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東京・銀座の「シャネル・ネクサス・ホール」は、昨年にスタートさせた20周年プログラムをさらにパワーアップ、アジアのアーティストにフォーカスしたシリーズ第二弾をローンチする。
昨年は中国出身の写真家による展示を開催した。今年は6月27日(金)からインド出身のアーティスト・プシュパマラ N (Pushpamala N)の作品を展示する。
シャネル・ネクサス・ホール
Dressing Up: Pushpamala N

Phantom Lady or Kismet, 1996-1998
© Pushpamala N
プシュパマラ Nは、インドのバンガロール(現:ベンガルール)を拠点に活動するアーティスト。もともと彫刻家として開始したプシュパマラの創作活動は、写真や映画へと移行し、1990年代半ばからは、今の彼女のスタイルである“フォト・パフォーマンス”や“ステージド・フォト”の創作を開始。自らがさまざまな役柄のモデルを務め、示唆に富んだ物語を作り上げている。
制作は基本的に共同作業で行われる。友人や素人のキャスト、技術者へ監督のように指示を出し、細部まで計算されたシーンを作り上げる。ハイテクなデジタル加工とは対照的に、アナログで演劇のように構成された演出が、作品の根底にある概念的な枠組みを強調する。歴史的・文化的な背景から引き出されたイメージを再現することで、その成り立ちを浮き彫りにし、観る者に「真実とは何か」を問いかけるのだ。
今回の展示では、シネマトグラフィーをテーマにした3つの作品シリーズ「Phantom Lady or Kismet」、「Return of the Phantom Lady」、「The Navarasa Suite」を展開!
Phantom Lady or Kismet
(ファントム レディ あるいはキスメット)
1996-1998

Phantom Lady or Kismet, 1996-1998
© Pushpamala N
プシュパマラがフォト・パフォーマンスという表現手法を探求し始めた最初の作品シリーズ。24枚のモノクロ写真で構成された本シリーズは、フィルム・ノワール時代の映画的描写をパロディ化。

Phantom Lady or Kismet, 1996-1998
© Pushpamala N
1936年にニューヨークで初出版されたコミック『Phantom』や、ボリウッドのアクション映画からインスピレーションを得ていて、プシュパマラ自身が主人公の双子の女性を演じ分けている。ファントム レディが、行方不明になった双子の妹をムンバイの暗黒街から救い出そうとする様子が見事に表現されている。

Phantom Lady or Kismet, 1996-1998
© Pushpamala N
この作品シリーズでは、視覚文化、フェミニズム、表象、そしてインドの歴史といった重要なテーマに取り組んでいる。また、深層心理を描写するフィルム・ノワールの美学を取り入れつつも、1930年代から1940年代にかけて俳優やスタントパーソンとして活躍したインド女性たちへのオマージュも込めている。
Return of the Phantom Lady
(帰ってきたファントム レディ)
2012

Return of the Phantom Lady, 2012
© Pushpamala N
Phantom Lady or Kismetの続編として制作された『Return of the Phantom Lady』は、おなじみのヒロインが再登場し、現代のムンバイを舞台に殺人、陰謀、悪事の巣窟を解き明かすストーリー。ミステリー小説のカバーページのような大胆な色調が目をひく21枚のシリーズ作品だ。

Return of the Phantom Lady, 2012
© Pushpamala N
プシュパマラが再び演じるファントム レディが、歴史ある映画館や古びたカフェを巡りながら孤児の少女を救出すべく奔走。

Return of the Phantom Lady, 2012
© Pushpamala N
歴史や文化に強い関心を持つプシュパマラはこう語っている。「私のパフォーマンス作品の多くは、既存のイメージを再現してそれらの意味を再解釈することをテーマにしています」インド社会の描写についての考察を促すと同時に、再開発により失われてしまったムンバイの街並みについても静かに言及している。
The Navarasa Suite
(ナヴァラサ スイート)

≪Shringara/恋情≫The Navarasa Suite from the series Bombay Photo Studio, 2000-2003
@ Pushpamala N
『The Navarasa Suite』は、上述の2作品と異なるセルフポートレート作品。
インド美学における9つの感情である「ラサ」、すなわちSringara(恋情)、Adbhuta(驚き)、Hasya(ユーモア)、Bhayanaka(恐怖)、Bhibhatsa(嫌悪)、Karuna(悲しみ)、Raudra(怒り)、Veera(勇敢)、Shanta(寂静)をもとに演出している。

≪Bhayanaka/恐怖≫The Navarasa Suite from the series Bombay Photo Studio, 2000-2003
@ Pushpamala N
“ラサ”とは、紀元前3~1世紀に生まれたとされる理論で、写実的な描写よりも美的表現や感情が重視される中で生まれたもの。この作品では、プシュパマラの機知に富んだアプローチはもちろんのこと、彼女の鋭い社会批評性さえも浮き彫りにしている。

The Navarasa Suite from the series Bombay Photo Studio, 2000-2003
@ Pushpamala N
ちなみにこの作品群は『Bombay Photo Studio』というシリーズの一部で、1950~60年代のインド映画黄金時代に活躍した著名な俳優兼写真家のJHタッカー氏のフォトスタジオで3年かけて制作された。彼女は「リアリズムよりもファンタジーや物語性を扱ってきて、今まであまり注目されてこなかったインドの写真史を探求するために、JHタッカーの初期のバロック様式を用いた」と明かしている。
日本にいるとあまり触れる機会のないインド哲学や歴史。ぜひ足を運んで心で感じてみてほしい。
Dressing Up: Pushpamala N
会期:6月27日(金)〜8月17日(日)
開館時間:11:00〜19:00 (最終入場18:30)
入場:無料・予約不要
会場:シャネル・ネクサス・ホール
住所:東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング 4F
【プシュパマラ N(Pushpamala N)】
1956年生まれ。インドのバンガロールを拠点に多様な分野で活動するアーティスト。彫刻家として活動を開始し、1990年代半ばからさまざまな役柄に自ら扮して物語を作り上げるフォト・パフォーマンスやステージド・フォトの創作を始める。現代インド美術界で最もエンターテイ二ングなイコノクラストと評される。ニューヨーク近代美術館、テート・モダン(ロンドン)、MUCEM(マルセイユ)、Jimei x Arles国際写真祭(厦門)、第66回ベルリン国際映画祭、ヴォルフスブルク美術館などで展示。
問い合わせ先
シャネル・ネクサス・ホール事務局
MAIL:nexus.ginza@chanel.com
https://nexushall.chanel.com/
Text:Sayaka Ogawa
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