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おしゃれプロが推しの古着屋を紹介する連載。今回はメンズノンノのスタイリングでも活躍する清川祐巳子さんが、モデルの高橋璃央を連れて学芸大学の少し変わった古着屋へ。不条理小説でおなじみの作家カフカの影響が、そこここに!?
学芸大学
PICK UPPLE(ピックアップル)
今回のお店を訪ねたのは…
【どんな店?】
ジャンルレスでときにカルチャーが薫る
例外的なデザイン要素を持つ古着を厳選

2024年7月に学芸大学にオープンした「ピックアップル」。ここはスタイリスト清川祐巳子さんの、文化服装学院時代の同級生ふたりが立ち上げた気鋭の古着店だ。学芸大学駅の東口から徒歩5分と好立地でありながら、商店街からは少しそれた静かな住宅街にある。ガラス張りの半地下に位置し、ウィンドウには「PICK UPPLE」の文字が。

店内に入ると光がほどよく入る落ち着いた空間が広がる。絨毯が敷かれた床や洗練された家具、照明など、どこか応接間のような雰囲気。店の奥には、『変身』などの不条理小説で知られるフランツ・カフカの肖像が飾られている。

オーナーの榊原大翼さんは、文化服装学院を卒業した1年後に自身のブランドを立ち上げたが、卸先の確保が難しいという現実に直面。そこで「自分の店を持つことで売る場所をつくろう」と考えた。古着とオリジナルのブランドの2つの軸を持てば運営が成り立つのではと、いったんブランドを休止。手本になりそうな、古着とオリジナルのブランドを扱う都内のショップで働き、出店の資金を貯めた。学生時代から仲のよかった小畑和弘さんに声をかけて、ふたりで「ピックアップル」をオープン。
古着店勤務の経歴がある小畑さんがバイイングを担当する。買い付けはヨーロッパとタイがメイン。年に2~3回、現地に赴き、ヨーロッパとアメリカの古着をハンドピックする。店のコンセプトとして「例外的なデザイン要素を持つ古着を厳選して扱う」と掲げるが、ふたりが感じる「着たときにカッコいい」「ほかの服と合わせやすい」ということも意識している。

店をつくるにあたり、榊原さんは敬愛するカフカの小説『審判』の主人公が銀行員という設定をインテリアのヒントにした。「銀行の応接室」ときいたときに浮かぶイメージから発想して、床には絨毯を敷き、レジ台のかわりに銀行員が使うようなデスクを設置。

ディスプレイも含めて店内のあちこちに榊原さんの趣向が反映されている。推薦してくれた清川さんが「カルチャーを感じる古着が多い」と説明してくれた通り、音楽や映画、社会背景やコアなファッションと紐づいた、魅力的な古着が並ぶ。

「あえて有名ブランドをほぼ扱わない」、そしてトレンドやジャンルに縛られない、ある意味「行き当たりばったり」なセレクトは、予想不能で「何があるかわからない」ところが吸引力に。とはいえ、誰もが好きなTシャツやキャップなどは、センスを感じるラインナップ。ディスプレイもそのときどきで変わるそうだが、取材に訪れた8月下旬は入口側に落ち着いた色みの古着、店の中央にカラフルな古着と分かれていた。

ディスプレイに使用されているラックは、すべてオーダーメイドで製作されたもの。両端には、「ピックアップル」の頭文字「P」と、遊戯王カードの「死者蘇生」のマークを融合させたオリジナルの装飾が施されている。そこには、「古着屋は洋服を復活させる場」という榊原さんの想いが込められている。

モーテルのキーホルダーをモチーフにした下げタグもオリジナルだ。店名「PICK UPPLE」、RECEPTION ROOM(応接室)、店の住所でもある「B102」の文字に、カフカが描いた絵を添えた、こだわり抜いたデザイン。
ここまでムードづくりにこだわるのは、「お店に来てくれた方に、自分で選ぶということを楽しんでほしい」(榊原)から。そこがファッションの醍醐味でもあるというメッセージなのだ。

