樅山 敦の歌謡曲が流れるBARBER

12枚目

松任谷由実
『恋人がサンタクロース』

 1987年公開の映画『私をスキーに連れてって』は主演の原田知世さんが主題歌、挿入歌を歌うはずが、誰かの「ユーミン(松任谷由実さん)がいいと思う」という鶴の一声で急展開。80年にリリースされたアルバム『サーフ&スノー』収録の数曲が大抜擢された。このアルバムは12月に発売され、キャッチフレーズは“ときめくホリディを!”。10月からコンサートツアーも行われていて、神奈川の逗子や新潟の苗場でリゾートコンサートもやって、要するにユーミンを聴きながら休みの日はパーっと遊んで、さぁ盛り上がって行こうというムード。そんなお気楽な雰囲気だったときに、衝撃的な事件が起きてしまった。ジョン・レノンが射殺されたんだ。
 
 しばらくの間はその話題一色で、申し訳ないけれど僕の周りではユーミンを忘れかけ、悲しいムードが広がっていた。でもその7年後に件の映画が大ヒットして、挿入歌だった『恋人がサンタクロース』がリバイバルヒット! 時代のタイミングってあるんだね。それまでは家族や宗教的イベントだったクリスマスが、あの有名すぎるサビの歌詞でもって恋人と過ごすものという風潮になった。クリスマスが、若者や恋人にとっての一大イベントへとチェンジしたきっかけになった楽曲なんだ。この頃から、クリスマスイヴのシティホテルはカップルで一杯になり予約が取れない状態が続いた。確かにこの時期の僕は憂鬱だったことを思い出すね、彼女に「予約取って」とか、プレゼントがどうのこうの言われていた…。そうか、憂鬱の根源はユーミンだったのか!
 
 でも素晴らしいよ、あそこまで女性の心を動かすクリスマスソングは他になかったんだから。しかも、80年の楽曲が巡り巡ってという。お見事としか言いようがないね。この時代を例えるならば、アーティストと作詞作曲家は試行錯誤しながら素手でトンネルを掘っているような、いわば“可愛げ”のある時代。なのにユーミンは、特殊免許を2つ3つは所有している職人が掘削機を導入してガンガン掘っているような、とても可愛げのない感じ(笑)。スタンダードナンバーしかなかったころに、シャッフルが効いてノリノリなロックチューンのクリスマス歌謡曲なんて考えつかないよ。ノドチンコが揺れていないような特殊な声帯も女性好みだったらしく、ヴィブラートがかからないから歌いやすいんだろうね、カラオケでモノマネして熱唱してたっけな。彼女の歌唱スタイルを盤石なものにした曲という側面もあるね。
 
 87年は、女性に男たちが振り回された時代、お姉さま方が元気にユーミンを歌っている時代は景気がいいってことかもしれない。それにひきかえ、今は景気が良いのか悪いのかさえ分からなくなってきた謎の経済大国・日本。第二のユーミンが現れないかなぁ。
 
 80’s歌謡曲コラムは今回が最終回。クリスマスプレイリストを作ってみたよ。素敵なクリスマスを!

 

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