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【鈴鹿央士の偏愛映画喫茶vol.18】80年代のライブ・シーンに圧倒される『プリンス/パープル・レイン』

【鈴鹿央士の偏愛映画喫茶vol.18】80年代のライブ・シーンに圧倒される『プリンス/パープル・レイン』

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鈴鹿央士 連載 鈴鹿央士の偏愛映画喫茶 
発表

   

“脳汁”が出た唯一無二の存在

 プリンスの存在自体は、とにかく有名なので中学生くらいから何となく知っていました。その後、高校生の時に『パープル・レイン』のライブ映像を見たらすごくカッコよくて。歌声も演出も衣装も、すべてを含めて唯一無二の感じがしました。照明も美しくて、後方で現代舞踏を踊るダンサーさんの前にプリンスがいて、イントロが流れて来た瞬間、人生で初めて“脳汁が出た~”ってなりました。うわぁ、これが脳汁か、って分かった(笑)。その時はこの映画の存在は知らなかったのですが、知ってからずっと観たいと思っていたんです。

鈴鹿央士 おすすめ 映画

『プリンス/パープル・レイン』
ブルーレイ 4,389 円(税込)/DVD 1,572円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメン
©️1984 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.


   

天才が下積み時代から放つ強烈な輝き

 プリンスは2016年に亡くなっていますが、本作は彼の自伝的な物語。大ブレイクして成功するまでではなく、『パープル・レイン』という、あの名曲が生まれるまでが描かれています。プリンスが演じる主人公のキッドは、地方都市のライブハウスでは既に人気があったんですね。下積み時代からずっと輝いてた人なんだな、と思いました。

 物語に盛り上がりや紆余曲折があって、大成功の直前までを色濃く描けるっていうのが面白い。僕の中では、どことなく大好きな音楽映画『シングストリート』とも重なりました。ただ、これが“ほぼ実話”ということは、プリンス自身が数年前の自分に戻ってキッドを演じているわけですよね。ライバルのバンドや周りの人たちもみな実名で本人役で登場しているので、全員、数年前に遡った自分を演じていることになる。それだけでも、すごく面白い映画ですよね。しかも「なんや、これ!?」って思うような、笑えるシーンもあったりします(笑)。

 例えば、キッドはスターを目指しているアポロニアという女性と惹かれ合うのですが、改造した派手なバイクに彼女を乗せて湖に行って、「夢をかなえるために湖で体を清めて誓いを立てなきゃいけない」みたいなことを言って湖に飛び込ませてからかったり。しかもその後、アポロニアがバイクに乗ろうとしたら、少し前に移動させて乗せなかったり。そんな悪戯、1回でいいのに結構しつこく3、4回くらい繰り返すんですよ。そういうところも、プリンスというかキッドの人柄のせいなのか、笑って観られてしまいます。


 ライブハウスでの出番を取り合うライバルのモリスが、アポロニアを口説こうとしてシャンパンを頼んだ時、カッコつけて「お釣りはいらないよ」とか言ったくせに、陰で「お釣りもらっといて」と頼んだり、ちょこちょこコメディ感があるのもクスッと笑えて面白かったですね。

   

80年代のパフォーマンスがすごい!

 キッドたちはもちろんですが、そのモリスのバンドのパフォーマンスも、昔っぽさはバリバリ感じるけれど、すごくミュージカル的でカッコ良かったです。ステージ上の人たちだけでなく、周りの観客や警察官まで踊っていたりして。そういうミュージカルっぽい演出も、とても好きでした。

 どこまでが本当に実話か分かりませんが、キッドはバイオレンスが日常的に存在する複雑な家庭で育っています。家に帰るとお父さんが、お母さんのことをよく殴っていて。そのことでキッドはバンド内でも荒れたりするのですが、ある時、アポロニアの言葉に激高して、彼女を殴っちゃうんです。そしてキッド自身が、殴ってしまったことにショックを受けていて……。自分もお父さんと同じじゃないか、と。

 そのお父さんは終盤、映画ではある悲劇を起こすのですが、その経験があってこそ「パープル・レイン」という楽曲が生まれたのかな、と思います。きっとお父さんの分まで自分が夢を叶えるんだ、という気持ちが生まれたんじゃないかな。お父さんの暴力は嫌だけど、お父さん自身を嫌っているようには見えなかったんですよね。お父さんがピアノを弾くシーンで、キッドが「また(曲を)作り始めたの!?」と聞く姿を見ても、お父さんの曲が好きなんだな、と感じました。


 キッドがバンドのメンバーに心を開かなかったり、他のメンバーが作った曲を聴こうとしないような言動も、強権的なお父さんと重なるな、と。キッドは“俺ひとりの力でやりたいんだ”という思いが強いのか、他のメンバーが作った曲を頑なに採用せず、聴こうともしないんですよ。

 でも、色んなことがあって、キッドは変わって行くんですよね。そしてついにバンドの仲間の曲を聴き『パープル・レイン』という名曲が生まれます。キッドが、お父さんが昔書いた楽譜を見つけるあたりから、ライブハウスで『パープル・レイン』を演奏するまでの流れがすごくいいんです。自分を変えたキッドに「偉い!」と思うのと同時に、やっぱりあのイントロが流れてきた時は鳥肌が立ちました。彼が成長していく姿が、美化されずに描かれていて面白かったです。

