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【連載】カツセマサヒコ「トーキョーカンバーセーションズ」第13回 あの男とのデートが忘れられない

【連載】カツセマサヒコ「トーキョーカンバーセーションズ」第13回 あの男とのデートが忘れられない

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今日もどこかで、だれかが喋ってる。小説家カツセマサヒコさんの1話完結、オール会話劇!<メンズノンノ2023年4月号掲載>

 

「ねえ本当に久しぶりなんだけど。いつぶりだっけ?」

「前にあれじゃない? アコの結婚式行った以来じゃない?」

「えーウソ、あれいつだっけ。二年ぶり?」

「二年か~なんか全然そんな感じしないね」

「まあインスタとか見てるからね」

「そだね、そだね。そうかも」

「え、どう? 元気してた?」

「えー、まあまあ? てか、見てたでしょ? ストーリー」

「うん、見てた。あはは。てかストーリーほんと面白いよね? いつも笑ってるんだけど」

「あーあれねー。ね。なんであんなことばっかり起きんだろうね?」

「ね、すごいと思う。才能だよ、才能」

「えーもっと他に才能欲しかったよー」

「えーなんでなんで、いいじゃん。あれとかすごかったよ、なんだっけ、ホストのやつ」

「あーホストね! あれやばいでしょ」

「うん、もうドラマじゃんってなった」

「もう最悪だったよー絶望してたからね、私」

「えーそうだったんだ! めっちゃ笑ってたんだけど。ごめん」

「ううんいいのいいの、笑ってほしくてインスタあげてたから」

「プロインスタグラマーじゃん」

「任せて、プロだから」

「てかあんな人、本当にいるの?」

「いるんだよーウソみたいでしょ?」

「なんだっけ、私服、超ダサいんでしょ?」

「そう、超ダサい。上下ピンク」

「え、どゆこと?」

「え。まず、上がピンクのシャツなのね。すっごいビビッドな感じのやつ」

「え、ワイシャツ?」

「そうそうそう。ボタン二個開き」

「二個開き! やば!」

「ね、その下。ペラッペラの白タンクトップ」

「あはははは! いやでも裸よりマシじゃない?」

「まあ、そうね、乳首浮き出てるけどね」

「あははははは! やめてよもう」

「で、上がピンクだからね、下はさ、なんか、落ち着いた色とかでバランス取るじゃん普通」

「うんうん、そうかもね」

「そしたら、下、もっとビビッドなピンクのパツパツ・パーンツ」

「きゃははは! ねえーやめてー」

「いやほんとやめてだよ。これ以上ビビッドなピンクあんの!? みたいな。見たことない」

「きゃはははははは!」

「デートだよ? 横、二人で歩いてみ? もうどんな顔していいかわかんないよ」

「すごいなーそれ初対面でしょ?」

「そうだよーほんとびっくり」

「それさ、事前のやり取りとかでわかんないもんなの? 服の話とかさ」

「いやーしなかったよね。完全にこっちの落ち度だったよ。それ以来、先に確認するようにしたわ」

「えー服どんなの着ますかって?」

「そうそう。どんな服着てます~? 系統合わせよっかな~って」

「あ、うまいねそれ。それはいいね」

「でしょ? もうあれでほんと学んだから」

「しかもその人が、ホストだったんでしょ?」

「そう。てかさあ、ホストってマッチングアプリやらなくない? やる?」

「えー知らないけど。やるとしてもさ、ホストって隠す必要なくない?」

「そうそうそう、まじでそう! せこいの、いちいち」

「ね、ちょっと詐欺みたいだよね。お店の勧誘になるからダメとか、あるのかなあ」

「あーなるほどね? てかね、アイコンももう詐欺だったんだよね」

「え、どんな顔なの?」

「見る?」

「え、写真あるの?」

「あるある、こんなこともあろうかと」

「怖い怖い、なんで持ってんの」

「え、笑えるから」

「えー見たい。どれどれ?」

「待ってね。あー、これだ」

「え、これ? あ、どっち?」

「右に決まってんじゃん」

「まじ! これやば! え、これで来たの?」

「そうだよー。アイコンは全然普通だったのに、詐欺だよもう」

「え、髪型やばくない? 漫画じゃん」

「ね、NARUTOで見たことあるよね」

「あはははは! やばー。てか、なんでホストってわかったの?」

「え、普通に仕事っていうか、職業の話になるじゃん。会う前は濁されてたから、何やってるんですかーって聞いたの。てか、もう第一印象でホストみすごかったからさあ」

