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【連載】カツセマサヒコ「トーキョーカンバーセーションズ」第11回/その遅刻理由は言っちゃいけない

【連載】カツセマサヒコ「トーキョーカンバーセーションズ」第11回/その遅刻理由は言っちゃいけない

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今日もどこかで、だれかが喋ってる。小説家カツセマサヒコさんの1話完結、オール会話劇!<メンズノンノ2023年1・2月合併号掲載>

 

「もう入社して半年なわけじゃん」

「はい」

「さすがにまずいって、わかるよね?」

「はい」

「はい、ってさあ」

「すみません」

「まあ、わたしだって寝坊とかしたことあるし、人のこと言えないんだけどさ?」

「はい」

「でも教育係やってる以上、立場があるから言わなきゃいけないの」

「はい」

「わかる?」

「わかります」

「なんでこんなに寝坊すんの?」

「すみません」

「もうさ、始業に間に合わないレベルの寝坊とか、普通は年に一回、あるかないかじゃない?」

「はい」

「下手したら、三年に一回あるかないかだと思うのよ」

「はい」

「実際わたしも、四年目だけど、記憶の限りでは一回だけだしね」

「はい」

「でも、もう半年で、三回じゃん?」

「はい」

「多いよね?」

「多いす」

「なんで?」

「……」

「体調不良とかではないって、課長は言ってたけど」

「はい」

「本当?」

「本当です」

「たまにあるじゃん。体調不良ではないんだけど、体質的に朝は起きられないとかさ。電車に乗れない人がいる、みたいなやつ」

「あ、いや、そういうのではないです」

「そっか。まあ元気に出社してるもんね」

「そうです。元気です」

「じゃあなんで、三回も?」

「いやー……」

「え、理由があるのかないのかだけ、教えて?」

「え?」

「三回の寝坊、どれもなんらかの理由があるのか。それとも何もなく、不注意で寝坊してるのか」

「ああー」

「どう?」

「理由は、あるっちゃあります」

「だよね」

「はい」

「飲み過ぎたとか?」

「いや、お酒は、確かに前夜は大体飲んでるんですけど」

「それで寝坊したんじゃないの?」

「いや、あんまり直接関係ないっていうか、ほぼ毎日飲んでますし、僕そんなに酔わないので。強いので」

「じゃあなんで?」

「あー」

「そんなに言いづらいことなの?」

「いや、言いづらいっていうか、まあ、はい」

「なんでよ。誰にも言わないから教えてよ」

「いや、先輩にもちょっと、申し訳ないっていうか」

「ええ? わたし関係あんの?」

「いや、全然ないんですけど」

「じゃあいいじゃん」

「いやー、でも」

「え、逆にどんな理由だと、そんなに言いづらいわけ」

「いやー」

「言ってみ。誰にも言わないから」

「ほんとですか」

「うん」

「幻滅しないでもらえますか」

「それは内容による」

「ですよね」

「え、そんな引くような内容なの?」

「たぶん」

「なんで?」

「ちょっと、下ネタなんで」

「え、キモ」

「まだ言ってないです。でも、セクハラにならないか怖いす」

「えーやだ。怖い。え? 犯罪とかしてないよね?」

「してない、してないです。彼女です」

「あ、彼女のことなの?」

「はい」

「なんだよ。じゃあ全然じゃん。で、何?」

「いや、その」

「もういいよそこまで言ったら。言いなよ」

「じゃあ、言いますけど」

「はい」

「まず、寝てはいないんです」

「どゆこと?」

「いや、その、眠ってはいないので、寝坊もしてなくて」

「え、寝坊はしてないけど、寝坊って言って遅刻してるってこと?」

「はい、そうです」

「ますますわかんないんだけど。じゃあ、何してんの?」

「いや、その」

「はい」

「盛り上がっちゃうんですね」

「何が」

「夜が、というか」

「はあ?」

「だから、夜が盛り上がってしまって、気付けば朝で、てゆうか、出社しなきゃいけない時間が迫っていて」

「はい」

「それでも止められないというか、止まってくれないというか」

「はあ」

「それで、どうしようもなく、バタバタして」

「え。じゃあ、起きられなかった、とかではなくて、その、そういうことをしていたせいで、出社時間に間に合わなかった、てこと?」

「はい」

「三回とも?」

「三回ともっす」

「……」

「あ、引いてます?」

「結構引いてる」

「ですよね」

「ですよね、じゃないでしょ」

「すみません」

「いや、ええー?」

「すみません」

「しょうもなさすぎて」

「ですよね」

語彙力ごいりょくなくなってる」

「本当にごめんなさい」

「それは、ちょっと、あれだね」

「はい」

「めちゃくちゃ反省した方がいいと思う」

「あっ、ですよね、はは」

「笑うとこじゃないから」

「すみません」

「え、てかさ、今どきそんな燃え上がる恋とか、あるの?」

「いや、本当にびっくりなんですけど」

「彼女どういう人なの」

「いや、それは普通に、向こうも会社員なんですけど」

「付き合いたて?」

「そうっすね。四月から付き合って、すぐに同棲どうせいして」

「え、待って? 付き合ってすぐ同棲したの?」

「はい。僕、すぐ同棲しちゃうんで」

「すぐ同棲しちゃうんで。じゃないでしょ。何それ」

「いや、一緒にいる時間は、長い方が充実するじゃないですか」

「でも付き合ってすぐは怖すぎるでしょ、どのくらいで同棲始めたの?」

「え、付き合おうってなって、じゃあうちで暮らそうって」

「はや! 倍速視聴じゃん。相手のこと何も知らないんでしょ?」

「そのぶん、すごいスピードで知っていけるから」

「そうかもだけどさ。いやー、新時代。未来人だよ、君」

「ありがとうございます」

「褒めてないんだって」

「すみません」

「え、それで、同棲始めて半年で、すごい盛り上がるから朝まで続いたり、出社時刻過ぎても盛り上がってたりしてるってこと?」

「シャワー浴びてたら、遅刻、みたいな」

「シンプルにクズだな」

「あはははは」

「笑うとこじゃないから」

「すみません」

「てか、よく体力持つよね? 仕事にならなくない?」

「あ、僕、大学ずっと部活やってたんで」

「ああ、そういえば言ってたね。何部だっけ?」

「吹奏楽です」

「体力関係ないじゃん。肺活量だけだわそれ」

「しかも、パートはパーカッション」

「なおさら関係ないじゃん。なんでドヤ顔で言ったのよそれ」

「すみません」

「いやー、とりあえず、上には言えないし、黙っとくけど、もうその理由で遅刻は絶対やめて?」

「はい、すみません」

「絶対だよ? 結構不快だからね?」

「はい、気をつけます。すみませんでした」

カツセマサヒコ


映画化もされた『明け方の若者たち』での衝撃的なデビューから、2作目『夜行秘密』と人気作を生み出す小説家。ぐさりと刺さる人間模様やリアルな感情の描写に若者から熱い支持を集めている。執筆のほか、ラジオ『NIGHT DIVER』(TOKYO FM・毎週木曜28時~)など、多方面で活躍中。
インスタグラムは@katsuse_m

※この会話はフィクションです。

撮影/伊達直人

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