくない?」

「え三分でどうすんの」

「え、怪しいなーって思われそうなのは消すから」

「それ意味ないじゃん。それが見たいのに」

「いやだから、見てどうすんのって。勝手に傷つくだけじゃん」

「は? 傷つくようなこと書いてるってこと?」

「いやそーうーじゃーなーいーけーど!」

「いいからもう。見せて」

「ええー、ちょっともう……あー。ええ?」

「はい」

「どうなっても知らないよ? いいの?」

「え、こわ。なに急にその態度」

「それでいいならいいよ、ほら」

「ええ? 本当怖いんだけど。なんなの」

「で、一応そっちのもちょうだいよ、スマホ」

「あ、はい。……ん、どうぞ」

「はい」

「……」

「……」

「はあ?」

「……」

「これ、完全に浮気してるよね?」

「してないって」

「じゃあ、ミオって誰よ」

「うん」

「うんじゃなくて」

「地元の友達」

「……キモ」

「いや、キモって……」

「いや、キモいじゃん。めちゃくちゃ気持ち悪いやりとりしてんじゃん」

「いや、そういうさ」

「キモ。無理だわこれ。きっつー。完っ全に浮気じゃんこれ。この女、完全にノってるし」

「いや、してないって。してない。ねえ、だから言ったじゃん、見ない方が」

「いや浮気してんのが悪いでしょ、どう考えても」

「いや浮気じゃないって」

「いや無理だって。これ絶対浮気だもん。朝帰りしてんじゃん。私にはサークルの飲み会だって言ってた日にさ」

「いやそれも、朝までいただけで」

「朝まで? 二人で? それで浮気じゃないわけ? 『また朝までいようね』とか書いてあるけど?」

「違うって、違う、違う」

「これで違うってのはないでしょー。少なくとも向こうはその気じゃん」

「いや、でも」

「でもじゃないし」

「……」

「……え? てかさ、これ、私からのLINEどこ?」

「……」

「え、ないけど。もしかして消してんの?」

「……」

「ねえ、なんで浮気相手のが残ってて、私のが消えてるわけ?」

「消してない」

「は? じゃあどこ? どこにあんの?」

「……これ」

「え、これ? 佐川急便って書いてあるけど」

「……」

「え、どういうこと? 私のこと、佐川急便で登録してんの? なんで?」

「ごめん」

「いやいや、ごめんじゃなくて。え、マジで言ってんの? このミオって子に通知見られたくないからってこと? それで? 彼女のことは佐川急便でいいやーってなったってこと? え、無理無理、なにこれ」

「いや違うんだって、それは罰ゲームで」

「はあー? 罰ゲームでこのノリはないでしょー。ずっと私のこと邪魔だと思ってないとできないでしょー」

「ねえだから、やめとけって言ったのに」

「言ったのにじゃないだろ!」

「ごめんごめんなさい」

「え、もう別れるよ? これ、別れることになるけどいいの?」

「ごめん待って、違うから」

「違うってことはないでしょ。それは無理だって。完全に黒だもん。説明つかないって」

「違うって!」

「……」

「……じゃあ、ちなみにだけどさ」

「何」

「お前のLINEの、この、ケントって人さ、元カレじゃないの?」

「え」

「これ」

「……」

「元カレだよね、これ?」

「……」

「結婚したって言ってなかった?」

「……言った」

「なんで、会ってんの?」

「……会ってない」

「会ってるでしょ。『会えてうれしかった』って書いてあるけど」

「それは違くて」

「え? 違うの?」

「……」

「ごめん、俺も責められる立場じゃないから、いま超複雑なんだけどさ、これ、お前も浮気じゃないの?」

「……非表示にしてたよね?」

「いや、LINEを非表示にしたらイイとかじゃないから。普通に検索すんだよ、元彼の名前とか。散々聞かされてたからさ、気になって最初に調べるわけ。ネチネチしてるって前に言われたけど。ネチネチしてるからさ」

「……」

「そしたらビンゴじゃん。一週間前とか。つい最近じゃん。お前、何してんの?」

「でも、なんもしてないから」

「いやそもそも『もう会わない』って約束じゃん。破ってるから。会ってる時点で」

「……」

「もうこれ、ダメじゃん。ほら。スマホってこうなるんだよ。俺もなんもやってないし、お前もなんもやってないって言うけど、完全に黒にしかならないじゃん」

「ごめん」

「いや俺もごめんだけど。ごめんごめんになって、もうお互い信用できなくなっちゃったら、同棲とかマジでしんどいじゃん。だから」

――ピンポーン――

「……誰?」

「……佐川来たかも」

「ねえ、やっぱり佐川って入れてたのだけは許せないんだけど」

カツセマサヒコ


映画化もされた『明け方の若者たち』での衝撃的なデビューから、2作目『夜行秘密』と人気作を生み出し続ける小説家。ぐさりと刺さる人間模様やリアルな感情の描写が、若者から熱い支持を集めている。執筆のほか、ラジオ『NIGHT DIVER』(TOKYO FM、毎週木曜28時~)など、多方面で活躍中。
最新情報はインスタグラム@katsuse_mからチェックしよう。

※この会話はフィクションです。

撮影/伊達直人

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