樅山 敦のラブソングのききかた

Track 8

チェット・ベイカー
『That Old Feeling』

 生まれてこのかたダントツの再生回数を誇る我最愛聴盤、圧倒的な輝きを放っているジャズ。20世紀を代表する名演名曲の数々の中、ぱあっと光が射すようなカリフォルニアのイメージ、透明感溢れる歌声、抜け感のあるトランペットが自由を感じさせてくれるこの曲。字面ではありきたりだけれど、どうしようもなくジャズを感じる。歌詞に“I”と“YOU”しか出てこないから、アレンジしやすく男性も女性も歌えるスタンダードナンバー。今も昔も、シンプルなラブソングは時代の風や波に関係なく普遍的になるんだね。
 
「焼け木杭に火がつく」ということわざがある。意味は「過去の恋人同士、縁が切れても元の関係に戻りやすい」である。“キミの姿が目に入り昔の気持ちが蘇った”“昔のように熱い想いをまた感じている”──1938年のミュージカル映画の主題歌、古いラブロマンス。昭和歌謡にも相通ずる一人の女性を愛し続ける男の美学、嫌いじゃないよ。“愛の種火がまだ灯っている 僕に新しい恋は要らない”──どんな別れ方をしたのか知らないが、心の底から愛した女性だったのでしょうね。“キミへの気持ちがまだ昔のまま残っているから”──女性も別れたことを後悔しているなら、この愛の種火は一気に燃え上がるでしょう!
 
 本当の愛は貰うものではなく取りに行くもの、愛し合う炎は美しい、でも僕の持論は「焼け棒杭に火はつかない」。だって前進あるのみでしょう! 変化は進化でしょう! 子どものころ、祖母に連れられて東京タワー、羽田空港、富士山、太平洋によく出掛けた記憶が鮮明にある。おそらく祖母の好みの場所だったと思うが、見下ろした大都会、大きな雲や星空、広い海に大きな山など、雄大で圧倒的なスケールのものを見せたかったのだと思う。物怖じしない人間に育つようにと。大人になって解った。
 
 いろいろな人と出逢い、相対した方が人生が豊かになるに決まっている。失恋したら東京タワーに登るといいよ! 見渡す限りのコンクリートジャングルに相応しい女性は必ず存在する。上手くいかない恋なんて男らしく諦め、反省して次につなげる。自分にはどんな人が合うのか、己を知り相手を洞察し、頭の中で整理しながら攻め続ければ必ず良い結果が得られると思う。

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