▼ WPの本文 ▼
毎季パリのランウェイを彩るオーラリーの服。ブランドを語るうえで色のアプローチの話は外せない。デザイナー岩井良太さんは語る。「特に計算してるわけじゃないんですよ」。言語化しづらい「感覚」を掘り下げてみた。

PROFILE
オーラリー デザイナー
岩井良太
1983年、兵庫県生まれ。文化服装学院卒業後、ノリコイケなどで経験を積み、2015年春夏シーズンより、オーラリーをスタート。17年、南青山に旗艦店オープン。19年秋冬コレクションより、パリで発表。
デザインのラストピースとして、
色のネーミングを決めています
透明感のあるアクアブルー、清涼感あふれるペールイエロー、ヘルシーで心地よいアイボリーベージュ。2025年春夏シーズンの「優しい色」は、こうして生まれた。
今シーズンのテーマは、公園


公園を通り抜けて毎日通勤しています。そんな自分にとっての身近な場所が今季のテーマです。個人的に、プレッピースタイルの人が公園にいるのがすてきだなと思って、グリーンやイエローを差し色にカラーパレットを組み立てました。
頭の中に広がるカラーパレットを視覚化してみる

テーマから色のイメージが膨らむこともあれば、逆もしかり。まずは頭の中にあるカラーパレットを視覚化するため「パントーン(世界共通の色見本帳)」のチップを並べてムードボードを作成することからデザインは始まります。
春夏のカラーは、より淡く、より優しく

色はその時々の気分がダイレクトに反映されます。意識せずとも秋冬より春夏シーズンのほうが淡いトーンになりがち。はっきりとした理由はなく感覚ですね。そのほうがシンプルに見ていて気持ちいいし袖を通して心地よく感じませんか?
生地の特性が生きる色って? 試作は続く



地味ながらこれが最も時間のかかる作業。例えば綿シルクを使った落ち感のあるギャバジン素材なら、真っ白だとツヤっぽく見えるから生成り寄りのトーンにしようとか…どのあんばいがベストなのかひたすら悩んで色を決めます。
意識しているのは、「攻め! 攻め! 守り」のカラー展開

3色展開の場合、白、黒、シーズナルカラーというのが一般的かと思いますがオーラリーは違います。例えばグリーン、イエロー、ネイビーのように色モノがカラバリの軸。継続アイテムでも、色は必ずアップデートしています。
淡いカラーには、黒を差すのが最近の気分

濃色は紺や茶などシーズンで気分が変わるのですが、今は黒が好き。だから「淡いカラーを黒で引き締める」。このカラーバランスが自分自身の装いにもショーのスタイリングにもちりばめられている、私的な色の哲学です。
気になるカラーはシーズンをまたぐことも

振り返ると、昨年12月にローンチしたニューバランスとのコラボスニーカーと、この春夏コレクションの配色はよく似ています。ちなみに来季も似たトーン。基本的に気まぐれですが、シーズンをまたいで色の気分が継続することも。
ありきたりじゃない、
ただファンタジーでもない
「ひとくくりに“白”と言っても、バリエーションは膨大です。なのにいざ選ぼうと思うと気に入った色が見つからないことがある」
ジレンマと向き合いながらも、岩井さんはブランドデビュー時から一貫して色を駆使し、コレクションを彩っている。
「アクアブルー、ペールオリーブ、アイボリーベージュ…ありきたりではない色にこそ、ベーシックとは異なる上品さが宿ると思うんです。ベージュやブルーなどと簡単に言い表せない、複雑かつ繊細な色合いが好きなのは、そういう理由から。かといって、自分の作った服が現実離れしたファンタジーと思われるものにはしたくない。だから激しい色や蛍光色でなく、一般的なカラーのはざまにある微妙な中間色を選んで表現しています」
めざすのは、眺めていて心地いい色合いだ。
「色は季節や時代の気分を象徴するもの。自分にとっても着る人にとっても、今を心地よく過ごせるものにしたい。これが僕のデザインの基本です。店頭にディスプレイされたときの美しさや、着こなしのエッセンスになるか? という視点も大事。周りからは、“売れ線(人気のあるスタンダードカラー)”じゃない攻めたラインナップだね、とよく言われます(笑)」
経験を重ねても
一発で納得いく色は出せない
生地の扱いを熟知した岩井さんでも理想の色出しは難関だという。
「例えば、タテ糸とヨコ糸で色が異なるシャンブレー生地や、数種類の色綿をミックスするスウェットは無限の組み合わせがあります。これまでの経験やノウハウを踏襲しても一発で満足のいくものはなかなかできません。何度も試作を繰り返す途方もない作業です。当然、生地が変われば、色出しのあんばいも変わります。毎回コレクションが完成するたび、“よくこんなにたくさんの色を使ったな”と自分でも驚くほど。今季も50色以上が店頭に並びます。ぜひ優しい春の陽気を感じてください」
Photos:Shinsaku Yasujima Composition&Text:Keiichiro Miyata
▲ WPの本文 ▲