「それ、向こうなんて答えたの?」

「接客業」

「あ~、まあ、合ってはいるね?」

「でしょ? うまいよね。だから、バーとかですか?って聞いたの。行きたいです~みたいなノリで」

「あはは、ちゃんと社交辞令するの偉いよね」

「うん、全然興味なかったけどね」

「あはははは! それでそれで?」

「いや、濁されたまま。いつかね~みたいな。店の写真見せてって言っても、ないって言われるし」

「えーそうなんだ」

「そうそう。で、なんだろう怪しいな~って思ったんだけど、その日は濁されたままで終わって」

「うんうん」

「別の日ね、たまたま。いや本当に、私ホストクラブとか行ったことないからさ。友達とノリで、ホスクラ体験しておこうよ~って行ったの。そしたらまさかの、ヤツいるじゃん」

「あははははははは! ほんと、やば。持ってるよねえ」

「ね。さすがに今回は持ってんなーって思っちゃった。ほんと恥ずかしかったその時」

「え、ホストやってる時は、さすがに格好いいの?」

「いや、中のシャツ、完全にビビッドピンク」

「きゃははははは! 出た~!」

「すごい経験したよー。でも、そのデートもある意味、楽しかったんだけどね」

「あ、楽しかったんだ?」

「うんうん、なんか宇宙人すぎて。すごいの」

「えーなんで? なにしたの?」

「えー普通に映画観たんだけどさあ。映画デートって、そんなにハズレなくない?」

「ああ、内容つまんなかったとか?」

「じゃないの。作品は良かったの」

「あ、じゃあそのホストが悪かったの?」

「いや、悪いっていうんじゃないんだよ。人それぞれ価値観が違うよな~ってだけの話なの。たとえばさ、映画観るときって、どのへんで観たい?」

「あー、一番後ろとか?」

「だよね、だよね?」

「うんうん。だと思う。まあ真ん中って言われても全然いいけど」

「わかるわかる。そうだよね。私もその感じだったの。そしたらね、ホストがあらかじめ予約してた席、最前列」

「きゃはははは! え、本当に? なんで? 混んでたの?」

いてた。全然ガラガラ。最後列、しっかり空いてた」

「あははは! それはすごいわ」

「ね、ちょっと謎だよね? 真ん中から後ろの方にはチラチラお客さんいるんだけど、前の方もう、私たちだけ。私もう、途中から首痛くて仕方なかった」

「きゃははははは!」

「いや、でもそこまではね、価値観の違いだから。まだいいのね。わかるの」

「うんうん、そうだね、悪くないもんね」

「そうそう。でも、その席でね、映画、始まるじゃん。観てるじゃん」

「うんうん」

「そしたら、始まって二十分くらいからね、なんか隣で、ポッて、たまに明るくなるの。あ、ちょっとなんか、光ってるな、みたいな」

「うわ、携帯……?」

「だと思うじゃん」

「うん」

「腕時計のバックライト」

「あははははは! なんか、なんか嫌だ!」

「そう! なんか嫌なの! ケータイよりマシなんだけど、その、ちっさい光! なんかちっさいの!」

「きゃははははは! だめ、ウケる」

「そう私ほんとダメで。なんか、ああ、こういう人類っているんだな~って」

「もう社会勉強だ」

「そうなの。で、私、映画のエンドロールとか最後まで観られないから終わったらすぐに立つんだけどさ」

「え?」

「え?」

「え、待って、エンドロール、最後まで観ないの?」

「え、うん。邪魔じゃない?」

「え、ほんとに? 待って、急にホスト側になった私」

「えマジ? 待って、うそゴメン」

「いやいやいや、価値観だから。それぞれだから。いいんだよ」

「いやほんとごめん。え? エンドロール、観る? 暇じゃない?」

「いや、暇とか、ちょっとわかんない」

「……まじか」

「うん、ごめん、ちょっと、うん。ホスト側だそれは」

カツセマサヒコ


映画化もされたデビュー作『明け方の若者たち』、2作目となる『夜行秘密』と次々に人気作を生み出す小説家。ぐさりと刺さる人間模様やリアルな感情の描写は、若者から熱い支持を集めている。執筆のほか、ラジオ『NIGHT DIVER』(TOKYO FM、毎週木曜28時~)など、多方面で活躍中。
インスタグラムは@katsuse_m

※この会話はフィクションです。

撮影/伊達直人

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最終更新日 :

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