▼ WPの本文 ▼
人気芸人の生き様に人生のヒントを探す不定期連載企画。第四弾は、「異色」という言葉が最も似合うコンビと言っても過言ではない、ななまがりにインタビュー。多くの芸人を輩出している大阪芸術大学在学中にコンビを結成した二人は、落研の先輩だったミルクボーイを追い抜き、インディーズライブで優勝。それを機に、芸人として生きる覚悟を決めたという。
ななまがりのプロフィールはコチラ！
ななまがり
写真左：森下直人（もりした なおと／1986年05月20日生まれ、神奈川県出身）
写真右：初瀬悠太（はつせ ゆうた／1986年04月05日生まれ、香川県出身）
大阪芸術大学に在学中、落語研究寄席の会で出会い、学内ライブなどで一緒に漫才やコントを行うように。2008年、正式にコンビ結成し、吉本の劇場オーディションに合格し、2012年に看板メンバーとなる。2014年、劇場卒業を機に東京へ。「キングオブコント」や「M-1グランプリ」など賞レースの常連としても知られ、2022年からは優勝に向けた修行として単独ライブ『ななまつり』を開催している。
アーティスト特化型音声配信サービス『Artistspoken』のカルチャー番組「Second ID」で、毎週火曜日（23時〜）の配信を担当。
Xアカウント→森下さん、初瀬さん
公式YouTubeチャンネル：『ななまがりのなんでもやりますチャンネル』
後編は、吉本の劇場オーディションに合格した大学４年生からの人生をプレイバック。順風満帆に見えるキャリアの裏には、「地獄のようだった」と表現するほど辛い、苦労と挫折続きの日々が。それらを乗り越えながら得た自信を支えに、彼らは今年、芸歴15年目を迎えた。
大学の先輩・後輩にあたるミルクボーイや空気階段に対するコンプレックス、ラストイヤーとなった「M-1グランプリ」を前に優勝へのこだわりを捨てた理由など、ノンストップで語り続けてくれた熱い想いを、猛暑日に敢行したポートレートとともにお届け！
【インタビュー後編】
劇場所属、東京進出、賞レース…
不器用ながらにたどり着いた境地
劇場の看板メンバーになれても
お笑いで食っていける生活には程遠かった
ーインディーズライブでの優勝後、吉本の劇場のオーディションを受け始めて2008年に合格。大学生活と並行して、プロの芸人として活動を始めました。
森下 周りからは、「卒業して、ネタをきちんと磨いてからの方がええんちゃう？」という声もあったんですけど。ここでも僕は何も考えていませんでした（笑）。
初瀬 僕は単純に『baseよしもと』（※2010年に閉館）への憧れが強すぎて。絶対に劇場に入りたかったから「卒業まで待ってられへん。早く入るに越したことないやろ！」と思っていました。
森下 入るまでが大変やと思ってたけど、実際は入ってからの方が過酷でした。大阪では数百組がオーディションを受けて、合格するのはわずか20組。その中でバトルを繰り返して、一軍は３組、二軍は10組まで絞られる。二軍になれても、下からの突き上げでいつ振り落とされるかわからないし、一軍になるまでの道のりが果てしなく遠く感じましたね。楽しかったですけど。
初瀬 やっと一軍になれたのが2012年。当時は劇場の看板メンバーとして、かまいたちさん、天竺鼠さんの名前がバーン！と貼り出されてて、そこに僕らの名前が加わった時は、感慨深かったですね。きたー！と思ったけど、お笑いで食える状態からは程遠かった。劇場の看板メンバーでも食われへんの？と。改めて、芸人の厳しさを身に持って感じました。
森下 ライブに出っ放しやから、仕事はあるんですよ。むしろ休みがないくらいなのに、給料は10万ほど。ネタ作りはしないといけないし、先輩に誘われたら飲みに行くし。バイトをする時間は夜しかないから、夜勤で働いて……地獄みたいな生活でしたよ。
―ハードな生活は、いつ頃まで続いたのでしょうか？
初瀬 バイトを辞められたのは、つい最近ですよ。2020年くらいじゃないですか？ 東京に来てからも続けてましたからね。
ー2013年に拠点を東京に移したのは、どうしてですか？
初瀬 劇場を卒業させられたからです。メンバーの卒業は定期的にあるんですけど、当時、次の卒業は天竺鼠さん、かまいたちさんあたりの代までやと思ってたんですよ。ついに俺たちがトップの時代が来る！と思ってたら、僕らの代まで丸っと卒業を宣告されて。やっと一軍になれて、まだ２年も経ってないのに。一度卒業したら若手の劇場には出られないんで、その時点でだいぶ売れていない限り、大阪で出来ることは何もないも同然なんです。
森下 大阪出身の芸人は、大阪と東京で２度売れないといけない、とよく言うじゃないですか。大阪で売れるのに失敗した僕らは、東京でイチからどころか、ゼロからスタートを切らなきゃいけなかった。
観覧を入れなくなったコロナ禍が
自分たちのチャンスにつながった
