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モンスター級アニメ、待望の第二期放送開始!
なぜクリエイターたちはダンダダンに
惹かれるのか

世界中のアニメファンが、超ド級のクオリティに驚愕した『ダンダダン』(龍幸伸によるコミック原作)。こんなにも注目と人気を集めた理由を、クリエイターの視点を通して追う。
監督 山代風我 × 監督 Abel Gongora

Fuga Yamashiro
『映像研には手を出すな!』で副監督、『平家物語』で絵コンテ・演出、映画『犬王』で演出を担当する。『ダンダダン』で初監督。
Abel Gongora
多数の作品にアニメーターとして参加。スター・ウォーズ:ビジョンズ『T0-B1』や『スコット・ピルグリム テイクス・オフ』では監督を務める。
原作の密度を表現しながら龍先生が
見る世界の斜め上をいく(山代)

妖怪×宇宙人×バトル×ラブコメという破天荒なストーリーで人気を集めるアニメ『ダンダダン』。第一期から続くジジの物語を描く第二期がスタートした。監督を務めるのは、引き続き山代風我と、前シーズンのオープニング映像を手がけたアベル・ゴンゴラ。気鋭のアニメーション制作会社・サイエンスSARUの二人がタッグを組んだことで、『ダンダダン』のアニメ世界のさらなる拡充が期待される。
山代 制作時期としては第一期と同時進行の部分もあり、私が第一期の後半で手いっぱいだったのでアベルさんに第二期のお手伝いをお願いしました。シリーズに新しい血が入りこれまでと異なるアイデアや風味が加わって、作品の豊かさに貢献できるのではないかなと思っています。
アベル 私も作品に入るのは楽しみでした。すごく面白い作品だと思っていたんです。日本の妖怪は詳しくないですが、子どもの頃に母が読んでいたスペイン版『ムー』のようなオカルト雑誌を横で見ていたし、SFとホラーの融合を感じられる映画『エイリアン』も大ファンで、「私自身も『ダンダダン』の世界観に通ずる部分を持っているのでは?」と思っていたので、実際楽しめました。
山代 アベルさんには、ひとまず第二期序盤の「温泉編」を丸々担当いただいたのですが、作品のテンポの関係上、第一期の最後に「温泉編」の導入部を入れたことで、必然的に第二期の「温泉編」はそちらの処理に合わせなくてはいけなくなってしまいました。「温泉編」を市川崑(こん)監督の『犬神家の一族』のような印象で、いつもよりも浅い彩度で進めていたのです。そうした制約のある中でのスタートとさせてしまったことが、すごく申し訳なかったと思っています。
アベル (笑)。確かに山代さんのビジョンなど、既に決まっていることを受け入れる必要がありました。だけどうれしいことに私と山代さんは、今まで同じ作品に参加していたり、クリエイターとしての背景が似ていたりして共通点が多く、いい相乗効果が生まれたと思います。例えば、二人ともパース(遠近)を強くきかせた構図が好みだし、キャラクターの表情や芝居を豊かに描きたいタイプ。あと、実験的にこれまでにあまりなかった表現や加工を取り入れたり、信頼している作家さんに自由に描いてもらったり。スタイルも似ている気がします。
山代 そうですね。それらすべてが『ダンダダン』に見られる非日常感やギャップと親和性があったからだと思います。

第一期で本作の土台を築いた山代監督。唯一無二の世界観をアニメに落とし込むために、当初から大事にしていることがあるという。
山代 まず、いろんなところにギャップ、緩急をつくれるだけつくろうと思いました。そこで思いついたのが、怪異にテーマカラーを持たせて非日常のシーンを固有色で染め上げるスタイル。非日常に足を踏み入れた感覚を一瞬で表現可能であり、ビジュアル面での日常シーンとのギャップとしても機能します。他にも音や芝居、テンポ感など、ギャップを各話の中にたくさん入れ込もうとしました。速いテンポの中に激しい緩急をつくって視聴者を振り回し、映像から受ける体感の「密度感」と原作の「読後感」を錯覚させることが狙いです。また、映像化とは、各々(おのおの)のテンポで読み進めることができる漫画とは異なり、時間を与えることでよくも悪くも行間を確定させてしまい、作品のリアリティラインが上がり立体的になってしまいます。そのため、行間を原作に則した形で正確に埋めていかないと、原作の圧縮された密度が薄く引き伸ばされる印象を与えてしまいます。そうならないように映像ならではの遊びや特性を生かし、メディアの差を埋めながら原作の世界観を正しく補完していく。それは演出プランだったりさまざまです。関連性のあるものを、原作の『ダンダダン』に混ざっていてもおかしくない必然性のある形で、ときにはギミックとして混ぜている。龍先生が足しそうな「におい」や「印象」を、コマとコマの間に小ネタや描写として足すことで、“常に画面の中に何かしら見るべき場所がある”という状態をめざしました。このような形で原作の映像化に貢献できれば、という思いで取り組んでいました。もちろんそれは、多様な表現を受け入れてくれる原作と龍先生の器の広さと深さがあってこそ。第二期でも引き続き、演出的に強度のある、完成度が高い作品をつくりたかった。原作の魅力を損なうことなく、魂や芯は原作の延長線上を確かに歩みながら、映像としては原作と比べられることがないようにアイデアや工夫で戦う土俵をずらし、原作の斜め上をめざそうとしました。
邪視のエピソードでは原作にはない
すごい試みができた(アベル)

