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【鈴鹿央士の偏愛映画喫茶vol.19】ずっと考えさせられる問題作!『フレンチアルプスで起きたこと』

【鈴鹿央士の偏愛映画喫茶vol.19】ずっと考えさせられる問題作!『フレンチアルプスで起きたこと』

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鈴鹿央士 連載 鈴鹿央士の偏愛映画喫茶 
発表

   

究極の場面での“選択”とは?

 この作品は、ドラマ「クロステイル~探偵教室~」のプロデューサーさんに“面白いよ”と教えてもらって観たのですが、どう話せばいいか分からないくらいの問題作です。メチャメチャ面白いけれど、難しい映画でもあって……頭をフル回転させないと語れない(笑)!! だって、『フレンチアルプスで起きたこと』ってタイトルからして、何かは起きたんだろうけれど、何が起きたのか全然わからないですよね。僕は分からないままとりあえず観て、“なんじゃコレ!?”ってなりました(笑)。人間の究極の場面で迫られる、究極の選択肢で幕を開けます。

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映画「フレンチアルプスで起きたこと」DVDパッケージ

『フレンチアルプスで起きたこと』
DVD:4,180円(税込)
発売・販売元:オデッサ・エンタテインメント


スキーリゾートでの4人家族の5日間

 バカンスを過ごす家族に「起きたこと」とは――。スウェーデン人の4人家族、父親のトマス、母親のエバ、可愛い娘と幼い弟が、ランチを食べているときに目の前で巨大な雪崩が発生し、父トマスが一瞬、妻と子供を置いて逃げてしまいます。雪崩は手前で止まって大ごとにはならないのですが、このことがきっかけで、夫婦のすれ違いが露わになって行きます。夫婦の物語なんだけど、それだけでなく、どんどん大きく男女の話に広がっていくような感じです。

映画「フレンチアルプスで起きたこと」雪崩のシーン

 冒頭からアコーディオンの音色や緊迫感のあるクラシック音楽とか、故意に雪崩を起こす(ことで大規模な雪崩を防ぐ)“バーン”という色んな音が不気味過ぎて、メチャクチャ不穏な空気が満ちていて、本当に最初に観た時は、“これってホラーなのかな!?”って思っちゃったくらいでした(笑)。


危機に瀕した瞬間のとっさの“選択”

 雪崩が来て、トマスはとっさに逃げるんですが、そのあと「自分は逃げていない」と主張します。夫婦での話し合いは曖昧に終わるんだけど、友人夫婦とディナーを食べているときに、エバが雪崩でトマスが一人で逃げたことを話し始めるんです。「おかしいのよ」って笑いに紛れさせながら。僕、あのシーンが観ていて最も嫌でした。エバから指摘されたトマスが、「スキーブーツを履いて走れないよ」とか言い訳しちゃったりしたのが、またキツイ(笑)。

映画「フレンチアルプスで起きたこと」エバとトマス

 僕は、夫婦のどちらかに感情移入したわけではなく、どちらかというと幼い息子の方に気持ちが入って、“お父さん、お母さん、離れないで~”みたいに観ていました(笑)。

今、気がついた“男の視点”

 でも、トマスが“逃げてない”って言いたい気持ちは、すごく分かる! だからエバに“そんなに責めないでよ~”って思っちゃった(笑)。あ、それが男の視点なのかもしれないですね。つまり僕は、夫側に感情移入して観ていたのかもしれない……。そのことに今、気づきました。エバは夫に1対1で直接言うのではなく、必ず誰かが一緒にいるときにトマスが逃げたことを話すんですよ。トマスはもうそれが辛くて、すごい真顔になっちゃって。その表情を観て、“人前でそんな話をされたら辛いの、分かる~”って(笑)。

映画「フレンチアルプスで起きたこと」歯を磨く家族4人

 その気まずくて“不穏な感じ”が、一緒にいる人たちにも伝染しちゃうんですよ。例えばトマスの友人のカップルも、一緒に居たときはトマスをずっとかばっていたのに、部屋を出たら女性が“あなたも逃げるんじゃない!?”って言い出して、エレベーターでメッチャ喧嘩になっちゃって(笑)。その後のベッドの上のシーンでもずっとそのケンカが続いていてちょっと笑えました。

 今の時代、男だ女だと分けて語るのはちょっと違うかもしれないけれど、本作においては、男の男たるところや、女性というもの、また女性でも色んな考えの人が出て来て、その描かれ方がすごく面白いんです。若い女性と浮気旅行に来ているトマスの友人とか、家族を置いて一人でスキー旅行に来ていて色んな男性と関係を持って楽しんでいるイタリア人女性がいたり……。人間の本能や面白さが、ギュっと詰まっているんです。

緻密に計算された表現の意味がすごい

 場面転換が激しくあるわけではなくて、画変わりもあまりなく、ある種、とても淡々と流れていくように描かれていきます。だから、いろんな描写やセリフを考えながら観ていないと、スーッと流れていってしまうかもしれない。真っ暗な画面がちょっと続いたり。でも各シーン、それぞれの画に色んな意味や情報が詰まっていて、僕も2度目、3度目に観て、ようやく気づいたことが色々ありましたよ!