   

俳優という表現者としてのプリンス

 “あのプリンスがお芝居をしている!!”ということ自体もインパクトがありました。例えばアポロニアを殴ってしまった時の自分に衝撃を受ける表情、両親の喧嘩を見ているときの傷ついた表情などにキッドの弱さが出ていると感じて、スゴイな、と。特にそういう姿って人にあまり見せたくないものだから、それを俳優が本業ではない彼がやるというのはスゴイ。一人の表現者としてこの作品に取り組んだんだな、と思いました。


 中でも最も印象に残っているのは、キッドの家でアポロニアとキスするシーンです。キッドが後ろからアポロニアを抱いて、そこからキスする姿を少し引きで撮っているのですが、あの感じはスゴかった。相手に触れるお芝居は、その触れ方に関係性が出るし、距離感も出るし、すごく難しいなって僕はよく考えちゃうんです。でもプリンスは、それをメチャメチャ自然にやっていて。撮り方もお洒落でしたが、あれはプリンスの演技がスゴイ。あ、そんなに触るんだって……(笑)。

 改造バイクのデザインもギターも衣装も、プリンスの世界観はずっとカッコ良かったです。自分があの衣装を着たいとは思わないけれど(笑)、時代感の入った紫のスーツも、アポロニアたち3人がステージで歌って踊る、攻め攻めの衣装もすごかった!

 僕はミュージシャンとかアーティストではないので、キッドたちのように直接お客さんがどれだけ入っているかという“数”を目にすることはあまりないですが、そういう場所でライバルとバチバチ闘わせる対抗心も、「おーっ!!」となりながら観ていました。自分にはない感覚だな、と思いながら(笑)。もちろん80年代という時代だからこその文化だと思いますが、物語としても、あのバチバチの競争心がなかったら、あんまり面白くならないですよね。それ含めて“いい時代だな”と思うところがあります。各地方都市それぞれに、あれぐらい人気のショービジネスの場所があったんでしょうね。そんなエネルギーも感じました。


 僕個人的には、やっぱりカッコいいパフォーマンスやライブシーンを見られるのが嬉しかった作品です。もしプリンスをカッコいいと思ってない人だとしても、めちゃくちゃシュールで面白いシーンあるよ、って勧められるし、これを観てプリンスに興味を持ってくれたら、なお嬉しいですね! 僕は昨年のクリスマス、「アナザー・ロンリー・クリスマス」を聴いていましたが、これからプリンスをもっと深掘りしていきたいです。

   

鈴鹿央士 映画 個人的なツボ

 ツボと言えばやっぱり、圧巻のライブ・パフォーマンスです! 本作における音楽は、全部よかったし、スゴかったです! 普通の役者があのパフォーマンスをやってくれと言われても、多分出来ない(笑)。ライブのシーンを観た瞬間、プリンスという人の才能をひしひしと感じました。

彼もミュージシャンとして活動してきた中で、目にしてきたものや感じて来たものがあってこそ、ああいうシーンになったのだと思いました。キッドという役は、やっぱりプリンスにしかできない役でもあるな、と思いました。彼にとっては、いつも通りにやれば、ああいう風になったのかもしれないけれど、あんなスゴいライブシーンは何度も出来ないだろうから、カメラマンさんも1発で撮らなければならなかったんだろうな、と想像したり(笑)。あの撮影の舞台裏はどんな風だったのかな、とか。さすがに監督も、あんなパフォーマンスを見せられて「今の、もう1回」なんて言えないですよね(笑)。

特にモリスとアポロニアが喋りながらキッドのステージを見ているシーンのバラードが、すごく僕の心に突き刺さって強烈に覚えています。そしてやっぱり『パープル・レイン』という楽曲自体もツボですね。プリンスが書いた歌詞も深いことを言っているので、じっくり噛んで欲しいです。

© 1984 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

(1984年/アメリカ映画)
アメリカ北部ミネソタ州の工業都市ミネアポリス。人気のライブスポット「ファースト・アベニュー」で、紫色の衣装に身を包んだキッド(プリンス)が、バンド“ザ・レボリューションズ”を率いて客を熱狂させている。そこへスターを夢見るアポロニア(アポロニア・コテロ)がやって来て、プリンスの歌声に魅せられる。一方、店でNo.1のバンド、“ザ・タイム”を率いるモリス(モリス・デイ)は、キッドの人気と才能を妬み、オーナーのビリーにキッドをクビにしようと持ち掛けるが……。監督は、これが長編第1作となるアルバート・マグノーリ。

最近、映画館巡りにはまっています。この間は、新文芸座で「ウォン・カーウァイ特集」で、4Kで「花様年華」を観ました。確かラストはカンボジアだったと思うのですが、終盤トニー・レオンとマギー・チャンが、香港からシンガポールとか色々と追いかけっこしているみたいな展開が続くのですが、記憶より、そのエンディングがこんなにも長かったということに驚きました(笑)。目黒シネマなど、これから回ってみたい映画館が色々あるんです。やっぱり家のテレビで観るのとは全く違って、音も際立つし、映画は映画館で観るのがいいなぁ、と実感しています。


Text:Chizuko Orita

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