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鈴鹿央士の偏愛映画喫茶vol.41/全世界に通じる優しさ。柔らかく問いかける、近未来の家族を描いたSF『アフター・ヤン』

鈴鹿央士の偏愛映画喫茶vol.41/全世界に通じる優しさ。柔らかく問いかける、近未来の家族を描いたSF『アフター・ヤン』

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鈴鹿央士 連載 鈴鹿央士の偏愛映画喫茶 
発表

 

 この作品を観たのは『アフター・ヤン』という題名と、人種の異なる4人――白人男性、黒人女性、アジア系の青年と少女が並んだ画に興味を引かれたことが大きかったです。音楽を坂本龍一さんが手掛けていることにも驚きました。しかもタイトルにある「“ヤン”ってロボットなの?」と、興味が沸いて観始めました。
 エンドクレジットには、以前この連載で対談したアリ・アスター監督の名前があって驚いたのですが、アリ・アスター監督の作品と同じ「A24(映画製作会社)」の作品だから繋がりがあるのかな?    

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映画『アフター・ヤン』メインビジュアル

『アフター・ヤン』
現在配信中。 ⓒ2021 Future Autumn LLC. All rights reserved.

 この作品は、いまだに監督が何を描こうとしたのかなど、深いところが理解できているとは正直自分で思えないんです。でも話していくうちにきっと気づいていなかった「何か」が見つかるだろうな、と。わからないなりに「もっと知りたい」「語りたい」と思わせるものがこの映画にはあります。たぶん、観る人によって感じることも色々と違うし、色んな解釈ができる作品じゃないかな、と思います。

     

人型ロボットと一緒に暮らす
近未来の家族のストーリー

映画『アフター・ヤン』場面写真1

 舞台は、“テクノ”と呼ばれる人型ロボットが一般家庭に普及している近未来です。ロボットのヤンが、仕事で忙しい両親にかわって主にミカの面倒をみています。そんな一家の日常が割にローテンションで静かに紡がれていくと思いきや、いきなりハイテンションなシーンもあります。ジェイク、カイラ、幼いミカ、そしてヤンの4人が、いきなり激しい音楽に乗って家族で一生懸命踊る。それはオンラインで開催される「ファミリー・ダンス」というダンスバトル・ゲームに挑戦する、という設定。見ているだけでメッチャ楽しくなってしまうシーンが飛び込んできて、シュールですごく面白かったですね。4人が息を合わせてダンスする姿が、可愛らしくて。


映画『アフター・ヤン』場面写真2

 このバトル・ゲームでは、世界中の参加者の様子が描かれていて、色んな人種・色んなタイプの家族が登場して、そこに未来の姿を予感させられます。どの家族も可愛くて、多様性があって、そういうところがとても優しい世界観の映画なんです。

 とは言っても、冒頭では、お父さんのジェイクが“テクノ(人型ロボット)”や“クローン人間”を自分たち人間より価値が低い存在だとみなしている描写があります。たぶんジェイク本人は、妻は黒人だし養女もヤンもアジア系だし、決して自分は差別的な人間ではない、公平な人間だと思っていたと思うのですが、あくまでも、“テクノ”は道具というか……。

 でも娘のミカは、ヤンをお兄ちゃんだと思って本気で慕っている。なのにある日ヤンが故障してしまい、そこから家族に変化が表れていきます。

     

ヤンが“故障”したことで
両親は娘の気持ちに気づいていく

 最初はジェイクは「新品じゃないから仕方ない」と言うし、カイラも「これを機に…」みたいな感じで、けっこう冷たいんだなって僕も感じました。ミカが「絶対にヤンと離れたくない」と主張するから、一応ジェイクはヤンの修理を試みるんですが、さほど真剣さが感じられないんですよね。単に、娘をなだめるために、やってる風に見せている程度というか。

映画『アフター・ヤン』場面写真3

 ジェイクとカイラは、もちろん娘に愛情をちゃんと注いでいるんだけれど、共働きで忙しいからほぼ世話をヤンに任せてきたような状況。だからヤンに対するミカの愛情の深さを、ヤンが故障して初めて知るんです。そんなにも娘の心の支えになっていたのかと。どんな時も、常にミカのそばにいたのはヤンだったので。


 もちろん2人もヤンに感謝はしていただろうけれど、やっぱり所詮ロボットだという意識だったと思います。でも絶対にヤンじゃなきゃというミカのために修理屋を回っているうちに、ジェイクは、生身の人間以上に長く生きて来たヤンの膨大な記憶がメモリされていることを知るんです。その内容をヤン視点の映像として見ることができて、ジェイクは、ヤンが自分たち家族を大切に思い、優しい眼差しで見つめていたことに初めて気づきます。

 その時のお父さんの姿には、やっぱりグッときました。それまでは、例えばヤンの優しさにも「プログラミングされているだけ」という固定概念で考えていたけれど、ヤンのメモリを見て、ジェイクの気持ちはどんどん揺れ、迷ったりしながら、抱きかかえているヤンに対する気持ちや扱い方が大きく変わっていくんです。

    

