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40年以上、表現者に愛される東京・梅ヶ丘の一軒の仕立て屋。音楽家から芸人、親子三代まで通い続ける理由がここにある。
学ランのカスタムから始まった
「着たいスーツ」を形にする哲学

小田急線・梅ヶ丘駅から徒歩3分の場所にある「洋服の並木」。「いつもシック」のレトロな看板とユニオンジャックを掲げ、町にひっそりと佇んでいる。この店こそ、ミッシェル・ガン・エレファント、東京スカパラダイスオーケストラ、氣志團、さらにはサンドウィッチマン、ナイツ、U字工事など、数多くのミュージシャンやお笑い芸人のスーツを仕立ててきた聖地だ。40年にわたり、表現者たちの「着たい」という想いを形にし続けてきた、確かな哲学がここにはある。

並木を語るうえで欠かせないのが、音楽シーンとの深い結びつきだ。なかでもミッシェル・ガン・エレファントのスーツ、通称“TMGEEスーツ”は伝説として語り継がれている。二代目の並木田さんは「形はモッズスーツっぽいんですけど、厳密にはモッズではないんです」と話す。「洋服の並木」が得意とするモッズスーツは、細身の3つボタン、短めの着丈、サイドベンツが特徴。1960年代のイギリス由来で、ベスパに乗るモッズの若者たちが、排ガスで汚れにくく、座りやすいよう進化させたスタイルだ。一方、TMGEスーツは着丈がやや長く、パンツもストレート寄り。「本人たちが細身だったことに加え、ステージでよく動く必要があった。だから足が上げやすいシルエットになっていて、モッズスーツとは微妙に違うんです」。象徴的な逸話が、ギタリスト・アベフトシの股下の長さだ。「約92㎝でしょうか。ブーツのヒールまで含めると、ほぼ1m。日本人ではかなり稀ですね」

1990年代以降、TMGEスーツに憧れて並木を訪れる若者は後を絶たない。「今年の結成30周年をきっかけにミュージックビデオが昨年から4Kで公開され、それを観てハマった10代が増えました。(ヴォーカルのチバユウスケ率いる)ザ・バースディやロッソを通らず、TMGEから突然好きになる子も多い」と話す。さらに興味深いのが親子での来店だ。「今、40代半ばはミッシェル直撃世代。『自分は着られなかったから、子どもに託したい』という方も。親子、ときには孫を含めた三世代で来ることもあります」

「洋服の並木」は、実は学ランから始まっている。「創業当初は学ランのオーダーが中心。短ランや長ラン、刺しゅうを入れたり、派手な裏地をつけたり。学生の“欲しい”を形にする土壌があったんです」。やんちゃな若者のおしゃれを受け止めてきた店は、今も変わらず、モッズスーツで若者の夢を形にしている。ブラックスーツは5万円前後からオーダー可能。物価高騰の中でも価格を抑えているのは、「若い人がギリギリ手を伸ばせる範囲で、できるだけ思いを実現してあげたい」という先代の考えがあるからだ。その遺志は、二代目へと受け継がれている。実際、お笑い芸人やミュージシャンからの特殊なオーダーも絶えない。他店で断られたリクエストを「ここが最後だ」と持ち込まれ、「じゃあ、やるか」と引き受けてきた。その姿勢には、表現者を支える“最後の砦”としての自負がにじむ。

最後に、初めてブラックスーツを仕立てる若者へのアドバイスを聞いた。「車やバイクのように、一度買ったら簡単に替えられないものに比べれば、スーツは安くはないが長く使える。好みの1着を持っていて損はありません」。オーダーならではの楽しみもある。「全部じゃなくていい。シンプルな形でも、裏地やボタンで少し遊ぶだけで全然違う。せっかくなら、恐れずに自分の意思を持ってオーダーしてほしいですね」。自分の「こうしたい」を忍ばせる。それだけで、スーツは特別な1着になる。

洋服の並木
世田谷区松原6の4の5 梅丘アイワマンション105 TEL:03-3325-9494
営業時間:10時~19時 水曜休
Instagram:@tailor_namiki
Text:Mami Osugi[W]
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