▼ WPの本文 ▼
オアシスの再結成&10月の東京ドーム公演をきっかけに、にわかに再び盛り上がっている“ブリットポップ”。リアム・ギャラガーにデーモン・アルバーン…90’s UKロックシーンに魅了された往時のファンはもちろん、今もなお若い世代のファンを獲得し、ファッションアイコンとして愛され続ける彼らの魅力やエピソードにフォーカス。フォロワーの声とともにあの熱狂の時代を検証したい。

過去には『メンズノンノ』の表紙をブリットポップのアイコンたちが飾ったことも。ブラーのデーモン・アルバーンが1997年の5月号、オアシスのリアム・ギャラガーは2000年の7月号に初登場。
ユーズドのフットボールシャツ[右]¥29,000・同[左]¥18,000/キママ 下北沢 その他/スタイリスト私物
みの×つやちゃん×妹沢奈美
BRIT POPという現象を
今、改めて考える
音楽シーンから始まり、英国、そして世界中を沸かせたブリットポップの波。世代の違う3人の音楽専門家がその歴史をひもとく。

みの
1990年生まれのYouTuber、ミュージシャン、音楽評論家。音楽カルチャーを紹介するYouTubeチャンネル「みのミュージック」を運営。この秋、新ユニットPolydreamsを結成。

つやちゃん
80年代生まれ。文筆家。音楽を中心に様々なカルチャー領域にて企画、執筆。著書に『スピード・バイブス・パンチライン』ほか。今月号のメンズノンノより音楽連載も担当。

妹沢奈美
70年代生まれ。音楽エディター。今年の7月、オアシスの再結成ライブのUKカーディフ公演に参加。メンズノンノでリアム号(00年、05年)のインタビューも担当!

ノエル&リアムのギャラガー兄弟を中心に、1991年に結成されたオアシス。労働者階級を代表する彼らの曲は大衆の心をつかんだ。
ブリットポップはどこから始まったのか
―90年代ブリットポップが今、再評価されています。世代が違う皆さんですが、初めて知ったきっかけは?
つやちゃん(以下、T) 僕は世代的にブリットポップは後追いで、初めて聴いたのは2000年代になってからでした。当初はあまりピンときていなかったので、改めてきちんと出会い直しているところです。
みの(以下、M) つやちゃんより僕は年下なのですが、近い感覚だと思います。中学校に赴任してきたイギリス人の先生がオアシスを教えてくれたのがきっかけでした。
妹沢(以下、S) 私はちょうど1993年にイギリスに留学していたので、街中にスウェードのデビューアルバムが並んでいた光景を覚えています。それまではロックになじみがなかったのですが、英国中でブリットポップという単語が行き交い、その文脈で様々なジャンルの音楽が紹介されていたんです。
―ブリットポップの定義というものはあるのでしょうか?
S イギリスでは、80年代末にマッドチェスターやシューゲイザーと呼ばれるムーブメントがありました。その後の93~95年の終わりぐらいに出てきた音楽はブリットポップとひとくくりにされることが多いですね。93年はブラーがUK回帰をテーマに掲げたセカンドアルバム『モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ』を出した年。若い音楽ファンが自分たちの世代の音楽だと感じ始めたのか、ブラーに始まり、スウェードやパルプなども一緒に脚光を浴びます。それを宝の山だと感じたメジャーレーベルがインディーズバンドたちをどんどんデビューさせ、シーンが大きくなっていきました。音楽的な定義でいうと、インディーズの若いミュージシャンが初期衝動的にギターを鳴らすポップミュージックといえます。そういう意味ではパンクの要素もあるし、あらゆるイギリスのカルチャーが詰まっているんです。

