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服好きたちの私物のなかでも、とくに思い入れの強い「人生のベストバイ」を教えてもらう連載。ひとつには絞りきれないって? なら、3つ教えてください!
人生のベストバイ、3つ教えて!
今回の服好きゲストは、ベイクルーズのサブブランド「フォル」でデザイナーを務める平沢幹太さん。
1.〈FOLL〉のリバーコート
「ブランドのシグネチャー的定番の『リバーコート』ですが、最初に作ったのは、22AWシーズンのこのモデル。自分自身、この冬も一番よく着たコートです。メンズでは裏地付きのコートが主流であるなか、自分のいいと思うデザインを忠実に突き詰めた結果、それがブランドを代表する洋服になり、以降のシーズンもマイナーチェンジを加えながら作り続けています」
「2枚の生地を接結し、端を内側に折り込んで手縫いする、いわゆる『毛抜き合わせ』という技法を用いています。レディースではよく見かけますが、ピーコートやトレンチなどのカテゴライズが主軸のメンズ服には、珍しいんです」
「毛抜き合わせということで裏地がなく、ステッチも露出しないので、とてもシンプルで着心地はやわらかです。ウールのコートはこれまでもたくさん作ってきましたが、なかでも軽く羽織れるのがこのリバーコートだと思います。カジュアルにも着られますし、パーティーみたいな特別なシーンにも合わせやすい」
「ボタンも付けていません。そうすると生地が後ろに引っ張られ、前が開いていってしまうのですが、生地の柔らかさや厚み、そして重心のコントロールで、むしろ生地が前側へ集まっていくように設計しました。ラペルもノーステッチで、アイロンのプレス仕上げだけで返していて、段返りのテーラードジャケットのような見た目です。チェスターコートの原型のような印象も受けると思います」
「このコートを着ると、中がジャージやスウェットでも、心地よく、自分らしくいられる気がします。ケアが最小限で済むのも大事。綺麗な状態を保たなければいけないものは、やっぱり人生のベストバイとは言えませんから。完璧な状態をコントロールしなくてもいい、というマインドで、つねに自然な状態の自分でいられます。「この状態もいいし、この状態もいいよね」と肯定できる洋服が、自分は好きなんです」
2.〈ED ROBERT JUDSON〉の
ショルダーバッグ
「このバッグを買ったのは、5、6年前の大学時代。ちょっと頑張って買った記憶があります。当時はアシスタントの仕事もしていたので、いつも大荷物で、結局、ボストンやバックパックをよく使っていました。毎日持つようになったのはここ数年、ようやく自分のデスクを持って、そこに荷物を置いておけるようになってから。バッグを自由に選べるようになったとき、改めて新鮮に映りました」
「とはいえこのバッグも、荷物はかなり入るんです。デルのコンピュータなんかもギリギリ入るし、靴も入る。でも、マチは側面にしかない構造なので、膨らみすぎない。いかにも『荷物を持ってます』という感じにならないのが、心地いいんです」
「ストラップの根本にはバネが使われていて、伸び縮みすることで力を吸収し、肩の負担を軽減してくれます。しかも、その機構は革でカバーされているので、見た目もイヤじゃない。この理にかなったデザインも、ここ数年使っていて気づいた魅力です。ちなみに以前、すごく重い花器と、デニムの鉄染めに使うための鉄粉の塊を同時に入れて出かけたことがありますが、持ち堪えてくれました(笑)」
「裏地はないので、丸めてスーツケースに入れ出張に行くことも多いです。内ポケットはボタンで取れる仕様。ポーチとして使うこともできますし、自分はときどきマウスパッド代わりに使っています」
3.〈J.M. WESTON〉のスエードローファー
「革靴は新品を買うことがほとんどですが、ウエストンに限っては、木型が足に合わないんです。ただ、旧タグが使われた古いモデルにはたまに合うものがあって、だから靴が置いてある古着屋さんへ行くと、ひと通り物色します。これも古着屋さんで見つけたもの。ほぼ未使用の状態でした」
「黒に見えると思いますが、ほんのり茶色みがかった黒。“スーパーダークブラウン”くらいの深い茶色で、なんといってもこの色のよさは、黒の服にも紺の服にも合うことです」
「表革ってすごくエレガントで、自分の毎日にはキザすぎるなと感じます。だからスエードの靴を手に取ることが多いですし、紐を締める動作も要らないローファーは、ほとんどスニーカーと同じ感覚で、毎朝自然と選んでしまいます」
「古着なので、奮発して買ったわけではありません。でも自分はわりと、高いものを買うときも『やったー!』って感じだし、3,000円のTシャツも同じテンションで買います。金額じゃないというか、消費の瞬間より使っているなかで得る自分にしかわからない興奮の方が大きいというか。朝日が気持ちいい日にコーヒーを飲みながら外を歩いていて、ふと足元を見たとき、とか」
Photos: Shintaro Yoshimatsu Composition&Text: Masahiro Kosaka[CORNELL]
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