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作品にかける情熱と、日本のエンタメを盛り上げたいという志とともに、2年半ぶりに佐藤健がメンズノンノに登場。本誌8・9月合併号に掲載され大反響を呼んだインタビューをウェブでもお届けする!
行動するのを先延ばしにしたら、
後悔する未来を僕は知っている
7月31日より配信が始まるNetflixのドラマ『グラスハート』。同名の原作小説を20代前半のときに読んで魅了されたという佐藤さんが、自らNetflixに企画を持ち込み、映像化が実現。主演に加えて、共同プロデューサーを務めている。
「『グラスハート』の実写化を思い立ったのは、2019年の頭。Netflixが世界中で広まり、日本の作品を世界に向けて発信できるようになったことが大きかったですね。日本のドラマが世界で観られることを、“当たり前”にしたい。そんな目標が僕の心に芽生えました。どうやって実現させようかと考えたときに、一番に思いついた題材が『グラスハート』。自分たちで撮影したワンシーンとともにNetflixに提案して、原作者の若木未生さんに許可をもらい、2020年から脚本に着手しました。プロデューサーを務めたことで、よりディープに作品と関わることができましたが、役者であってもプロデューサーであっても、“ただ、いい作品を作りたい”という気持ちの核心は変わりません」
『グラスハート』を選んだ理由は、登場人物のインパクト。日頃から多くの小説や漫画を読んでいるが、『グラスハート』以上に魅力的なキャラクターと出会うことはなかったと語る。
「世界中で愛される作品をめざしたときに、一番大事にしたのが愛すべき登場人物。例えばラブストーリーならば、主人公の2人がくっついたり別れたりする展開が重要だと思いますよね? でも実際は、2人に魅力がなければ、視聴者の心は動きません。大好きな2人だから結ばれるとうれしいし、別れると悲しい。重要なのは何が起きるかではなくて、誰が何をするかなんです。僕が原作にほれ込んだのも、藤谷というキャラクターに魅了されたから。絶対に妥協せずに、誰よりも真剣に音楽と向き合う藤谷のようでありたいと感じ、今もそう思っています」

佐藤さんが今作で演じるのは、孤高の天才ミュージシャン・藤谷直季。ドラマーの西条朱音(宮﨑優)、ギタリストの高岡尚(町田啓太)、キーボーディストの坂本一至(志尊淳)とともに結成するバンド・TENBLANKがスターの座へ駆け上がる中での葛藤や衝突を描く。キャスト陣の豪華な顔ぶれもさることながら、楽曲制作にはRADWIMPSの野田洋次郎、[Alexandros]の川上洋平、ONE OK ROCKのTakaなど、錚々(そうそう)たるメンバーが参加している。
「原作にはない音を作り出す作業が、一番難しかったですね。なぜなら、答えがないから。ただ、僕は原作を読みながら洋次郎の音楽をイメージしていたんですよ。今作には絶対に彼が必要だと感じて、最初に声をかけました。洋次郎に2曲書いてもらい、なんとなくTENBLANKの音楽の方向性が見えてきた。そこからは、いろんなミュージシャンの方々に書いてもらった楽曲をみんなで聴いて、相談しながら厳選しました」
劇中に何度も登場するライブシーンは、すべて本人たちが演奏しているというから驚く。
「TENBLANKのメンバー全員、未経験の状態から練習して習得しました。僕はベースとピアノを学ばなければならず、子どもの頃に楽器をやっておけばよかったと、冗談抜きに200万回くらい思った(笑)。ピアノを習ってみたら? という母親の提案を拒否し続けた、過去の自分を恨みましたね。宮﨑さんはクランクインの1年前から、3人も数か月前からそれぞれ練習を始めて、8か月間の撮影期間中もつねに楽器を持ち歩いて生活していました。みんなとバンドを組んだ経験は最高にスペシャルな思い出になったけど、正直、当時は楽しむどころじゃなかった。数日ごとに演奏シーンの撮影が入っていたから、日々楽器の練習に追われて、頭がおかしくなりそうでした。最終的には演奏を楽しめるようになったので、今も時間を見つけては練習しています。もしも皆さんからたくさんリクエストがあったら、TENBLANKのライブもあるかも? 楽しみにしていてください」