美大生だったデーモン・アルバーンが幼なじみや同級生らを誘って1990年にブラーが誕生する。中流階級の市井の人々の生活を歌い、アイロニックな視点で生み出す歌詞もイギリス的だった。
GenZの心をつかむオアシスの魅力とは
M 今、ブリットポップといって思い出すのはオアシスだと思うんですが、初めて聴いたときは先駆者のパクリを悪びれずやっているという印象を受けました。でも、令和になって聴いてみると、最初の違和感はだいぶ希釈されていて、ただただストレートにいいメロディを持ったロックなんだと聴いているところがあります。
T 確かに。僕が知った頃って、上の世代からブリットポップって、同じ時期に盛り上がったアメリカのグランジと違って、商業主義的だったりハイプ(一発屋)でちょっとダサいと言われていた。でも、ここ何年かむしろブリットポップのほうが自分に響いてるんですよね。
S なるほど。私は日本に帰ってきてから、当時音楽好きのリーディング雑誌の役割を果たしていた「ロッキング・オン」に入社し、音楽ライターになるんですが、みんなその雑誌を読んでUK情報を得ていました。95年、オアシスのセカンドアルバム『モーニング・グローリー』が出たときには、年上の音楽ファンの方たちからビートルズの焼き直しみたいだし、ほかに聴くものがあるだろうと言われたものです。私はこういう音楽もオアシスも全部好き。この時代のことは残らず覚えておこうと思っていたぐらい。だから、今の若い方々に受け入れられていることはとてもうれしいですね。お二人に聞きたいのですが、なぜ今ブリットポップが若い世代に受け入れられているのでしょうか?
T 今や音楽って、昔流行ったものをどう再利用していくかという〝リバイバル〟が普通だと思うんです。先人がやってきたことを、少し取り入れて変えていくとかリサイクルが基本。そこに違和感を感じなくなったからですかね。
M 僕のYouTubeでは音楽的な歴史をひもとくことをやっているのですが、みんなが同意できるロックの歴史といわれるエルヴィス・プレスリーがいて、ビートルズがいて、ハードロックが生まれて、というようなリニアな進化って90年代のグランジあたりで途絶えたと思うんです。その視点で見ると、ブリットポップって英国回帰の機運が高まって盛り上がったように見えたけど、すごく地域的なシーンですし、リニアな歴史の価値観の中では小さな出来事だったのかも。でも、それは音楽的な響きの価値を損なうものではないんですよね。
S 急速にシーンが消えていったので、今も語り継がれて、多くの人に聴かれているのはオアシスとブラーぐらいかもしれませんね。
T 今、オアシスが盛り上がっているのは〝この時代のこの音〟というジャンルで聴かれているというよりも、リスナーの美意識で選ばれていると思います。
S 音楽ジャンルで聴くということがなくなりましたよね。
M プレイリスト的な聴き方のほうが一般的かも。確かにブリットポップ自体は音楽的本質を語りにくいという特徴があったけど、逆にその軽やかさが今の時代に合っているのだと思います。
S ポップな求心力がすごく高いですからね。
M 僕の「みのミュージック」でも視聴者の好きなバンドのアンケートをとったときに1位はオアシスだったんです。様々な世代に見ていただいているのですが、圧倒的に人気。てらいがなくて、悪びれてない、正面からいいメロディを書くオアシスって、多くの人の心に刺さるものがあるんでしょうね。

70年代に結成し、長きにわたる下積みを経てブリットポップ期にブレイクしたのがパルプ。
感情に訴えかけてくる
時代を超越する曲
S それこそ、迷いなき当時の彼らが出した音が正解だったということ。今の若い人が聴いても、そう感じてもらえるんだから。
T 感情に訴えかけたり、ちょっと哀愁があったり〝エモい〟音楽と捉えられているかもしれませんね。あと、今の気分にオアシスがハマるのって、ファッションの側面でもありますよね。トレンドでいうと、アンブロを着たり、バケットハットをかぶったり、ブロークコアとかダッドスニーカーとか、当時のちょっといなたい感じのファッションも今の人にウケたのかも。
S オアシスのヴォーカル、リアム・ギャラガーはファッションが好きで、自身のブランド「プリティ グリーン」を手がけていましたね。
M それこそ、10年前の僕の宣材写真はそこのペイズリー柄のジャージを着てましたよ。僕自身がしっかりフォロワーですね(笑)。
S 私は長いことメンズノンノでも書かせていただいていたのですが、彼が表紙になった号で初めてリアムにインタビューさせてもらったんです。靴を褒めると上機嫌だったことも印象深いエピソードです。
―メンズノンノ読者の入門編としてブリットポップの音楽をすすめるなら、どれを選びますか?
M 僕のチャンネルでも大人気なオアシスの『モーニング・グローリー』ですね。
T アルバムを1枚選ぶとなったら僕も同じかな。でもブリットポップ自体はいろんなサウンドがあるところも面白いんですよね。
S 私はブラーの1994年のサードアルバム『パークライフ』ですね。前作でザ・キンクス的な英国性に振り切った彼らが、今度はロンドンの喧騒や生活に焦点を当てて全英1位になりました。「パークライフ」や「ガールズ&ボーイズ」など、一度聴いたら忘れられない曲ばかり。ブリットポップ期のロンドンはこんな感じだったと懐かしく思い出します。
T ブリットポップの幅を広げるなら、スウェードもおすすめしたいな。
M スーパーグラスも挙げたい! サブスクリプションサービスのブリットポップのプレイリストから聴いてみてほしいですね。

1989年に結成し、デヴィッド・ボウイやザ・スミスの影響を感じさせるスウェード。

鼎談参加者からの支持も厚かったのがスーパーグラス。英国のレトロなロックを思わせる。
初めてBRIT POPに触れるなら
この1枚!
みの&つやちゃんPICK

oasis『(WHAT’S THE STORY)MORNING GLORY?』
90年代名盤にも挙げられる本作。オアシスのセカンドアルバムは世界的な大ヒットを生み、名実ともに歴史的なロックバンドとして認められた。「Wonderwall」などを収録。
妹沢奈美PICK

blur『PARKLIFE』
英国で長く続いた保守党政権から労働党に変わる頃に発表された、ブラー史上最もポップな1枚。社会全体が明るくなるかもしれないという期待感と相まって社会現象にもなった。
Kevin Cummins・Koh Hasebe/Shinko Music・Martyn Goodacre・Paul Bergen・picture alliance/getty images
Photos:Tatsunari Kawazu Stylist:So Matsukawa Illustrations:Iori Ishida Text:Michino Ogura
▲ WPの本文 ▲