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服好きたちの私物のなかでも、とくに思い入れの強い「人生のベストバイ」を教えてもらう連載。ひとつには絞りきれないって? なら、3つ教えてください!
人生のベストバイ、3つ教えて!

今回の服好きゲストは、クラン アイウエアのオーナー・前田大揮さん。
1.〈Cristaseya〉のウールコート

「クラン アイウエアをはじめる前、一時期、にしのやというアパレルPR会社で働いていました。その頃、あるファッション業界の先輩が着ていて、すごく素敵だったのがこのコート。一昨年の冬に生地違いで発売されて、購入しました」

「いわゆるメルトン生地のロングコートですが、特徴的なのが襟のつくり。ストールが一体になったようなデザインで、そのまま垂らして着てもいいし、マフラーみたいに巻くこともできる」


「ライトなメルトン生地なので、着心地は軽やか、でも2枚の生地が貼り合わせてあるのでちゃんと暖かい。貼り合わせた生地は毛抜き処理されていて、だから肩のラインなんかもすごく綺麗に落ちてくれます。クリスタセヤらしい、上品さがあります」

「中古の軽自動車が買えるくらいの値段なのですが、誤解をおそれずに言うと、高くなかったら買ってなかったかもしれません。知名度とかを抜きにして、本当にこのコートをいいと思って、それだけの対価を払える。そういう買い物に、ロマンを感じるんです」

2.〈Charvet〉のドレスシャツ

「大学1年の頃に友達の影響で古着に興味を持つように。それまでまったく服に関心がなかったのが、むさぼるようにいろんな洋服を着たり、ファッション雑誌を読んだりするようになりました。『レオン』『サファリ』を読んでいた時期もあれば、『メンズ ファッジ』を経て、デザイナーズブランドにハマっていた頃も。興味が湧くと、ガッとのめり込む性格かもしれません」

「そうして垣根なく着てきましたが、ここから先、いまのスタイルはもう変わらない気もしています。トラディショナルなものが好きで、タイムレスなアイテムが手元に多く残っています」

「シャルべのシャツがそのひとつ。僕は年中ほとんどをシャツを着て過ごすのですが、あるとき『世界でいちばんのシャツがある』と聞いて、買ってみたのがきっかけ。そこからずっぽりハマりました。シャツといえばシャルべになって、いま、30枚くらい持っています」

「なにも引かなくていいし、なにも足さなくていい。だから、洋服のコーディネートを考えるときの振り幅がすごく大きい。そして、なぜか高揚感がある。そんなところが魅力です」

「ドレスシャツはタイトに着るのが基本と考えると、シャルべのシャツは、背中にタックが入っているわけでもないし、ボックスシルエットで後ろ見頃も長くないから、動きにくいはずなんです。でも、ぜんぜんそんなことなくて、それもすごく不思議」

「FOLLの平沢幹太が友達で、たぶん彼に聞けば、きちんと全部言語化してくれると思うんです。でも、あえて聞かないようにしています。紐解かない。これだけは、“ロマン”で片付けちゃっていいんじゃないかと思って」
3.〈Cartier〉の腕時計

「『サントス-デュモン』という、カルティエの『サントス』シリーズのドレスウォッチ。エクストラフラットと言って、ムーブメントがものすごく薄くて、そのぶん厚みのないデザインです」

「にしのや代表の西野(大士)さんが時計好きで、その影響を受けましたね。西野さんはパテックフィリップをずっと着けていて、僕もいつか絶対パテックフィリップを買おうと思っているのですが、そうなったとき、それと棲み分けて長く着けられる時計って何だろうと、導き出したのがこれでした」

「眼鏡も時計も、大きく括るとファッション小物ですが、矯正器具であり生活必需品の眼鏡と比べると、時計は、“生活の視点”を持ち上げてくれる存在だと思っています」

「いい時計を古着と合わせてバランスをとる、みたいなファッションの足し引きの観点もあると思いますが、僕は反対に、いい時計を着けるなら、それなりの格好をしたいし、それなりの行動を取りたいと思う」

「極端な話をすると、パテックフィリップを着けて仕事終わりにコンビニでワン缶はしたくないというか。いい時計を着けていると、日常のいろんなことへの気遣いが増えます。そうして、ちょっと大人に引き上げてくれる気がするんです」
Photos: Shintaro Yoshimatsu Composition&Text: Masahiro Kosaka[CORNELL]
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