自分たちに注がれていた視線の
温かさを教えてくれる優しい映像

 本作はSF映画にありがちな“ぶっ飛んだ”感じではなく、とても今っぽいというか普通に今の時代に通じる、むしろ懐かしさも感じるような世界観で、また映像がきれいなんです。それこそワンショット、ワンショットが写真みたい。ヤンが見て来た景色――家族だったり、別の誰かだったり、風景の時もありますが、メモリに残されるのは1日に数秒と決まっている。だからこそ残されたものは、ヤンが美しい、大切だと思ったものだと思うんです。

映画『アフター・ヤン』場面写真4
AY-5-20-19-404.RAF

 前々回『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』を紹介しましたが、その“写真を撮る”という行為と、ヤンのメモリが僕には繋がって思えました。その人が美しいと思うものを撮る、美しいと思うものを記憶・記録する、ということが。

     

心に残したい、大切な景色こそが
“幸せの正体”なのでは

 劇中、カイラがヤンに「あなたはそれで幸せなの?」と質問するシーンがあって、ヤンは「僕には“幸せ”という感情がプログラミングされてないから、どういうものなのかわからない」と答えます。“幸せ”という感情はプログラミングされてないけど、メモリには家族写真を撮る場面や、密かに見つめていた女の子の笑顔など、ヤンにとって大切だったものが記録されている。それって僕からしたら、イコール“幸せ”だとも思えました。

 ヤンとカイラは「無と存在」についても話していて、輪廻転生、繰り返し、終わりから始まる、みたいな考え方が繰り広げられます。僕はあんま追いつけなかったけど、よくは分からないのに、自分の潜在意識みたいなところに響いてくるんです。深いところに届いてきて、僕は「いいなぁ」って感じながら観ていました。

 ヤンのメモリの映像表現もすごく好きでした。宇宙みたいな広大な世界の中に、いくつか強い光を放ってるところがあって、そこへ行くとヤンが美しいと思った記憶が記録されている。まぁ、自分以外が勝手にメモリを見てしまっていいのか、という別の問題はありますが……。


      

否定しないし押しつけない
だけどうっすらと何かを問いかける

 本作はどの側面においても、とっても柔らかくうっすらと問いかけを発している、繊細な作品です。全世界に通じる優しさみたいなものを感じました。登場人物を批判的には描くことはしていないのですが、人間が身勝手であるということは描かれていて、でも、そんな人間に対しても愛情があり、ちゃんと温度を感じる映画です。

 もし僕に新たに家族や子供ができて、改めて『アフター・ヤン』を観たら多分、また見方も変わるんだろうな。今、全部わかろうとしないでも、何かは受け取れる。それでいい気がします。だってこの映画、全く否定してこないし、押しつけられてる感じが全くないから。すごく控えめで薄味だけど、出汁はかなり濃い、みたいな(笑)。すごく時間をかけて丁寧に作った和食のような味わいというか、アジアンテイストというか。その世界観が優しくて、すごく好きでした。

映画『アフター・ヤン』場面写真5

 何年かしたら、必ずまた観たい映画です。その時は僕自身の年齢だけではなく、きっと世の中もまた変わってそうですしね。その時は本当に人型ロボットが僕らの生活にもいるかもしれない。僕はこの連載で、いつかまた観たい映画をメモリとして残していってるのかもしれないな(笑)。

    

 なんか好きな表現だな、と思うシーンがたくさんありました。例えば、枝を「接ぎ木」して育てた木を「家族」と表現するところとか。インテリアの和洋折衷も、お洒落で味わい深かったし、屋外の映像もすごく綺麗。今あるこの地球の、緑や太陽の光とか雨とか水とか、本当に美しくて。

 また小津安二郎的な印象を受けたシーンはいくつかありますが、特にジェイクがカイラとリモートで話しながらラーメンを食べているシーン。対話している人が、映画を観ている人の方を向いているように思えるカメラワークとか、向かい合っている人の撮り方、撮るという意識みたいなものに、小津監督的なものを感じました。一言で言ってしまうと、奥行きのある画ということかな。建物の作りにしても奥行きを感じさせる撮り方で、例えば窓の向こうに人がいるとか。そこでの人の移動とか。そんな隅々まで楽しめる映画です。

『アフター・ヤン』(2022年/96分/アメリカ/配給:キノフィルムズ)
“テクノ”と呼ばれる人型ロボットが一般家庭に普及した近未来。茶葉の販売を営むジェイク(コリン・ファレル)と妻カイラ(ジョディ・ターナー=スミス)、幼い養女ミカ(マレア・エマ・チャンドラウィジャヤ)は慎ましくも幸せな日々を送っている。しかし一家のロボットのヤン(ジャスティン・H・ミン)が故障で動かなくなり、ヤンを兄のように慕っていたミカは激しく落ち込む。ジェイクは修理のために奔走する中で、ヤンの体内に毎日数秒の動画を撮影・記録できる装置があることを知る。ソウル出身、長編デビュー作『コロンバス』(17)が高く評価されたコゴナダによる監督・脚本作品。原作は、アレクサンダー・ワインスタインの短編小説「Saying Goodbye to Yang」。

映画『アフター・ヤン』場面写真6

先日、通販でトイレットペーパーを買ったのですが、なんと僕の家のトイレットペーパーホルダーに、芯が入らなかったんですよ(笑)! だから僕は今、トイレットペーパーを横に置いて使っているんです。それを使い切ったら、今度こそ僕の家のホルダーに合うトイレットペーパーを買おうと、いま探しているところです。

Text:Chizuko Orita

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