ー大阪の劇場では一軍まで上り詰めた経歴がありましたが、東京に進出後、手ごたえはありましたか？
森下 東京では、劇場のお客さんはもちろん、スタッフですら僕らを知らない人ばかりでしたよ。急にテレビに出られるわけじゃないし、劇場の仕事もなくて、しばらくはバイトばかりしてました。
初瀬 当時、大宮の劇場で、ルミネtheよしもとでの出番を勝ち取るためのバトルイベントをやっていて。それに参加したんですけど、全く勝てず。そもそも、ルールが理不尽なんですよ。お客さんの票数でランキングが決まるんですけど、日によって客足の数にばらつきがあるから、運任せな要素が強くて。例えば僕らが８人のお客さんの全票を獲得しても、翌日30人お客さんが入った日に９票獲得したコンビに負けてしまう。
森下 １位を２回とって負けたときは、ほんまに泣きそうやったもんな。
初瀬 東京で初めて希望を感じられたのは、「キングオブコント」の準決勝進出。大阪時代は良くて準々決勝止まりだったから、むちゃくちゃ嬉しかったですね。そこで得た自信に、だいぶ支えられたと思います。
ー新規のお仕事にもつながりましたか？
森下 それほど変わらなかったですね。2016年に決勝進出したら、さすがにスタッフの僕らを見る目はガラッと変わりましたが。
初瀬 僕的には、Abema TVの『チャンスの時間』に出させてもらったことがデカかったと思います。「オープニング長回し選手権」っていうドッキリ企画だったんですけど、現場では、もちろんドッキリだから誰も笑わないじゃないですか。ドキドキしながらオンエアをみたら、MCの千鳥さんやらスタッフの方が大爆笑してて。
森下 確かに、あの番組は転機だった。
初瀬 森下のぶっ飛んだキャラクターが炸裂してたんですけど、コント以外でも受け入れられると知り、また一つ自信になった。その後に訪れるコロナ禍も、僕らにとっては良い転機でしたね。
ーコロナ禍が！ 意外です。
初瀬 僕ら、観覧のお客さんに全くウケないことが悩みだったんですよ。でもコロナ禍で観覧を入れなくなり、芸人のみの現場では、しっかり笑いを取れた。先輩たちは、お客さんの反応を見ながら展開を考えるじゃないですか。逆に、お客さんがいないと自分達の物差しで笑えるから、芸人仲間から評価されることの多い僕らにはラッキーだった。「お前らおもろいな！」と、ちょこちょこテレビに呼んでいただけるようになり、それが今にもつながっていると思います。
ネタにこだわりまくってる割に
隙がありまくる。隙しかない
ー同じ芸人から高く評価されることは、とても誇らしく嬉しいことだと想像しますが、いかがですか？
初瀬 むちゃくちゃ嬉しいですよ！ 多分、それがなかったら辞めてますもん。
森下 「どうやったら、そんなこと思いつくねん？」と言っていただくことが多く、それが評価されているのかな、と。自分で言うのもなんですけど、オリジナリティですよね。それから、ネタの質の高さ。僕からすると「これで十分やん」ということも、初瀬がなかなか首を縦に振ってくれないので（笑）。
初瀬 森下の発想頼みなんで、彼には申し訳ないけど……僕、ちょっとでも誰かのネタに似ていると感じてしまうと、受け入れられないんです。森下はお笑いに無知だから、誰かを真似ていないことは重々承知していますよ。ただ、オリジナリティが僕らの持ち味だからこそ、そこは妥協したくない。がむしゃらに自分達なりの面白さを追求し続けるのは、僕らのプライドの高さ故ですね。その割には今もガッツリ、スベりますけど（笑）。
森下 それはそれで、先輩方からの愛されポイントなのかなとも思いますし。僕らのネタに対する厳しさとかオリジナリティって、同じ芸人からすると怖いらしいんですよ。よく、天竺鼠さんや（野生爆弾の）くっきー！さんの部類だと言っていただくんですけど、その中でも、ななまがりは可愛げがあるらしく。理由を聞いたら、よくスベってイジれるからだと言われました。
初瀬 ネタにこだわりまくってる割に、隙がありまくるというか、隙しかないんです。
ーいち視聴者としても、「こんなネタ、どうやって思いつくのだろう」と気になっていました。森下さんの不思議なキャラや発言は、どのように生み出されているのでしょうか？
森下 説明するのが難しいんですよ。ネタ作り中、何も考えずにしゃべって、出てきたことをまとめているだけなので……。
初瀬 ネタを披露してる時と同じテンションで、思うがままにしゃべってますね。
森下 自分の感覚をそのまま表現するならば、「ビンビンの状態」。脳の表面がビンビンの状態でないと、何も出てこないんですよ。ビンビンなふりしてしゃべってるときって、初瀬も一切、笑わないですからね。不思議です。
ー発想について初瀬さんからNGを出されて、不服に感じることは？
森下 うーん……ないですね。「80点出したんだから、もう許してくれよ」という苛立ちは、正直よく感じていますが（笑）。それでも理由を聞くと、初瀬の指摘は正論でしかないんで。