 例えば序盤の1シーン。スウェーデンの文化なのか、またはIKEA商品なのかもしれないけど(笑)、真っ青のパジャマで4人が並んで寝ているんです。携帯に電話がかかってきているんだけど出ないで寝ているトマス。エバが起きて別の部屋に行った時、一瞬携帯電話を取って見ます。でも妻に「携帯確認した?」と聞かれると、“別に見てない”って答えるんですよね。エバが部屋に戻ってくると電話を置くトマスの仕草から、浮気相手と連絡をとっていたのかな、と思いました。別にそんな仕草、スルーして観ても問題ないのですが、すっごい小さい一つ一つに、色んな情報が確実に入っているんですよ。“なんか人間ってそういう時、そんな風に(態度や言動に)出ちゃうんだな”と的確に映されている感じがあって、やっぱりスゴイと思いました。

映画「フレンチアルプスで起きたこと」青いパジャマで眠る家族4人

 また冒頭、カメラマンに強引に勧められて4人の記念写真を撮るんですが、最初は4人とも単にぶっ立っているだけで、カメラマンにポーズを色々指示されてやっと“仲のいい理想の家族”みたいな写真になるんですよ。本当にメッチャ仲が良くて愛情深い家族だったら、最初から楽しくて仲が良さそうな雰囲気が出るんだろうけれど、第3者に言われてソレっぽくなる。“冒頭からこんな風に描かれていたのか!!”って、何度目かで気づきました。最初に観た時は見落としていたけれど、何度か観るうちに自分なりの解釈で色々と捉えることが出来るシーンがたくさん出てくる、そんな映画です。

映画「フレンチアルプスで起きたこと」スキー場で家族写真を撮影する4人

 構成も、休暇の5日間での“家族の姿とコトの変遷”が語られていくという、めちゃめちゃバランスがいいんです。1日目から、いろんなことが上手く説明されていて。そして2日目、いよいよ雪崩が発生します。どうやって撮ったのかな、CGかな!?と考えてしまうくらい、雪崩の迫力もスゴかったですね。

単純じゃない“人と人”の在り方

 本作はもちろん“奥さんと子供を見捨てて逃げたお父さん”が軸になっているけれど、夫婦やカップルの在り方について、問題提起がバンバンされている感じがずっとありました。見ていて居心地の悪さはありますが、それぞれ人間の根本にあるものを形にされ、“確かに、確かに”と否定し切れないところを突き詰められてしまう感覚があります。立場や考え方がみんな違っていて、各人それぞれダメな部分、いかれてる部分がちょっとずつ出ていて面白いんです。こんな作品を撮る監督って、すごい才能だけれど、めちゃめちゃ変態なんでしょうね(笑)。見てる視点などが、本当に緻密に積み上げられているのを感じました。

 ラストは明かせないですが、すべてに意味がありそうで、ずっと色んな解釈を考えてしまいました。例えば、娘に抱っこをせがまれたエバが、誰にそれを頼むのか、とか。一つ一つの言動にメッセージ性を感じてしまい、僕の中では、そのまま「なに?なに?なに?」っていうので終わってます。自分が結婚しているかどうかでも見方が変わるかもしれません。

 カップルで一緒に観るのは、あまりお勧めできないかな。最悪、喧嘩になるかもしれないし(笑)。僕も「あなたなら、どうする!?」とか聞かれたくないですもん(笑)。あまり軽々しくは勧められないけれど、少なくとも僕は、この作品を観たお陰で、人生が少し豊かになった気がします。こんなに考えさせられる作品もあまりないので、勧めていただいて感謝しています!

   

鈴鹿央士 映画 個人的なツボ

 トマスとエバ夫婦の部屋で、浮気中の友人のカップルが一緒に話しているシーンの一連のシチュエーションや演出が、すごく面白くて。4人が話している最中に子供の悪戯でドローンが飛んで来て、ぶつかって何かを倒してしまうんです。そこでトマスとエバが席を立って、画面には友人と浮気相手の若い女性が残される。その時、トマスとエバがいたら話せないようなことを、2人が普通に喋っているんですよ。僕、ああいう会話が好きで。「もっと強く言った方がいいんじゃない?」「うん、頑張る」みたいな感じ(笑)。トマスらが席に戻ってきて、また立って出て行って。人が画面に入ったり出たりしながら、残された2人のリアルな会話を長回しで見せる、すごいシーンだなと思いました。座る位置も含めて、撮り方がとても面白い。そこからエレベーターの前に至るシーンまで、すごい計算して撮っているな、と思いました。

映画「フレンチアルプスで起きたこと」場面写真

(『フレンチアルプスで起きたこと』(2014/スウェーデン、デンマーク、フランス、ノルウェー)
2014年、第67回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門・審査員賞受賞作。ハンサムなビジネスマンのトマスは、美しい妻エバと幼い娘と息子を連れて、スウェーデンからフレンチアルプスのスキー場にやってくる。しかしランチの途中、目の前で雪崩が発生。その瞬間、トマスはとっさに携帯電話を掴んで一人で逃げてしまう。“理想的な父親像”は崩れ去り、妻と子どもに不信を買ってしまう、5日間にわたる冬の休暇の顛末を描いたブラック・コメディ。1974年生まれの監督リューベン・オストルンドは、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(2017)及び、『逆転のトライアングル』(2022/今年の2月23日より全国ロードショー)でカンヌ国際映画祭・パルムドール(最高賞)を受賞。


3月に映画『ロストケア』が公開されるので、その宣伝期間です。
そして、ドラマ
『君に届け』もNetflixで全世界配信されるのでお楽しみに〜。
いい音楽と出会えたり、最近はよい日々を過ごしています。

Text:Chizuko Orita

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