原作者の世界の“斜め上”をいくために、二人の監督だから生まれた表現がある。それは、邪視(じゃし)(モモの幼なじみ・ジジの家に潜んでいた妖怪)にまつわる演出。
山代 ひとつは邪視のテーマカラーですね。アベルさんが神秘的な青紫を提案してくれました。第一期から、妖怪や宇宙人はそれぞれ自分なりの倫理観やルールを持っているという認識のもと、個性を見分けられるように固有色を設けています。ターボババアの力を持つオカルンの固有色を赤にしているのですが、邪視を青紫にすることにより、オカルンとジジの、正反対なキャラクターの関係性を固有色の差にも引っかけて意味のある形で表現することができました。オカルンと邪視が戦うシーンで遺憾なく活用されています。こういう映像的なロジックが好きで、自分でも頭が固いと思いつつ(笑)、演出上のルールの線引きは厳しめに設定しています。

アベル 作品がいい意味でクレイジーだからこそ挑戦的な描き方もできた。ただあくまで商業作品なので、観てくださる方に「わからない」と思われる表現は避けるよう意識しました。
山代 そういう意味で、ジジの家の地下にある世界の表現はアニメならではだと思います。
アベル 絵コンテの段階で山代さんのアイデアを相談しながら足して、カッコよく仕上がりましたね。地下の世界では多くの古い家が埋められているのですが、すべてが髪の毛でつながって形が保たれています。この髪は、ここにいる、かつて生贄(いけにえ)になった邪視から上のほうまで伸びているように描きました。
山代 原作では、邪視の呪いがたくさんの人と土地をつなぎ留めていることがテーマだったので、呪いの生まれる原因となった最初の生贄の人物が物理的にもすべてをつないでいる形にしようと。また“呪いが家に根を張っている”というイメージから、その髪が根っこに見えるような描き方がいいだろうという話になりました。
アベル それから邪視の回想シーンでは、時間がたつにつれて髪が伸びていくという描写も入れました。制作工程としては想定より手がかかったのですが、原作にはない表現で、かつすごい試みができたととても満足しています。
山代 私の仕事は原作の魅力を損なうことなく映像に落とし込むことで、映像を構成するパーツをしっかり『ダンダダン』用に形を合わせて磨きはめ込み、作品の完成度に貢献することだと思います。アニメ『ダンダダン』を観ると、意外と凸凹してないはずで、もし原作と同じような印象を持っていただけたのであれば、それは狙いどおりですごくうれしいなと思います。
サイエンスSARUって
どんなことしてるの?


代表作に『夜は短し歩けよ乙女』や『映像研には手を出すな!』、映画『犬王』などを持つアニメーション制作会社。他にはない斬新な演出法や先進的な映像表現を更新し続ける作品づくりは多くのアニメファンを魅了。10月3日放送開始の『SANDA』、2026年には『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』が控えている。
毎週木曜24時26分~、
“スーパーアニメイズムTURBO”枠
(MBS/TBS系28局)にて放送中

山奥の家に引っ越したときから怪異に悩まされる、モモの幼なじみのジジ。彼を恋敵として意識するオカルンだが、怪異の真相を探るべく、モモとともにジジの家を訪ねる。そこには、怪異・邪視の呪いと恐るべきUMA(未確認動物)が潜んでいた。
原作:龍幸伸(集英社「少年ジャンプ+」連載) 声の出演:若山詩音、花江夏樹、水樹奈々、佐倉綾音、石川界人、田中真弓
©龍幸伸/集英社・ダンダダン製作委員会
Photos:Kanta Matsubayashi Text:Hisamoto Chikaraishi[S/T/D/Y]
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