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この『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』、物語の舞台は真冬のクリスマス休暇で、今にピッタリの作品です。昨年の劇場公開時に、ずっと映画館で観たいと思っていたけれどタイミングが合わなかったんです。友人から「面白かった」と聞いていたので、配信されてすぐに観たらメチャクチャ感動。本当にいい、これはみんなに観てほしいなと思いました。まず、なにが面白いってセリフの感じ……言葉が面白いんです。頭がいい人たちの会話って聞いているだけで面白くて、楽しくて、それもよかったです。


『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』ブルーレイ+DVD発売中
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
購入・視聴:https://watch.lnk.to/Holdovers
どん底気分の“居残りクリスマス”。最悪な始まりのホリディはどうなる!?
舞台は70年代初頭のアメリカ。寄宿制の名門男子校で、まさにクリスマス休暇(冬休み)を迎えるところ。冒頭、生徒たちに成績表が返されるのですが、歴史のハナム先生は気難しくてメチャクチャ厳しくて、落第点をバンバンつけてしまう。だから生徒たちから嫌われているし、同僚の先生たちからも煙たがられているんです。そんな中で、主人公のアンガス君はB+をもらっていたので、きっと相当、頭がいい生徒なんですよね。ちょっと反抗的な感じでもありますが。

生意気盛りのアンガスが先生にちょっと意見したら、年明けにクラス全員が追試験を課される羽目になって、逆にみんなに文句を言われてしまいます。クリスマスだ、年越しだ、新年だって浮かれた休み明けに再試験だなんて、絶対に嫌ですよね! 休みの間に勉強して来いよ、なんてあり得ない。もう、嫌われる先生ランキング第 1位だなって思って(笑)。僕も前半は、あんな先生が近くに居たら、絶対に近づきたくないと思ってしまいました。

生徒たちは帰省を前にみな浮足立っているのですが、家庭の事情で学校に居残りする生徒もいて、面倒をみるのがその偏屈なハナム先生。ハナム先生は高額な寄付をしているお金持ちの息子にも赤点をつけてしまったので、他の先生からその役割を押しつけられてしまったんです。アンガスも帰省や母親との旅行を楽しみにしていたのに、母親は再婚相手と旅行に行ってしまい、電話一本で居残り組になってしまいます。中高生6~7人と共にハナム先生のもとで規則正しい生活を強いられる。そんな状況だからみんな不機嫌で、すぐケンカになったり、年下の中学生に意地悪をしたり、不満だらけで一触即発な状態なんです。
例えば、アンガスの同級生が下級生の男の子の手袋を、一つだけ湖に投げ捨ててしまうんですよ。下級生から「なんであんなことするんだ?」と問われたアンガスは「みじめな気分を味わわせるために、わざと片方だけ投げ捨てたんだよ」と答えます。片方残っている方が、さらに「失くした感」があるってことかな。そしたら男の子が走り出して、残ったもう一つの手袋を自ら川に投げ捨てるんです。探しに行くのかと思ったら、いきなり自分から投げ捨てるなんてビックリしたけれど、すごい可愛かったです。その発想、自分にはなかったなって(笑)。

そういう小さな諍いが色々起きたり、自ら起こしたりするのですが、「男子って何故あんなバカなことをしてるの?」みたいに女子から言われそうな小学生男子の感覚と一緒で、理由はないけれど、ただ何かバカやっちゃうんだよな、と観ながら思っていました。そういう、「男ってバカだよな」ということが、本作ではもりだくさんなんです。もう、若気の至りだらけで笑っちゃうというか、楽しいというか。バカだけどキラキラしていて、その若さや青さもよかったです。アンガスも、入室を禁止されていた体育館に走って行って宙返り。ふざけて痛がっているのかと思ったら、本当に大怪我しちゃったり(笑)。
トラブル必至!?
胸に傷を抱えた、孤独でクセ強な3人
休暇に入ると、航空会社のお坊ちゃんの親がヘリで迎えに来て、みんなをスキーに連れて行ってくれる、という急展開になるのですが、アンガスだけが母親と連絡がつかないために連れていってもらえないんです。他の生徒みんながいなくなって取り残されたのは、本当に切なかったですね。今や学校に残っているのは、ハナム先生とアンガス、そして住み込みの料理長メアリーの3人。「あ、ここから新たな物語が始まるんだな」という感覚がありました。