店の奥には、今年6月にローンチしたリメイクブランド「PICK UPPLE REAL WORLD(ピックアップル リアルワールド)」のコーナーが。榊原さんがデザインを手がけたファーストコレクション「F.K. Series」では、カフカにまつわるモチーフがハンドシルクスクリーンプリントで施されている。プリントの配置はもちろん、選び抜かれた古着そのものにも美意識が宿り、リメイクとは思えないクオリティだ。
【スタッフはどんな人?】
強烈な個性が私服にもにじみ出る
文化服装学院出身の同級生コンビ
オーナーの榊原さんは山口県出身。ナンバーナインなどに触発されてファッションに目覚め文化服装学院へ進学。バイヤーの小畑さんは静岡県出身。青春をサッカーに捧げ大学に進学するが、ファッションへの想いから文化服装学院へ。ファッションへの道筋は違うが、学生時代に親交を深めた。

モードやトラッドをベースに、ストリートなスパイスをきかせる榊原さんは、国内外の小説や洋楽にも精通した文学青年のような雰囲気。ラッパーのスタイルやヒップホップが自身のベースという小畑さんは、ルックスも含めて“肉体派”といった印象だ。キャラクターは異なるものの、古着に対する姿勢は共通しており、榊原さんはときにデザイナーとしての視点も交えながら丁寧に解説してくれる。
学芸大学 PICK UPPLE
(ピックアップル)の
おすすめ古着5選
「古着の魅力は時間軸にもジャンルにも制限がないところ」と語る榊原さん。主力は90’sのヨーロッパ&アメリカ古着だが「できるだけ幅広く」ピックアップしているそうだ。有名ブランドも「例外的なデザイン要素」があればもちろんセレクトする。「ピックアップル」独特の視点がわかるおすすめ5選はこちら。
1_キャサリン ハムネット デニムの
メッシュシャツ

1980~90年代に一世を風靡した英国デザイナー、キャサリン ハムネットのデニムラインのシャツ。「キャサリン ハムネットは今も存続していますが、『キャサリン ハムネット デニム』がいつからいつまであったのかは、調べてもわかりませんでした。ロングポイントでメッシュという意外性のある組み合わせはもちろん、この素材をここまできれいに縫製するのは至難の技。クオリティも高い一着です」(榊原)。
2_カスタムされた偉人Tシャツ

古着市場でひとつのジャンルとして確立され、近年価格が高騰する偉人モチーフのTシャツ。「偉人Tシャツの中でもクラシックの音楽家は人気が高く、筆頭はこのベートーベン。いろいろなタッチがありますが、このグラフィックは完成度も高いと思います」(榊原)。

買い付けた一番の理由は耳元のピアス。「持ち主が自分でカスタムしたのだと思います。こういうものが見つかるのも古着の醍醐味」(榊原)。Tシャツをクチュール的にアレンジした傑作だ。
3_タータンチェック5ポケットパンツ

イギリスの買い付けで見つけたデッドストックのタータンチェックパンツ。「これはウール×ポリエステル素材で5ポケットというのがポイントです。ウール系のタータンチェックだと普通はスラックス、あるいはボンデージパンツのような古着が多いので、これは希少。はきやすいし、カジュアルに合わせやすいと思います」(榊原)
4_プーマの
ヴィンテージジャージ

右胸に日本の自動車メーカー、スズキのロゴが入ったプーマのジャージ。「70年代のフランス製のプーマのジャージで、スズキとのダブルネームです。日本のスズキとのダブルネームという古着は見たことがないので、迷わず買い付けました」(小畑)。

襟元には、ヴィンテージのプーマの特徴でもある「目付きタグ」が。左袖の2本ラインやポップなPの上を飛ぶプーマキャットのデザインも秀逸だ。
5_ピックアップル リアルワールドの
シャツ

榊原さんがデザインを考え、自らシルクスクリーンでプリントを入れて古着をリメイクしたオリジナルブランド「ピックアップル リアルワールド」の一点。「フランツ・カフカの肖像を軸に、カフカ直筆のイラストや、カフカの小説の技法でもある“FREE INDIRECT SPEECH(自由間接話法)”といった言葉など、いくつかのモチーフをミックスしています」(榊原)

背面にも小説『審判』に登場する「掟の門」や、カフカがチェコ語でカラスを意味することからカラスのモチーフも散見する。コンセプチュアルでありながら、パッと見て「カッコいい」と思える。その手腕はさすが。
次回はスタイリスト清川さん
高橋璃央が気になったアイテムや
コーディネートを紹介!
SHOP DATA
住所:東京都目黒区鷹番2丁目18-3学芸大スカイマンションB102
営業時間:14:00~21:00
定休日:水曜
Instagram:https://www.instagram.com/pickupple

Photos:Kaho Yanagi
Composition & Text : Hisami Kotakemori
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