メンバーの努力の結晶ともいえる最終話の大規模なライブシーンは、12台ものカメラで撮影し、5,000人以上のエキストラを動員。日本のドラマ史上最大級の臨場感と高揚感を味わえる。
「ドラマって面白いシーンを盛り上げるために、どうしてもそこに至るまでに必要な面白くないシーンがある。面白いシーンとは、ラブストーリーなら胸キュンシーンで、アクションならバトル。今作では、それに当たるのがライブシーンなんです。つまりライブシーンが面白く撮れなければ、作品そのものが失敗する。ありがたいことに、ミュージシャンも監督もプロフェッショナルな方たちが集まってくれたので、絶対にいいものになるだろうと自信を持って挑めました。ただ……技術的な問題で、最終話だけ音のボリュームが少し小さくなっているんですよ。だから皆さん、10話はちょっと音量を上げてご試聴ください! 大事なことなので、これを見出しにしてもらえますか?(笑)」
登場人物の個性が反映されたファッションも、見どころのひとつ。オーバーサイズのアイテムをゆったりと、品よく着こなす藤谷の装いは、どこかミステリアスな天才ミュージシャンというアイデンティティを見事に表現している。
「藤谷のファッションは原作でも丁寧に描写されていたので、それをベースに僕のイメージも加えながら衣装を選びました。藤谷のイメージは、ハイブランドのコートを着ているのに、どこにでも座り込んじゃう人。季節感とかはあまり気にしていなくて、その辺にあるものをパッとはおって出ちゃう人なのかな、って。普通のドラマなら、同じコートを何度も着るじゃないですか? 僕のプライドで、同じアイテムは二度と登場しません。皆さんに楽しんでいただきたい一心で、全着替えしています」
衣装の中には、メンズノンノの表紙(2023年1・2月合併号)で着用したファーコートも!
「あるシーンの衣装を考えていたときに、メンズノンノで着たサンローランのコートだ! とひらめいて(笑)。シーズンアウトしていたからなかなか見つからず、他のファーコートも検討したけど、あれ以上にいいものがなかったんだよね。奇跡的に発見できて、本当によかった。サンローランのコートも含めて、藤谷の衣装のほとんどは僕の家にあるんですよ。藤谷が好みそうな柔らかい素材にこだわって選んでいるから、どれも着心地がよくて、私服で着たいと思っています。そういえば藤谷を演じて以降、よりオーバーサイズを着るようになったな」

TENBLANKのメンバーが絆を深めていく青春ドラマと、メンバー間の三角関係というラブストーリーを、本格的なバンドミュージックが彩る今作。作りたい音楽と求められる音楽の違いに悩んだり、誰かの才能に嫉妬したり、登場人物たちが直面する数々の壁は、多くの表現者が経験してきたであろう、普遍的なテーマだ。
「結局、クリエイターって自分が好きなものしか作れないと思うんですよ。だからこそ、自分の感性を信じて突き進まないといけない。その点で、僕はドラマや映画を特段好きじゃないことが自分の強みだと感じています。飽きっぽくて、めちゃくちゃ面白い作品しか楽しめないところが、マスの視聴者の感覚と近い。だから今作は、映像作品の熱心なファン以外もターゲットとして意識しました。映画館に行くのは年1回、『名探偵コナン』を観るときだけ、連続ドラマを観ない…というような人が飽きずに、ワクワク興奮するようなものを作ることが僕の使命であり、『グラスハート』を作る意義だと考えました」
最後に、佐藤さんの今後のビジョンを尋ねた。
「僕には今、明確な目標があるから、あとはそれを実現させるだけ。目標が変わらない限り、考えて実行して、の作業を繰り返すのでしょう。もちろん、“あー、めんどくさいな”って思うこともありますよ。行動を先延ばしにすることは簡単だけど、1年後、2年後に後悔する未来を僕は知っているので。よし、今日もやるか! と、自分を奮い立たせ続けるんだと思います」
Netflixシリーズ『グラスハート』

所属するバンドをクビになった西条朱音は突然、孤高の天才ミュージシャン藤谷直季に抜てきされ、4人組の新バンド・TENBLANK(テンブランク)のドラマーとなる。藤谷が生み出す唯一無二の楽曲と、4人の熱く激しい演奏により、瞬く間に世の中を席巻。しかし快進撃を続けるTENBLANKの前に、数々の壁が立ちはだかる……。
Takeru Satoh
1989年3月21日、埼玉県生まれ。2006年に俳優デビュー。近年の代表作に、ドラマ『恋はつづくよどこまでも』(20年)、Netflixシリーズ『First Love 初恋』(22年)、映画『はたらく細胞』(24年)など。22年、映画『護られなかった者たちへ』(21年)で第45回日本アカデミー賞優秀主演男優賞に輝く。今年2月、Instagramアカウント(@takeruxxsato)を開設。
Model:Takeru Satoh Photos:Tatsunari Kawazu Hair&Make-up:Eito Furukubo[Otie] Stylist:Hidero Nakagane[S-14] Interview&Text:Ayano Nakanishi
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