僕、このメアリーさんが出てくるシーンは、すべて好きでした。メアリーさんはずっとこの学校で働いているのですが、実は息子さんをベトナム戦争で亡くしていて、孤独や大きな喪失感と戦いながら生きていることが分かって来ます。彼女自身がずっと苦しんでいるのにもかかわらず、周りの人たちの背中を押していることが本当に多いんですよ。彼女が出てくると、すごく安心感があります。常に人のことを考えてくれる優しさや深さ、その包容力に惹かれました。
アンガスとハナム先生は、最初はお互いに反感しかなかったと思うけど、そんなメアリーが間にいてくれたからこそ、関係が崩壊することなく一緒に過ごせたんだろうな。3人でテーブルを囲むシーン、食後にテレビを見るシーン、また終盤近くで爆竹を鳴らすシーンなど、どれも強く印象に残っている好きなシーンです。また、そういう時にどことなくメアリーさんも楽しんでいる風だったのもいい。

少しずつわかってくる、
それぞれの心の傷の深さ
後半に入って来ると3人それぞれが人に言えなかったこと、胸に秘めていたことがボロッと剥がれて明らかになる瞬間があるんです。例えばアンガスは最初の頃、「お父さんは死んだ」と言っていたけれど、実際はそうじゃない。お父さんに会いに行こうとするシーンはシリアスな展開で重かったけれど、ハナム先生が励ますように、「君の過去が(君の)人生の方向を決めたりしない」という言葉がすごく胸に響いて、お~っとなりました。
一方、ハナム先生も昔の同僚と会った時には、思わず見栄を張って嘘をついてしまうのですが、今度はアンガスが機転を利かせて口裏を合わせて先生を助けたりする。やっぱり頭がいいですよね。2人とも寂しくて不器用で、人との関係づくりが下手くそなタイプだけど、痛みを知っているからこそ実はとっても優しくて他人の気持ちが分かる。それこそ、「すごく人間だな~」って思いました。思わず僕、初めて会った時は怖そうだと思ったけれど、実は高校の3年間を通して誰よりも優しかった友人を思い出したりしました(笑)。
自分の弱さを見せる勇気が、
人に優しくできる強さをくれる
メアリーさんも含めて3人とも人間的に欠陥もあるし、過去の悲しい出来事によって凝り固まって頑なになってしまっているけれど、一緒に過ごすことによって少しずつ心がほどけていく展開が、本当によかったです。埋めることすら諦めていた心にぽっかり空いた穴が少しずつ埋まっていく過程、3人が段々と近づいていく過程、離れ離れだった人間関係が少しずつ構築されていく過程が、じっくりと時間をかけて描かれていく。そんな時間の流れや世界観が、とってもいいんです。

時間をかけて人の優しさが見えてきたり、打ち明けられなかったことを打ち明けられるようになったり、誰かを理解していったり、そういう“時間を掛ける”ということも、とっても大事なんだなと学びました。そういうことを本作はじっくり描きながらも、途中で弛んだりすることが全くないのがスゴイな、と。もしかしたら、冒頭の意地悪な同級生も人に言えない理由があるのかもしれない。そういうことも、ちゃんと時間をかけなきゃ分からないよな、多面的に色んなところを見てあげようよ、優しくなりたいな、と思わされました。
最初に言ったとおり、頭がいい人達の会話って聞いていて本当に面白いんですよ。だから本作には名言も多い。アンガスと訪れた博物館でハナム先生が、「人間の営みは昔から変わらない」と、歴史を学ぶ意味を話すのですが、アンガスから「教室でも、そんな風に教えてくれたらいいのに」と言われてハッとするように、お互いに少しずつ影響を与え合って、少しずつ変化していくのもよかったです。先に挙げた「君の過去が人生の方向を決めたりしない」という言葉も含めて、響く言葉が多かったですね。