実は、もうそんなに
優勝にはこだわってないんです
ー以前から「売れるよりも優勝したい」と宣言するほど、賞レース勝利にこだわってきたお二人。「M-1グランプリ」ラストイヤーに向けて、今のお気持ちを教えてください。
初瀬 優勝に対するこだわりは、正直、大阪芸大系譜のコンプレックスというか……ミルクボーイさんと空気階段が「M-1」、オダウエダが「The W」と、先輩後輩が優勝してきたから自分たちもせなあかん、と思ってきたんですよね。（ミルクボーイの）内海さんからは毎年「今年こそ優勝しろよ。一緒に優勝者としてライブやるぞ」とエールをいただき、その思いに答えたい気持ちもありますし。
森下 実は、今はそれほど優勝にこだわってないんですよ。きっかけは、夏に開催したお笑いライブ「ななまつり 二〇二三」。ゲストとして出演してくださった野生爆弾のロッシーさんが、打ち上げとして食事に連れて行ってくれたんです。その時に、「お前らには正直、“M-1”で優勝してほしくないけどな。優勝目指して結局できんかった、という感じが似合うし、それでも売れる芸人やと思うから」と言われ……今までになかった視点でしたが、すごく刺さったんです。
初瀬 僕もそれ聞いて、気持ちがフワッとしたというか、楽になりましたね。ずっと縛られてきたんで。もちろん優勝したい気持ちはありますけど、（優勝）せんでも人生終わりじゃないな、という気持ちになれた。
森下 実際に優勝しない方がいい可能性も全然ありますからね。ザ・マミィなんかがいい例だと思うんです。いい意味で箔がつかずに、ずば抜けたおもしろさはちゃんと広まった。
初瀬 確かに。ザ・マミィが優勝してたら、今頃どうなってたんだろう。
森下 優勝できたらいいけど、しなくてもいい。ただ、決勝戦に行かなかったら世間にも知られないし、ネタも見てもらえないんで、目指すはファイナリストですね。
ーでは最後に、お二人が思う、芸人としての最終地点は？
森下 やることは、これからも変わらないと思います。辛いから断言したくないけど、きっと来年も「ななまつり」を開催して新ネタ28本作るでしょうし。
初瀬 そうですね。僕らはずっと、ただただ目の前のことをやってきたんで。
森下 自分を「日本一おもしろい男」だと信じて生きてきた僕としては、芸人として、めちゃめちゃ挫折を食らってきたんですよ。「おもろいことしか言わんから」って宣言して、一言もしゃべられんで終わることなんてザラ。全てをできる芸人が日本一だと思ってきたけど、削りに削られて、ネタに対するプライドだけが残ってる状態です。今の目標は、何かひとつのことで日本一になりたい。ネタなのか、キャラなのか、発想なのかはわからないですけど。それでみんなをアッと驚かせて、思い切り笑わせる。そしていつか、真似されるくらいまでになれたらいいな、と。それ以外は、何も考えられないですね。この歳になってようやくわかってきましたが、ほんまに不器用なんですよ僕ら。
初瀬 自分を不器用って言う芸人はたくさんいますけど、そいつらと比べ物にならないくらい不器用です。これはマジで。
森下 こうなるためには何をしたらいいとか逆算できないし、実現もできないし。
初瀬 自意識過剰なのかもしれないですけど、いろんな思いをしてきましたからね。多分、人よりも痛い目に遭ってきたし、酸いも甘いも味わった。その上で、芸人をやめたいと思ったことは一度もありません。森下と喧嘩して「もう嫌や！」って思うことはあっても、結局、「今やめたらもったいないな」となるんです。今まで積み重ねてきたものがあるから。だから、今後も積み重ねて行くんだと思います。がむしゃらに目の前のことをやり続けながら。
森下 初瀬がケツを叩いてくれるおかげで、手は抜いていないはずなんですよ。ネタはもちろん、小さいライブだろうが、大きいテレビだろうが、つねに全力で挑んできた。それを続けていれば、悪くない何かにはなってるやろうな、と。そう思えることが、僕らの一番の誇りです。
Photos:Sakai De Jun Hair & Make-up:Miho Emori Stylist:So Matsukawa Interview & Text:Ayano Nakanishi
【森下さん】古着のシャツ ¥20,900・古着のパンツ ¥14,300／サファリ 1号店 帽子（フォーティーセブン）¥5,280／フォーティーセブン トウキョウ ヴィンテージの眼鏡 ¥66,000／にしのや その他／スタイリスト私物
【初瀬さん】古着のシャツ ¥33,000／サファリ 1号店 帽子（フォーティーセブン）¥5,280／フォーティーセブン トウキョウ 眼鏡（10 アイヴァン）¥85,800／アイヴァン PR その他／スタイリスト私物
▲ WPの本文 ▲