過去に学び、新しいものを作る。
俳優の仕事にも通じる人の営み
同時に、最近、先輩方から聞いた話とも僕の中ではリンクしました。先輩たちとお芝居の話をしていた時に、「今や芝居の方法やアイディアはほぼ出尽くしてる」という話になったんです。それをどう新しいものとして生み出せるか、これからはハイブリットで作っていくしかない、そうすれば新しいものになる、と。だからこそ僕たちが勉強しようと思ったら、それこそ黒澤明監督の作品や三船敏郎さんなどをはじめ先人たちの原点から学べることが大きい、と言われました。
一方で、それは今年の10月~11月に出演した舞台『リア王』の演出家フィリップ・ブリーンさんから言われた言葉にも繋がりました。彼は常に「モーメント・ツー・モーメント」とか「エンジョイ・ザ・モーメント」と言っていたんです。「その時々を楽しむ」「その時が繋がっていく」というような。シーンの中で何を学び、何を考え、いま何が見えてるのか、ずっと考え続けて、と言われたのですが、それがお芝居だけでなく自分の人生にも繋がって響きました。そういう色んな言葉たちが、本作を通してすべて僕の中でつながった感じでした。
人がいちばん優しくなれる時!大好きなクリスマス映画に仲間入りしました
この作品は年齢問わず、どんな人にもお勧めしたいです。僕自身、自分が父親になった後で観たら、また全く違うものを感じるのかもしれないな、と思います。それに、僕は季節ごとに見たい映画があるのですが、以前この連載でご紹介して来た大好きな映画、『天使のくれた時間』も『素晴らしき哉、人生』も、舞台がクリスマスなんですよね。一月生まれだからか僕は冬が一番好きなんですが、やっぱり人って、クリスマス付近の真冬に最も優しくなれるというか、優しくありたいというか、そんな感覚があるんです。本作はこれからもクリスマスになると、きっとまた観たくなる映画だなと思います。


ハナム先生を演じたポール・ジアマッティさんは、コンタクトレンズを入れて演じたそうですが、先生が斜視であるという設定も、とっても意味深いと思いました。先生がどこを見ているかが分からないので、真意も伝わりにくい。でも、気持ちの距離が近づいてきた終盤では、アンガスに「こっちの目(が見えている)だよ」と打ち明けるんです。その時に、そうでない方の目がカメラをずっと見ていたのにもドキッとしました。改めて、すごい役者さんだなぁ、と。そして目だけでなく全身が「先生」なんです。先生が生徒たちと一緒に雪道を歩くシーンがあるのですが、その時にメチャメチャ威圧的な歩き方をしているんですよ。そのショットだけで、「ちょっと苦手かも~」と思わされて。なるほど、そういうことか、と腑に落ちたことがありました。
というのは、『ノー・カントリー』という映画の主演俳優ハビエル・バルデムさんが以前インタビューで、「シーンが始まる前に考えるのは、体のこと」とおっしゃっているのを読んだことがあって。この場所で、このシーンのこのセリフを言う時に、どんな体の状態でいるのか。緊張しているのかリラックスしてるのか、そうした体の状態を作ってからでないとダメだ、と。感情だけで演じるとシーンに入った時、何も生まれないと言っていたんです。まず、そこに体が存在しないといけない、と。同じことを先日の舞台でも自分自身で感じたのですが、ハナム先生という役をやる時はこういう身体、というのをまさに体現しているんだな、とすごく勉強になりました。

『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』
2023年/133分/アメリカ/配給:ビターズ・エンド
『サイドウェイ』の名匠アレクサンダー・ペイン×主演:ポール・ジアマッティが再タッグを組んだ人間ドラマ。1970年代のマサチューセッツ州の名門・寄宿学校。真面目で偏屈で生徒にも同僚にも嫌われている教師ポール・ハナムは、クリスマス休暇に帰省しない生徒たちの監督を務めることに。母親が再婚相手と旅行に出て家に帰れないアンガスは、しぶしぶ居残り組になる。最終的に教師ハナム、アンガス、寄宿舎の料理長メアリーという、まるで共通点のない3人が2週間あまりを一緒に過ごすことになり……。ハナム先生にポール・ジアマッティ、メアリー役にダバイン・ジョイ・ランドルフ、アンガスには新人ドミニク・セッサ。米アカデミー賞で作品賞、脚本賞、主演男優賞、助演女優賞、編集賞にノミネートされ、ダバイン・ジョイ・ランドルフが助演女優賞を受賞した。




先日、ずっと没頭していた初舞台を終えたので、自分で自分をリセットしようと敢えてボ~ッとゲームをすることにしたんです。マリオカートのゲームをやり始めたら面白くて、人間、こんなに同じゲームを続けられるんだって驚いて(笑)。その後、ジムに行ったらトレーナーさんから「最近、緊張していた?あり得ないくらい肩がガチガチに凝っているよ」って。「あ、舞台でずっと緊張していたな」と思いましたが、よく考えるまでもなく、肩ガチガチの原因は舞台の緊張ではなく、同じ姿勢でゲームをやり続けていたことだなって反省しました(笑)。今はできるだけ、肩甲骨を上げ下げすることを生活の中で意識しています!
Text:Chizuko Orita
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